「がん治療費の心強い味方」である高額療養費制度が、2026年8月から段階的に見直されます。

結論:自己負担上限額が最大38%引き上げられます。患者・家族にとっては負担増となる改定です。

「いくら増えるのか」「自分は影響を受けるのか」「何か対策はあるのか」——この記事では、がん患者・家族の視点から、2026年8月の改定を分かりやすく解説します。

制度の基本については先に がん治療の医療費——高額療養費制度を知っておく をご覧ください。


1. なぜ改定されるのか

背景

  • 医療費の増大(高齢化・高額薬剤の登場
  • 健康保険財政の持続可能性確保
  • 応能負担」の強化(収入に応じた負担を)

改定の規模

1ヶ月の自己負担上限額を、今より4〜38%引き上げ
高所得層ほど引き上げ幅が大きい設計。

参考情報源:厚生労働省保険局「高額療養費制度の見直しについて」(令和7年12月25日 第209回社会保障審議会医療保険部会):https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001621844.pdf


2. 改定の全体像——2段階で進む

時期 内容
2026年8月 第1段階:69歳以下の自己負担上限を引き上げ(5区分のまま)
2027年8月 第2段階:所得区分を5区分→12区分に細分化

→ 2027年8月までに 計2回の改定が行われます。


3. 第1段階(2026年8月)の具体的な変更

69歳以下の方の月額自己負担限度額の引き上げ:

区分 年収目安 改定前(〜2026年7月) 改定後(2026年8月〜) 引き上げ額
約1,160万円以上 252,600円 + α 約270,300円 + α +17,700円
約770〜1,160万円 167,400円 + α 約179,100円 + α +11,700円
約370〜770万円 80,100円 + α 約85,800円 + α +5,700円
〜約370万円 57,600円 約61,500円 +3,900円
住民税非課税 35,400円 約36,900円 +1,500円

※「+ α」は医療費が一定額を超えた分の1%を加算

高所得層ほど影響大。区分ア(医師に多い)では月**+17,700円**の負担増。


4. 第2段階(2027年8月)——12区分への細分化

2027年8月からは、所得区分が 5区分から12区分に細分化されます。

細分化の意味

  • 現行の「区分ウ(年収370〜770万円)」は幅広く、実質的に同じ負担
  • これをより細かく区切ることで「収入に応じた負担」を強化
  • 結果として、中所得層〜高所得層で負担増

詳細はまだ確定中

具体的な12区分の負担額は2026年中に厚労省から正式発表される見込み。決定次第、本記事も更新予定。


5. 配慮措置——急激な負担増を抑える仕組み

改定にあたって、急激な負担増にならないよう配慮が設けられます。

配慮 内容
多数回該当 据え置き(過去12ヶ月で3回以上該当すると上限が下がる仕組みは維持)
年間上限額の新設 急激な負担増を抑えるため、年間ベースの上限が新たに設定される予定
高齢者(70歳以上) 別途段階的な検討中

長期治療を要するがん患者には、多数回該当が引き続き有効。


6. がん患者・家族への具体的な影響

区分ウ(年収370〜770万円、最も多い層)の例

項目 改定前 改定後(2026/8〜) 差額
月額上限 80,100円 約85,800円 +5,700円/月
年間負担増(毎月該当) 約+68,400円/年

→ 長期治療では年7万円弱の追加負担を見込む必要があります。

区分ア(医師の方が該当する層)の例

項目 改定前 改定後 差額
月額上限 252,600円 + α 約270,300円 + α +17,700円/月
年間負担増(毎月該当) 約+212,400円/年

→ 高所得層は年20万円の追加負担も。


7. 患者団体は反対声明

この改定について、全国がん患者団体連合会などから再検討を求める声明が出ています。

反対の論点

  • 治療継続が経済的理由で困難になるリスク
  • 生存権の侵害」につながりかねない懸念
  • 改定の周知期間が短い

参考情報源:東京新聞「『高額療養費』見直し、最大38%増」(https://www.tokyo-np.co.jp/article/458326


8. 患者・家族ができる対策

✅ 対策①:制度の最新情報を追う

  • 2026年8月以降の具体的な上限額を必ず確認
  • 自分の所得区分を把握しておく
  • マイナ保険証で限度額が自動適用されるので登録推奨

✅ 対策②:家計の見直し

  • 月+数千円〜2万円の負担増を家計に織り込む
  • 生活防衛資金の見直し(治療継続中の月収減も考慮)
  • iDeCo・NISAの生活余力を確認

✅ 対策③:制度の組み合わせ活用

制度 内容
多数回該当 過去12ヶ月で3回以上→上限引き下げ
医療費控除(確定申告) 年間10万円超の医療費を所得控除
付加給付(健保組合) 自己負担をさらに軽減(自分の保険証を確認)
傷病手当金 病気で働けない期間の所得保証(最長1年6ヶ月)

✅ 対策④:自治体・がん相談支援センターに相談

  • 経済的不安は一人で抱え込まない
  • 多くのがん診療連携拠点病院がん相談支援センターあり(無料)

国立がん研究センター「がん相談支援センターを探す」


9. 「民間がん保険」は加入すべきか

「改定で負担が増えるなら、民間がん保険に入った方がよい?」という質問が増えそうです。

結論

多くの方は不要——というのがリベ大的(私も同意する)立場です。

理由

  • 公的保険+高額療養費制度で大半をカバー
  • 改定後でも、多くの方は月数万円の自己負担で済む
  • 民間保険の保険料を生活防衛資金や投資に回す方が、長期的には合理的

ただし、以下のような方は「最低限の備え」を検討してもよい

  • 健保の付加給付がない(協会けんぽ等)かつ高所得層
  • 自営業(傷病手当金がない)
  • 生活防衛資金が不十分

ただし、これらの方にも民間医療保険を強く推奨するものではありません

大切な原則

**保険の目的は「生活が破綻しないこと」**であって、「儲けること」ではありません。

  • 民間の医療保険で入院日額1万円もらっても、保険料の累計を考えれば長期的に元を取るのは難しい設計になっています
  • 日本の公的保険(健康保険+高額療養費制度)は世界的にもかなり充実しており、大半の方の医療費は十分にカバーできます
  • 余裕資金は、保険料に回すより生活防衛資金・NISA・iDeCoに振り向ける方が、長期的には合理的なケースが多いです

→ 「今の生活防衛資金で、もしもの時に生活破綻しないか」を冷静に分析し、不足するならまず貯蓄を増やすのが第一手。民間保険は最後の選択肢です。


まとめ

  • 2026年8月から段階的に高額療養費制度の自己負担上限が引き上げ
  • 第1段階(2026/8):69歳以下の月額上限を**+1,500〜17,700円**
  • 第2段階(2027/8):所得区分が5→12区分に細分化
  • 多数回該当は据え置き、年間上限が新設される
  • 年収370〜770万円の方で年約7万円増、高所得層では年20万円増
  • 対策:最新情報を追う・家計見直し・制度の組み合わせ活用・相談センター利用
  • 民間がん保険は多くの場合不要(公的制度で十分)

「制度が変わる」と聞くと不安になりますが、正しい情報を持ち、対策を立てることで備えられます。 お金の不安が治療の妨げにならないよう、家計の見直しと相談先の確保を進めましょう。


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参考情報源


筆者:田舎の県庁所在地に住む医師。外科学会専門医・乳癌学会認定医。現在は乳がんの検診・診断と緩和ケアを専門に担当。医師になって20年。