浸潤性小葉がん(ILC)——マンモグラフィで見つかりにくい「2番目に多い乳がん」

乳がんには、いくつかの「タイプ(組織型)」があります。その中で、いちばん多いのが浸潤性乳管がん。そして2番目に多いのが、今回お話しする**浸潤性小葉がん(ILC:Invasive Lobular Carcinoma)**です。 乳がん全体の約10〜15%を占める、決してまれではないタイプ。にもかかわらず、ILCには知っておいてほしいやっかいな特徴があります。 しこりを作りにくく、マンモグラフィでも見つかりにくい。 この記事では、ILCの特徴と、見逃さないために知っておきたいことを、患者さん・検診を受ける方向けに説明します。 ⚠️ 不安をあおる意図はありません。ほとんどの乳がんは検診や受診で見つかります。「こういうタイプもある」と知っておくことが、上手な検診の受け方につながる、という話です。 なぜ「見つかりにくい」のか 乳がんの多くは、がん細胞がかたまり(腫瘤)を作って増えるので、「しこり」として触れたり、マンモグラフィに白い影として写ったりします。 ところがILCは、増え方が違います。がん細胞どうしをくっつける接着剤(E-カドヘリンというタンパク質)が失われているため、細胞が一列に、じわじわと染み込むように広がっていきます。 その結果—— はっきりしたしこりを作りにくい(触ってもわかりにくい) マンモグラフィでも、明瞭な影や石灰化として写りにくい 「乳房の一部がなんとなく硬い・厚い・ひきつれる」といった、ぼんやりした変化として現れることがある つまり、典型的な「コリッとしたしこり」を探していると、すり抜けてしまうことがあるのです。 どんな変化に気づいてほしいか ILCは、明確なしこりよりも、こんなぼんやりした変化で現れることがあります。 乳房の一部に、面でひろがる硬さ・厚みを感じる 左右を比べて、片方の手触りや形がなんとなく違う 皮膚や乳頭に、ひきつれ・へこみが出てきた 「コリッとしたしこり」ではないので見過ごしやすいのですが、「いつもと違う感じ」が続くなら受診——これがILCに対する一番の備えです。 検診では「組み合わせ」が力になる ILCはマンモグラフィ単独だと見つけにくいため、状況に応じて複数の検査を組み合わせることが有効と考えられています。 検査 ILCに対する役割 マンモグラフィ 基本だが、ILCは写りにくいことがある 超音波(エコー) しこりを作らない病変も捉えやすい トモシンセシス(3Dマンモ) 通常のマンモより病変を見つけやすい 造影MRI 広がりの評価に特に有用 どの検査が必要かは、乳房のタイプ(高濃度乳房かどうか)や症状によって変わります。「自分にはどの検査が向いているか」を、検診の場や乳腺外来で相談してみてください。 検診でマンモグラフィを受けて「異常なし」でも、気になる症状が続くときは、超音波などの追加検査を相談する価値があります。これは以前書いた「中間期がん」——検診の合間に出てくるがん——の話とも共通します。 治療について——タイプに合わせた考え方 ILCは、最も多い浸潤性乳管がんとは性質が少し異なるため、治療の考え方にも特徴があります。 多くのILCはホルモン受容体陽性で、ホルモン療法が治療の柱になりやすい 一方で、手術前の抗がん剤(術前化学療法)が効きにくい傾向があるとされ、治療の組み立てに工夫が要る 近年は、ILCの特徴(E-カドヘリンの欠失など)に着目した新しい薬の研究も進んでいます。ただし、これらの多くはまだ臨床試験などの研究段階で、すぐに標準治療として受けられるものではありません。「研究が進んでいる」という事実は希望ですが、過度な期待は禁物です。 ILCは「2番目に多い」のに、これまで研究でひとまとめに扱われがちで、専用の研究が少なかった領域です。近年、ILCを独立した集団として詳しく調べる国際的な動きが出てきており、今後の進展が期待されています。 まとめ 浸潤性小葉がん(ILC)は、乳がんで2番目に多いタイプ(全体の約10〜15%) がん細胞が一列に染み込むように広がるため、しこりを作りにくく、マンモグラフィでも見つかりにくい 明確なしこりより、面の硬さ・厚み・ひきつれなど「ぼんやりした変化」で出ることがある マンモ単独に頼らず、超音波・MRIなどの組み合わせが力になる。気になる症状は追加検査を相談 治療はホルモン療法が柱になりやすい。ILC専用の新しい研究も進行中(ただし多くは研究段階) 大切なのは、必要以上に怖がることではなく、「こういうタイプもある」と知っておくこと。そして、「いつもと違う」が続くときに、遠慮せず相談すること。それが、見つけにくい乳がんから自分を守る一番の方法です。 関連記事 検診で見つからない乳がん「中間期がん」とは マンモグラフィと超音波(エコー)、どう違う? 乳がんの病理検査の結果、どう読む? 参考 国立がん研究センター がん情報サービス「乳がん」 乳癌診療ガイドライン2022年版|日本乳癌学会 医師向け媒体における浸潤性小葉がんに関する国際的なレビューの紹介をもとに、筆者の臨床経験を加えてまとめたものです。 筆者:田舎の県庁所在地に住む医師。外科学会専門医・乳癌学会認定医。現在は乳がんの検診・診断と緩和ケアを専門に担当。医師になって20年。

June 11, 2026 · 1 min

乳がん検診で「カテゴリー3」と言われたら——意味と、その後にすること

乳がん検診の結果通知に、「カテゴリー3」「要精密検査」と書かれていた——。 そう聞くと、「がんかもしれない」と頭が真っ白になってしまう方は少なくありません。 ですが、まず落ち着いてください。カテゴリー3は「がんと診断された」という意味ではありません。 この記事では、検診で乳腺の診断に携わる筆者の視点から、カテゴリー3の本当の意味と、その後にすべきことを整理します。 1. 「カテゴリー」とは何か マンモグラフィや乳腺エコー(超音波)の検診結果は、NPO法人 日本乳がん検診精度管理中央機構(精中機構) が定めた基準に沿って、1〜5の5段階で判定されます。 これは「画像の所見が、どのくらい悪性(がん)を疑うか」を表す目安です。 カテゴリー 意味 検診での扱い 1 異常なし 精検不要 2 良性 精検不要 3 良性、しかし悪性を否定できず 要精密検査 4 悪性の疑い 要精密検査 5 悪性を強く疑う 要精密検査 **カテゴリー3以上が「要精密検査(要精検)」**となります。 2. カテゴリー3の意味——「良性寄りだが、念のため確認」 カテゴリー3は、文字どおり「良性の可能性が高いけれど、画像だけでは悪性を完全には否定できない」という判定です。 ポイントは2つです。 「悪性の疑いが強い」わけではない(それはカテゴリー4・5) でも「100%良性」とも言い切れないので、確認のために精密検査をしましょう、という段階 つまりカテゴリー3は、「クロ」でも「シロ」でもなく、「念のため確かめましょう」のグレーな状態だと考えてください。 3. カテゴリー3=がん、ではない——数字で見る ここが最も大切なところです。結論から言うと、カテゴリー3で精密検査を受けても、その多くは良性と分かります。 具体的な数字を見てみましょう。ただし、以下の数値は報告・施設・自治体によって幅があることを前提にお読みください。対象年齢・読影基準・地域などによって変わるため、「だいたいの目安」として理解してもらうのが正しい読み方です。 カテゴリー3で乳がんが見つかる割合:報告により幅がありますが、おおむね数%〜10%程度とされています。言いかえると、少なくとも約9割の方は良性です。 検診全体で見ると、次のような数字が知られています(いずれも全国平均的な目安で、報告により差があります)。 指標 おおよその目安 要精密検査となる人(要精検率) 受診者の約5〜8% 要精検のうち実際にがん(陽性的中率) 約3〜5%程度 受診者全体のがん発見率 約0.2〜0.3%(千人に2〜3人) これらの数字が示すのは、「要精密検査=がん、ではない」という事実です。要精検は「がんを見逃さないために、念のため詳しく調べる」という検診の仕組みそのもので、その大半は最終的に「異常なし」または「良性」となります。 不安なのは当然です。ですが、過度に怖がる必要はありません。同時に、「どうせ良性だろう」と精密検査を受けないのは禁物です(後述)。 4. なぜ「要精密検査」になるのか 検診のマンモグラフィやエコーは、短時間で多くの人を調べるための検査です。そのため、 しこり(腫瘤)のように見える影 石灰化(カルシウムの沈着)の集まり 左右差・構築の乱れ などがあると、「良性だとは思うが、念のため精密検査で確かめたい」という判断になります。 良性のしこりや、良性の石灰化でもカテゴリー3になることはよくあります。 5. 精密検査では何をするのか 精密検査は、検診よりも詳しく・ていねいに調べる検査です。所見に応じて、次のような検査を組み合わせます。 検査 内容 乳腺エコー(超音波) しこりの性状を詳しく観察。痛みも被ばくもない 追加のマンモグラフィ 拡大撮影・スポット撮影などで石灰化を精査 針生検(細胞診・組織診) 細い針で細胞・組織を採取して顕微鏡で確認 乳房MRI 必要に応じて、広がりや性状をさらに評価 多くの場合、エコーや追加のマンモグラフィだけで「良性」と確認できて終了します。針生検まで必要になるのは、より詳しい確認が要るケースです。 ...

May 25, 2026 · 1 min

乳がん検診——マンモグラフィと超音波、どちらを受ければいい?

「検診を受けたいけど、マンモグラフィと超音波のどちらが良いのか分からない」——そんな相談を診察室でよく受けます。 結論から言うと、どちらが「正解」というわけではありません。それぞれに得意なことと苦手なことがあり、年齢や乳房の状態によって向き不向きがあります。この記事では、乳腺外科医として20年診療してきた立場から、分かりやすく解説します。 1. マンモグラフィとは マンモグラフィ検査のイメージ(イラスト:いらすとや) マンモグラフィは、乳房をX線で撮影する検査です。乳房を2枚の板で挟んで圧迫しながら撮影するため、「痛い」というイメージを持つ方も多いですが、この圧迫によって薄く広げることで小さな病変を見つけやすくしています。 得意なこと: 石灰化(カルシウムの沈着)の発見 非浸潤性乳管がん(乳管を這って広がるタイプ)の検出 広い範囲を一度に確認できる 過去の撮影データと比較しやすい(同じ病変が同じ場所にある場合、経年変化を確認できる) 苦手なこと: 乳腺密度が高い(いわゆる「高濃度乳房」)の場合、がんが隠れて見えにくい 若い方や授乳中の方には不向き 対象となりやすい方: 40歳以上の方。日本の対策型検診(自治体の検診)では、40歳以上の女性に2年に1回のマンモグラフィが推奨されています。 参考情報源:国立がん研究センター がん情報サービス「乳がん 検診」(https://ganjoho.jp/public/cancer/breast/screening.html) 2. 超音波検査(エコー)とは 乳腺エコー検査のイメージ(イラスト:いらすとや) 超音波検査は、プローブ(探触子)を乳房にあてて、音波の反射で内部の様子を画像化する検査です。痛みはなく、放射線も使いません。 得意なこと: 乳腺密度が高い方でも病変を見つけやすい しこり(腫瘤)の性状(良性か悪性かの判断の手がかり)を詳しく確認できる リアルタイムで動かしながら観察できる 苦手なこと: 石灰化の検出はマンモグラフィよりも不得意 検査者の技量に左右される部分がある 広範囲を短時間で確認するのはマンモグラフィより難しい 対象となりやすい方: 40歳未満の方、高濃度乳房の方、妊娠中・授乳中の方。 3. 「高濃度乳房」とは何か 近年、「高濃度乳房(デンスブレスト)」という言葉をよく耳にするようになりました。 乳房の中には乳腺組織と脂肪組織があり、マンモグラフィで乳腺組織が多い状態を「高濃度乳房」と呼びます。日本人女性の約40〜50%が該当すると言われています。 高濃度乳房では、マンモグラフィでがんが白い乳腺組織に隠れて見えにくくなります。このため、マンモグラフィの結果が「異常なし」でも油断できない場合があります。 自分が高濃度乳房かどうかは、マンモグラフィを受けた際に結果票や医師から教えてもらえます。高濃度乳房と言われた方は、超音波検査の追加を検討することをおすすめします。 参考情報源:日本乳癌検診学会「高濃度乳房について」(https://www.jabcs.jp/) 4. どちらを受ければいいか——年代別の目安 年代 推奨される検査 30代 超音波(乳腺密度が高いことが多い) 40代 マンモグラフィ+超音波の併用が理想 50代以降 マンモグラフィ中心(脂肪化が進み見えやすくなる) ただし、これはあくまで目安です。高濃度乳房の方、家族に乳がんの方がいる方、以前に乳房に関する指摘を受けたことがある方は、年齢に関係なく主治医と相談して検査方法を決めることをおすすめします。 5. 自治体検診と人間ドックの違い 自治体検診(対策型検診): 40歳以上を対象に2年に1回 マンモグラフィのみが基本 費用は数百〜2,000円程度(自治体による) 人間ドック・任意型検診: 年齢制限なし、毎年受けられる マンモグラフィ+超音波の併用も可能 費用は1万円前後 自治体検診は費用が安く受けやすい反面、超音波が含まれないことが多いです。特に30〜40代前半の方や、高濃度乳房の方は、人間ドックや乳腺外科への自費受診で超音波も合わせて受けることを検討してください。 まとめ マンモグラフィ:石灰化の発見に強い、40歳以上に向いている 超音波:しこりの発見に強い、若い方・高濃度乳房の方に向いている 理想は併用:どちらか一方より、組み合わせることで見落としを減らせる 高濃度乳房の方は、マンモグラフィだけでなく超音波も検討を 「どちらを受けるべきか分からない」という方は、まず地域の乳腺外科や婦人科に相談してみてください。検診の種類よりも、受けないよりは受けることが何より大切です。 ...

April 28, 2026 · 1 min