【お金・生活】ダブルケア——介護と子育てが重なるとき、抱え込まないための考え方

**「ダブルケア」**という言葉をご存じでしょうか。子育てと、親の介護が、同じ時期に重なる状態のことです。 晩婚化・晩産化が進み、子どもがまだ手のかかる年齢のうちに、親の介護が始まる——そんな家庭が、確実に増えています。仕事を持ちながらであれば、なおさら大変です。 私は医師として、患者さんのご家族がこの状況に直面する場面を、数多く見てきました。そして、私自身も、家族を支える時期を経験して、痛感したことがあります。それは—— 「全部、自分で抱えよう」とすると、いちばん先に、支える側が倒れる ということです。 この記事では、介護と子育てが重なったときに、抱え込まずに乗り切るための考え方を、医師として、そして一人の家族として整理します。まじめで責任感の強い方ほど、読んでいただけたらと思います。 1. まず、「自分が主治医をやめる」 医療にたずさわる人ほど、そして親思いの人ほど、親のケアまで自分でやろうとしてしまいます。通院の判断も、段取りも、全部自分で。 でも、そこは思い切って、プロと制度に「主治医役」を渡しましょう。 地域包括支援センターに相談する(介護の最初の窓口です) 要介護認定を、早めに申請する ケアマネジャーに、「もう自分だけでは限界です」と正直に伝える 「まだ大丈夫」と粘っているうちに、共倒れになるのが最悪のパターンです。制度は、使うために用意されています。早めに頼るのは、負けでも手抜きでもありません。 2. 「自分にしかできないこと」以外は、仕組みに手放す 次に考えたいのが、**「気合いで回す」のをやめて、「仕組みに置き換える」**ことです。 世の中には、頼れるサービスがたくさんあります。 介護保険のサービス(訪問介護・デイサービス・ショートステイ) 訪問看護/介護タクシー/通院の付き添い代行 家事代行・宅配・作り置きサービス 子ども側では、病児保育・ファミリーサポート・送迎サービス・シッター 「これくらい自分でやらないと」と思う気持ちは、いったん脇に置きましょう。あなたにしかできないこと(そばにいる、話を聞く、決断する)に集中し、それ以外はどんどん手放す。これが、長く続けるコツです。 3. 罪悪感は、「外部サービス代」に変えていい とはいえ、多くの方が、ここでブレーキを踏みます。 「他人にお願いするなんて、親不孝では」 「お金で解決するようで、気が引ける」 その気持ち、とてもよく分かります。でも、あえて言わせてください。 お金で時間と安全を買うことは、家族みんなの笑顔を守るための、いちばん正しい投資です。 サービス代を惜しんで、あなたが疲れ果ててしまえば、介護も育児も、仕事も続きません。罪悪感は、サービス代に変えていい。それで家族が穏やかに過ごせるなら、そのお金は「浪費」ではなく「投資」です。 日々の節約はもちろん大切ですが、ここぞという場面で「時間を買う」判断ができるかどうか。これは、家計管理のいちばん大事な使いどころだと、私は思っています。 4. 倒れる前に、職場へSOSを そしてこれは、医師である自分自身への戒めでもあります。責任感が強い人ほど、限界まで一人で粘ってしまう。 でも、冷静に考えれば、**最大のリスクは「支える本人が倒れること」**です。あなたが倒れたら、介護も育児も仕事も、すべてが止まります。 当直の免除や軽減 時短勤務、外来中心への切り替え こうした相談は、わがままではありません。「長く働き続けるためのリスク管理」です。 職場に伝えるときは、「家庭の事情で」とぼかすより、具体的に伝えるほうが理解を得やすいです。 「子どもの急な発熱と、親の通院が重なり、月に数回、予定の変更をお願いするかもしれません」 介護は、いつか誰もが直面すること。具体的に伝えれば、意外と理解は得られます。 そして、もし——具体的に伝えても、まったく理解が得られない職場であれば。そのときは、転職活動をして、職場を変えるのも、れっきとした選択肢です。 少し厳しい言い方になりますが、「人が一人抜けても仕事が回るようにする」のは、本来、管理者の仕事です。その体制を作らずに、いざというとき現場が回らなくなる——そういう職場のあり方こそ、私は無責任だと思います。「自分がいないと回らない」と感じるのは、責任感の裏返しでもありますが、その体制ができていない職場に勤め続けることを選んでいるのも、また自分自身だ、ということは、心のどこかに置いておいてよいと思います。 「自分の代わりなんている」と思われるのは、しゃくかもしれません。でも、代わりがきく仕組みを整えておくことこそ、プロの責任です。あなたが背負い込むことで、かろうじて成り立っている職場なら、その関係を見直す勇気も、ときには必要です。 5. いちばん守るのは、「子どもと、自分の余裕」 最後に、優先順位の話です。 介護と育児がぶつかったとき、私は**「子ども」と「自分の心の余裕」を優先していい**と考えています。少し冷たく聞こえるかもしれませんが、理由があります。 子どもには、親であるあなたしかいません 一方、親の側は大人で、お金や制度で対応できる部分が多い そして何より、あなたに余裕がないと、その余裕のなさは、いちばん弱い子どもに向かってしまう。イライラして、つい強く当たってしまう——これは、誰にでも起こりうることです。 だからこそ、自分を追い込みすぎない。仕組みとお金と職場の協力を使い倒して、子どもと穏やかに過ごせる余白を、なんとか確保する。それが結局、家族みんなを守ることにつながります。 補足:これは、あくまで筆者の考えです ここまで「手放す」「頼る」を中心に書いてきましたが、最後に、一つだけ但し書きを。 これは、あくまで私個人の参考意見です。 自分自身の手で、親を看る——そのことに、お金や制度では決して代えられない、計り知れない意味があるのも、また事実です。そばで支えた時間は、あとから振り返ったときに、かけがえのないものになります。それを選ぶ方の気持ちも、私はよく分かります。 私は、個人的には「抱え込むデメリットのほうが大きい」と感じているので、この記事はこうした方向性で書いています。でも、それが唯一の正解ではありません。 大切なのは、「自分で看る」ことと「頼る」こと、その両方のメリットとデメリットを、家族みんながちゃんと分かったうえで選ぶこと。そのうえでの選択なら、どの方向性も、等しく尊重されるべきだと思います。 まとめ 自分が主治医をやめる(地域包括支援センター・ケアマネに早めに頼る) 自分にしかできないこと以外は、仕組みに手放す 罪悪感は、外部サービス代に変えていい(時間と安全を買う投資) 倒れる前に、職場へ具体的にSOSを いちばん守るのは、子どもと、自分の心の余裕 ダブルケアは、頑張りだけで乗り切るものではありません。上手に頼り、上手にお金を使い、上手に手放す。それは、逃げでも甘えでもなく、大切な人と自分を守るための、賢い戦略です。 いま、まさに真っただ中にいる方へ。どうか、一人で抱え込まないでください。 ...

July 1, 2026 · 1 min