【乳がん】検査のとき、麻酔はしないんですか?——細胞診・針生検と「痛み」の話
乳腺の検査で、針を使って細胞や組織を採るとき——「麻酔はしてくれないの…?」。 そう口に出して聞かれることは、実はあまり多くありません。でも、患者さんの表情を見ていると、「痛いのに、どうして麻酔なしなんだろう」と感じておられるのが、伝わってきます。 これは、とても自然な疑問です。そして、麻酔をしないのは、決して「冷たいから」でも「手抜き」でもありません。ちゃんとした理由があります。この記事で、その"言えない疑問"にお答えします。 ※本記事は2026年7月時点の一般的な情報です。実際の検査や費用は、医療機関によって異なります。気になることは、遠慮なく担当医にお尋ねください。 1. 実は、検査によって「麻酔する・しない」が違います 乳腺で針を使う検査には、大きく2種類あります。 細胞診(さいぼうしん):とても細い針で、細胞を吸い取って調べる検査 針生検(はりせいけん):少し太い針で、組織のかたまりを採って調べる検査 そして、**細い針の細胞診は「麻酔なし」、太い針の針生検は「麻酔あり」**が基本です。同じ「針の検査」でも、扱いが違うのです。まずはここが、意外と知られていないポイントです。 2. 細胞診(細い針)で麻酔をしない理由——「麻酔のほうが痛い」から 細胞診で使うのは、髪の毛より少し太いくらいの、とても細い針です。 この細さだと、刺したときの痛みは、チクッとする程度で、一瞬で終わります。 ここに麻酔をしようとすると、どうなるでしょうか。麻酔をするにも、注射で針を刺して、薬を注入する必要があります。 その麻酔の注射の痛みが、細い針の検査そのものと同じか、むしろ痛いくらいなのです。 つまり、「痛みを減らすための麻酔のほうが、痛くなってしまう」。これでは本末転倒ですよね。だから細胞診は、麻酔なしで、サッと短時間で終わらせるのがいちばん患者さんの負担が少ない——そう考えられているのです。 3. 針生検(太い針)では、麻酔をします 一方、針生検は事情が変わります。 細胞診より太い針を使う バネの力で「パチン」と勢いよく針を進めることが多い 組織をしっかり採るため、何回か採取することもある この検査は、麻酔なしだと痛みが強くなります。ですから、針生検では、事前に局所麻酔をして、痛みをやわらげてから行うのが基本です。 「細い針は麻酔なし・太い針は麻酔あり」——これは、針の太さ(=痛みの大きさ)に応じた、理にかなった使い分けなのです。 4. 「細胞診にも麻酔してほしい」が、なぜ難しいのか 「それでも、細胞診でも麻酔してほしい」と思う方もいるかもしれません。ここには、実は日本の医療保険のしくみが関わっています。 少しややこしいのですが、日本では、同じ日の診察で「保険がきく検査」と「保険がきかない自費のサービス」を混ぜること(混合診療)が、原則として認められていません。 そのため、もし「細胞診に、希望で局所麻酔を追加」しようとすると、その日の診察・検査を、まるごと"自費(全額自己負担)“にする必要が出てきます。すると、費用はこう変わります(あくまで目安で、医療機関によって異なります)。 費用の目安 いつもの保険(3割負担)(乳腺エコー+細胞診の日) 約3,300〜6,900円 まるごと自費にした場合 1万〜2万円以上(自費は価格を自由に決められるため、さらに高くなることも) 細い針の"一瞬のチクッ"を避けるために、数千円で済む検査が、数万円になる——こう聞くと、多くの方が「それなら、我慢します」と思われるのではないでしょうか。 実際、この理由で自費を選ぶ方は、ほとんどいらっしゃいません。私自身、これまで一度も出会ったことがないほどです。 5. それでも、医師は「痛みを減らす工夫」をしています 麻酔をしない・できない場面でも、医療者は、少しでも痛くないように工夫をしています。 たとえば、針生検で麻酔をするときも、ただ薬を入れればよいわけではありません。局所麻酔というと、つい皮膚〜皮下に注目しがちですが、針の進入部位だけに麻酔するだけでは深部の痛みを取りきれないことがあります。そこで、乳房の奥のほう(深い部分)まで、痛みの伝わり方を考えながら麻酔を効かせる——そんな工夫をしています。腫瘍の大きさや皮下脂肪の厚みによっては、カテラン針(長めの針)を使い、通常よりも少し離れたところから刺して、乳腺の奥(背側)まで麻酔を届かせる工夫が必要になることもあります。 ほかにも、 針をできるだけ細く、手早く 声をかけながら、緊張をほぐす 「麻酔なし」と聞くと身構えてしまいますが、細胞診の痛みは、多くの方が「思ったより大丈夫だった」とおっしゃる程度のことがほとんどです。 まとめ 乳腺の針の検査は、細い針(細胞診)は麻酔なし・太い針(針生検)は麻酔ありが基本 細胞診で麻酔をしないのは、麻酔のほうが痛くなってしまうから 「細胞診にも麻酔を」が難しいのは、保険のしくみ上、その日をまるごと自費にする必要があり、費用が大きく上がるから それでも、医師は痛みを減らす工夫をしています 痛みへの不安は、当然のものです。「痛いのが怖い」「どのくらい痛いですか?」——そう思ったら、どうか遠慮なく、検査の前に担当医に伝えてください。 気持ちを聞いてもらえるだけでも、ずいぶん楽になるものです。 あわせて読みたい 検診で見つからない乳がん「中間期がん」とは ホルモン陽性・HER2陰性の早期乳がん——術後の『追加の治療』と『晩期再発』の話