「NISAの含み益がかなり出ている。下がる前に、いったん売っておいた方がいいですか?」

株価が上がった局面で、必ず出てくる質問です。以前の記事で「投資は目的が決まって初めて手段が決まる」という買う側の話を書きましたが、今回はその続編——**売る側(利確)**の話です。

結論から言うと、この質問には株価をいくら眺めても答えが出ません。**売り時を決めるのは、株価ではなく「そのお金の目的」**だからです。

※特定の銘柄・商品の売買を勧めるものではありません。投資にはリスクがあり、元本は保証されません。最終的な判断はご自身で。


「結構進んだので、降りた方がいいですか?」

お金の学びの場で、こんな例え話を見かけました。

電車に2時間乗って、結構進みました。そろそろ降りた方がいいでしょうか?

——と聞かれたら、誰でもこう聞き返すはずです。「どこに行く予定だったんですか?」

目的地が分からなければ、降りるべきかどうかは誰にも答えられません。投資もまったく同じです。投資は手段であって、電車やバスと同じ「乗り物」です。「結構増えたから売る」は、「結構進んだから降りる」と言っているのと同じで、目的地の確認が抜けています

「下がる前に売っておきたい」という気持ちの正体は、多くの場合、そのお金が何のためのお金か決まっていない不安です。

医師として、この構図には見覚えがあります

「腫瘍が小さくなってきたので、治療をやめていいですか?」

外来でこう聞かれたら、私たちは治療のゴールを確認します。根治を目指す治療なのか、症状を抑えてQOLを保つ治療なのか——ゴールが違えば、「腫瘍が小さくなったからやめる/続ける」の答えは正反対になります。

途中経過の数字(腫瘍の大きさ・株価)だけでは、やめどきは決められない。ゴールが決めてくれる。——医療も投資も、この構図は同じです。

目的別に整理すると、答えはシンプルになる

そのお金の目的 置き場所の考え方
数年以内に使う予定がある(学費・住宅・車など) 通貨(現金・預金)で持つ——支払いの直前に暴落が来ても困らないように
長期的に資産を育てる・維持する 株式(インデックス等)のまま持ち続ける——短期の上下に付き合わない
目的の金額にもう到達した 早めに利確して現金化するのは十分アリ

3行目が今日の主役です。たとえば「子どもの大学資金として500万円」が目標で、高校2年生の時点でもう500万円に到達したなら——残り2年の間に暴落が来るリスクを避けて利確するのは、まったく合理的な判断です。これは「上がったから売る」のではなく、「目的を達成したから降りる」。同じ売却でも、意味がまるで違います。

逆に、老後のための長期資産なら、含み益がいくらあっても目的地はまだ先です。途中下車して、また乗り直すタイミングを探す必要はありません。

「利回りがいいから売る」は、終わりのないゲームの入口

もうひとつ、注意したい売り方があります。「ずいぶん利回りが良かったから、いったん確定させよう」——一見堅実に聞こえますが、売って得た現金は、結局また次の投資先を探すことになります。

つまり「良いタイミングで売って、良いタイミングで買い直す」を繰り返す発想で、これは短期トレーダーの考え方です。プロでも勝ち続けるのが難しい世界に、気づかないうちに足を踏み入れることになります。長期の資産形成でインデックスを積み立ててきた人が、この入口をくぐる必要はありません。

筆者の場合——売り時は「先に」決めてある

筆者はライフプランを作る中で、お金を目的別に分けています。

  • 数年以内に使うお金(教育費など):投資とは分離して、収入と預貯金から
  • 長期のお金:インデックスで積み立てたまま、日々の株価は見ない
  • 取り崩し:将来の生活費として「いつから・何のために」使うかを先に決めてある

こうして売り時を「先に」決めておくと、株価が上がっても下がっても、やることが変わりません。「下がる前に売るべき?」という問いが、そもそも発生しなくなるのです。これは意思の強さの問題ではなく、設計の問題でした。

まとめ

  • 「上がったから売る?」への答えは株価にはない。**「何のためのお金か」**が決める
  • 数年以内に使うお金は通貨で、長期のお金は株式のまま——置き場所は目的で決まる
  • 目的の金額に到達したなら、早めの利確は堅実な選択(「達成したから降りる」)
  • 「利回りがいいから売る」は短期トレーダーの入口。長期投資家は付き合わなくていい
  • 売り時は相場を見て探すものではなく、ライフプランの中で先に決めておくもの

腫瘍の大きさだけで治療方針が決められないように、株価だけで売り時は決められません。先にゴールを決める——買うときも、売るときも、順番はいつも同じです。


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筆者:田舎の県庁所在地に住む医師。外科学会専門医・乳癌学会認定医。現在は乳がんの検診・診断と緩和ケアを専門に担当。医師になって20年。 お金の勉強はリベラルアーツ大学(リベ大)を参考にしています。