「勤務医、年収◯◯万円でも生活が苦しい」——そんな話を、医師どうしの会話やネットで見かけることがあります。
世間の感覚からすれば「そんなに稼いでいて、何が苦しいの?」と思われるかもしれません。私自身、正直に言えば、かつては「なぜかお金が残らない」ことに、あまり無頓着でした。
でも、家計をきちんと見るようになって分かったのは、医師という職業には、高収入だからこそハマりやすい「お金が足りなくなる落とし穴」がある、ということでした。
この記事は、誰かを責めるためのものではありません。**私自身が「気づいて、家計管理を始めた側」**として、同じように感じている方——医師に限らず、収入が上がってきた方——と一緒に考えるための記事です。
落とし穴は、大きく3つあります。
落とし穴①:収入が上がると、生活も静かに膨らむ
いちばん大きいのが、これです。**「ライフスタイルインフレ」**とも呼ばれます。
手取りが増えると、人は無意識のうちに、
- 少しいい家に住み
- 少しいい車に乗り
- 少しいい店で食べ
- 子どもの習い事や塾を、少しずつ増やす
——と、生活水準を静かに引き上げていきます。一つひとつは「これくらいいいだろう」という小さな判断でも、積み重なると固定費が大きく膨らむ。
やっかいなのは、同じくらいの収入の人たちと付き合う機会が増えることです。周りの生活水準に、知らず知らず引っぱられていく。
そして怖いのは、支出を上げきったところで、収入が下がる瞬間が来ることです。医師で言えば、異動、当直の減少、働き方改革による外勤の制限、開業や転職。上げた生活は、そう簡単には下げられません。ここで家計が一気に苦しくなります。
落とし穴②:「見栄」と「借りやすさ」という二重の罠
医師には、「先生は裕福なはず」という社会的なイメージがついて回ります。これが、二つの意味で家計を圧迫します。
一つは、見栄。「医師なのに」という視線を意識して、高いものを選んでしまう。あるいは「これだけ働いているのだから、自分へのご褒美くらい」と、気が大きくなる。学会や付き合いの出費も、断りにくい。
もう一つ、こちらのほうが実は危険なのですが——**社会的信用が高いために、大きな借金が「簡単に組めてしまう」**ことです。
- 数千万円〜1億円近い住宅ローン
- 高級車のローン
金融機関は喜んで貸してくれます。でも、「借りられる額」と「無理なく返せる額」は別物です。信用があるがゆえに、身の丈を超えた買い物へのブレーキが効きにくい。ここは、収入が高い人ほど強く意識したいところです。
落とし穴③:稼いでいるのに「支援」から外れ、教育費は重い
意外と見落とされがちなのが、制度の壁です。
収入が一定を超えると、さまざまな行政サービスや給付に「所得制限」がかかり、使えないものが増えていきます。「稼いでいるのだから当然」と言われればそれまでですが、手取りの実感としては「税・社会保険料でごっそり引かれ、さらに支援も受けられない」となり、額面ほどの余裕を感じにくいのです。
そこに、教育費が乗ります。自分自身が受験を勝ち抜いてきた医師は、子の教育に力を入れる方が多い。私立、塾、習い事——気づけば、月々の教育費は相当な額になります。子どもの人数が多ければ、なおさらです。
「高収入なのに余裕がない」の正体は、この「支援の外・重い教育費・高い税負担」の合わせ技であることが少なくありません。
では、どうするか——「バランスシート」で現在地を知る
暗い話が続きましたが、対策はシンプルです。まず、自分の家計の「現在地」を数字で把握すること。これに尽きます。
私がやっているのは、家計簿アプリを使って、
- 毎月の収入と支出(何にいくら使っているか)
- 資産と負債の全体像(いわゆるバランスシート)
を、ざっくりでいいので定点観測することです。細かく完璧にやる必要はありません。「だいたいの流れ」が見えるだけで、判断が変わります。
面白いもので、「見える化」しただけで、無駄な支出は自然と減っていきます。「今までどれだけ無頓着に使っていたんだ」と気づくからです。実際、収入が下がった時期のほうが、かえって資産が増えていく——そんな話も、決して珍しくありません。支出をコントロールできれば、収入の増減に振り回されなくなるのです。
医師にとってのもう一つの強みは、定年後も細く長く働けること。慌てて無理をしなくても、収支を整えて長く働ければ、家計はちゃんと回っていきます。
まとめ——「稼ぐ力」と「守る力」は別のスキル
- ①生活は収入とともに静かに膨らむ(ライフスタイルインフレ)
- ②見栄と「借りやすさ」が身の丈を超えさせる
- ③支援の外・重い教育費・高い税負担の合わせ技で、額面ほど余裕がない
高収入は、それだけでは家計の安心を保証してくれません。「稼ぐ力」と、それを「守る力(使い方・管理)」は、まったく別のスキルだからです。
そして、守る力は、才能ではなく習慣です。家計を数字で見る——たったそれだけの一歩から始められます。私自身、そこから景色が変わりました。
「医師なのにお金が足りない」は、恥ずかしいことでも、特別なことでもありません。気づいた今日から整えればいい。そう思っています。
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