NISAが拡充されて、「もうiDeCoは要らないのでは?」という声をよく聞くようになりました。一方で、「高所得者ほどiDeCoを使わないと損」という正反対の意見もあります。
どちらが正しいのでしょうか。答えは「人による」——なのですが、それで終わっては役に立ちません。この記事では、どこで答えが分かれるのか、その分かれ道を整理します。結論を先に言うと、分かれ道は2つ。**あなたの「税率」と「出口(退職金)」**です。
なお、筆者自身が「12月の限度額引き上げで増額すべきか」を悩んだ経緯は別記事に書きました。今回はその続編として、読者のみなさんが自分で判断するための軸をまとめます。
※制度の内容は2026年7月時点のものです。税制・年金制度は変わることがあります。個別の判断は最新の公式情報をご確認ください。
まず構造を比べる——2つの制度は「非課税のかかる場所」が違う
| NISA | iDeCo | |
|---|---|---|
| 入口(拠出時) | 優遇なし | 掛金が全額所得控除(税率分が戻る) |
| 運用中 | 非課税 | 非課税 |
| 出口(受取時) | 非課税 | 課税(ただし退職所得控除等が使える) |
| 引き出し | いつでも可 | 原則60歳まで不可 |
NISAは「出口が完全に非課税で、いつでも使える」制度。iDeCoは「入口で税金が戻る代わりに、60歳まで拘束され、出口は控除しだい」の制度です。
つまりiDeCoの損得は、**入口でどれだけ戻るか(=税率)**と、**出口でどれだけ非課税にできるか(=退職所得控除の空き)**で決まります。これが2つの分かれ道です。
分かれ道①:税率——入口で戻る金額が人によって全く違う
iDeCoの掛金は全額所得控除なので、戻ってくる税金はその人の税率に比例します。
| 課税所得の目安 | 所得税+住民税の税率 | 月2.3万円(年27.6万円)拠出で戻る額 |
|---|---|---|
| 約200万円 | 約20% | 年約5.5万円 |
| 約500万円 | 約30% | 年約8.3万円 |
| 約900万円超 | 約43% | 年約11.9万円 |
| 約1,800万円超 | 約50% | 年約13.8万円 |
同じ掛金でも、戻る額には2倍以上の差があります。税率50%の人にとっては、「27.6万円拠出すると13.8万円戻る=実質手出し約14万円で27.6万円を非課税運用に回せる」計算になり、これは入口優遇のないNISAにはない効率です。
逆に税率が低い人は入口メリットが小さいので、「60歳まで引き出せない」という拘束のデメリットの方が相対的に重くなります。税率が低いうちはNISA優先、が素直な順番です。
分かれ道②:出口——退職所得控除は「空いているか」
iDeCoを一時金で受け取るときは退職所得控除が使えます。たとえば勤続38年なら約2,060万円まで税金がかからない大きな枠です。
ポイントは、この枠を勤務先の退職金と分け合うことです。
- 退職金がない・少ない人:控除枠が丸ごと空いている → iDeCoの出口はほぼ非課税にできる=iDeCoが最も輝く属性
- 退職金がしっかりある人:控除枠は退職金でかなり埋まる → iDeCoの受取に税金がかかりやすい。さらに2026年1月施行の**「10年ルール」**(iDeCo一時金と退職金の間隔が10年未満だと控除が調整される)で、受け取り時期をずらして両方の控除を使う戦略も難しくなりました
自分の勤務先に退職金制度があるか・いくらくらいか——iDeCoを増やす前に確認すべきは、実はここです。
2つの軸で整理すると、自分の位置が見える
| 出口が空いている(退職金なし・少) | 出口が埋まっている(退職金あり) | |
|---|---|---|
| 税率が高い | iDeCo併用の効率が最大。NISAと並行して活用を検討 | 入口は有利だが出口で課税。受け取り方の設計が必要 |
| 税率が低い | 入口メリット小。まずNISAから | NISA優先でシンプルに。iDeCoは無理に使わなくてよい |
そして、この表の手前に置くべき条件が2つあります。
- 数年以内に使うお金は、そもそもどちらにも入れない(売り時の記事で書いたとおり、近い支払いは通貨で持つ)
- 60歳まで触れなくて本当に困らないか——教育費・住宅などの大きな支出が控えている時期は、同じ非課税でも「いつでも出せるNISA」の価値が上がります
よくある誤解——iDeCoは「節税」ではなく「課税の繰り延べ」
「iDeCoは節税になる」という表現には注意が必要です。正確には、入口の控除は確実ですが、出口は課税(控除しだい)——つまり課税を将来に繰り延べる制度です。
入口で戻った税金だけを見て満額に飛びつくと、出口で思わぬ税負担に驚くことになります。逆に、「60歳まで引き出せないから」と一律に避けるのも、税率と出口の条件がそろった人にとってはもったいない。どちらの極論も、自分の2軸を確認していない点で同じです。
筆者自身、この2軸に自分の数字を当てはめ直して、一度出した結論を変えました(その経緯はこちら)。制度の優劣ではなく、自分の税率と出口がどうか——結局はそこに戻ってきます。
まとめ
- NISAとiDeCoは優劣ではなく非課税のかかる場所が違う(NISA=出口・流動性、iDeCo=入口)
- 分かれ道①税率:高いほどiDeCoの入口メリット大。低いうちはNISA優先
- 分かれ道②出口:退職所得控除が空いている人(退職金なし・少)ほどiDeCoが活きる。退職金がある人は10年ルールに注意
- 手前の条件:近い将来使うお金はどちらにも入れない・60歳までの拘束に耐えられるか
- 「iDeCo不要論」も「iDeCo満額論」も、自分の2軸を見るまでは判断できない
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参考
- 資産形成の基本(長期・積立・分散)|金融庁 NISA特設ウェブサイト
- 楽天証券「【2026年12月制度改正】iDeCoの加入可能年齢・拠出限度額が引き上げ」
- auのiDeCo「退職所得が増税に?令和7年度税制改正により5年ルールが10年ルールに」
筆者:田舎の県庁所在地に住む医師。外科学会専門医・乳癌学会認定医。現在は乳がんの検診・診断と緩和ケアを専門に担当。医師になって20年。 お金の勉強はリベラルアーツ大学(リベ大)を参考にしています。