「乳がんです」——そう告げられた瞬間、頭が真っ白になる方がほとんどです。医師になって20年、乳がんの検診・診断の場面と、病気の終盤に寄り添う緩和ケアの両方に関わってきた私にとって、告知の瞬間は今も特別な重みを持ちます。
私の立ち位置を正直にお伝えすると、現在は乳がんの手術や抗がん剤治療には直接関わっておらず、「最初(検診・診断)」と「最後(緩和ケア)」を担っています。治療中の患者さんの生の声を日々聞ける立場ではありませんが、だからこそ診断直後の不安と、療養の終盤を見てきた経験から、客観的にお伝えできることがあると思っています。
この記事では、告知直後に「何をすべきか・何をしてはいけないか」を、その立場から正直にお伝えします。
1. まず、落ち着く時間を取っていい
告知されたその日は、何も決めなくていいです。
治療開始まで「少し待つ」ことが命取りになる、と思う方がいますが、ほとんどの乳がんは数日〜2週間の猶予があります。あわてて翌日に手術を決める必要はありません。
まずは帰宅し、信頼できる家族や友人と話す時間を作ってください。気持ちが落ち着いてから、次のステップに進みましょう。
2. 「告知の内容」をメモ・録音する
ショック状態では、医師の説明の半分も頭に入りません。これは意志の問題ではなく、ストレス下での脳の正常な反応です。
次回の診察前に、以下を整理しておくと役立ちます。
- がんの大きさ・ステージ(言われた場合)
- リンパ節への広がりの有無
- 提案された治療(手術・薬・放射線)
- 次の予約日時
**診察室での録音は、患者さんの権利として認められています。**遠慮なく「録音してもいいですか?」と聞いてください。
3. セカンドオピニオンを検討する
担当医を信頼していても、セカンドオピニオン(別の専門医の意見を聞くこと)は裏切りではありません。むしろ、治療を納得して受けるための大切な手段です。
セカンドオピニオンを勧める理由
- 乳がんの治療は施設・医師によって方針が異なることがある
- 自分の治療に納得感を持てると、治療中の精神的な支えになる
- 手術方法(温存か全摘か)など、選択肢が複数ある場合に特に有効
主治医の説明や治療の提案に納得していれば、貴重なお金や時間を使ってセカンドオピニオンの手続きをする必要はありません。ただ、別の選択肢があるのかどうか、それを確認しないままに治療方針を決めるのはもったいないと思います。
4. 治療の流れを大まかに知る
乳がんの治療は大きく3つです。
| 治療 | 内容 |
|---|---|
| 手術 | しこりを取り除く(温存または全摘) |
| 薬物療法 | ホルモン療法・化学療法・分子標的療法 |
| 放射線療法 | 温存手術後などに行うことが多い |
どの治療を、どの順番で行うかは、がんの性質(ホルモン受容体・HER2・Ki67など)によって決まります。「なぜこの治療順なのか」を主治医に聞くことを遠慮しないでください。
5. 仕事・家族への告知は「自分のペース」でいい
「すぐに職場に報告しなければ」「子どもに伝えなければ」と焦る必要はありません。
告知のタイミングは患者さん自身が決めていいことです。治療の見通しがある程度わかってから伝える方が、周囲も具体的に動きやすくなります。
特に子どもへの告知は、年齢に応じた言葉選びが必要です。「病気になったけど、治療をするから大丈夫」という基本メッセージを、シンプルに伝えることから始めるとよいでしょう。
6. やってはいけないこと——ネット情報の落とし穴
診断直後はインターネット検索をしたくなりますが、注意が必要です。
避けるべき情報源
- 「○○で治った」という個人ブログの体験談(症例が自分と同じとは限らない)
- 「抗がん剤は毒」「手術は不要」などの極端な主張
- 民間療法・サプリメントの広告(標準治療の妨げになることがある)
信頼できる情報源は以下です。
- 国立がん研究センター がん情報サービス
- 担当医・看護師・がん相談支援センター
標準治療は、世界中の研究データに基づいた「現時点で最も効果的な治療」です。怪しい情報に惑わされず、専門家と相談しながら進めてください。
7. 「がん相談支援センター」を使う
病院内にあるがん相談支援センターは、患者さんと家族が無料で相談できる窓口です。治療のことだけでなく、仕事・お金・家族への告知など、あらゆる悩みに対応しています。
担当医に聞きにくいことも、ここなら話しやすいと感じる方が多いです。がん診療連携拠点病院には設置が義務付けられており、他院の患者さんでも利用できます。
詳しくは国立がん研究センター がん情報サービス「がん相談支援センター」をご覧ください。お近くのがん相談支援センターはこちらから検索できます。
まとめ
乳がんの告知は、人生の中で最も動揺する瞬間のひとつです。しかし、正しい順番で動けば、ほとんどの乳がんは治療できます。
今日お伝えした7つのポイントを振り返ります。
- 告知当日は何も決めなくていい
- 説明内容をメモ・録音する
- セカンドオピニオンを検討する
- 治療の流れを大まかに理解する
- 家族・職場への告知は自分のペースで
- 怪しいネット情報に近づかない
- がん相談支援センターを活用する
このブログでは、乳がんや緩和ケアについて、専門医の立場から正確でわかりやすい情報をお届けしていきます。疑問や不安があれば、ぜひコメントや問い合わせからお気軽にどうぞ。
筆者:田舎の県庁所在地に住む医師。外科学会専門医・乳癌学会認定医。現在は乳がんの検診・診断と緩和ケアを専門に担当。