「せっかく仕事を選んでも、AIに奪われたらどうしたらいいの?」

最近、そんな言葉を聞く機会が増えました。高校生や中学生の子どもたちが、進路を考えながら抱く不安です。

医師として20年、診察室でも同じような言葉を耳にします。がん治療中の患者さんが「私がいなくなった後、子どもが生きていける社会なのか心配で」と話してくれることがあります。その言葉の重さを受け止めながら、私自身も医師として、そして一人の親として、この問いをずっと考えてきました。


医療現場にもAIはやってきた

まず、私が働く医療現場の話をさせてください。

乳がんの診断には、マンモグラフィや超音波検査の画像を読むスキルが欠かせません。近年、この画像診断をAIが支援するシステムが急速に普及しています。電子カルテへの入力補助、問診の自動化、病理画像の解析——医療の現場でも、AIはすでに「使うもの」になっています。

では、医師は必要なくなるのか?

私はそう思いません。AIが得意なのは、大量のデータからパターンを見つけることです。しかし、目の前の患者さんが「どう生きたいか」を聞き、そこに寄り添う判断はAIにはできません。がんの告知の場面で、患者さんの表情を読みながら言葉を選ぶのも、深夜に急変した患者さんの家族に電話をかけるのも、人間にしかできない仕事です。

AIは道具です。聴診器が登場したとき、レントゲンが登場したとき、医師の仕事は消えませんでした。むしろ、より多くの患者さんを助けられるようになりました。


「どの仕事が残るか」は誰にも分からない

子どもたちが心配するのは自然なことです。でも、正直に言えば、10年後・20年後にどの職業が残っているかは、私にも、AIの専門家にも、誰にも正確には分かりません。

医師になった20年前、私はスマートフォンもSNSも知りませんでした。当時「Webライター」や「YouTuber」という職業を知っている人はほとんどいなかったはずです。逆に、銀行の窓口業務や旅行代理店のカウンター業務は、当時の水準より大幅に縮小しています。

変化を予測することより、変化に対応できる力を育てることの方が、ずっと重要だと私は考えています。


変化に強い人が持っている3つのもの

私が診てきた患者さんや、同僚の医師たちを見ていて感じることがあります。時代が変わっても活躍している人には、共通するものがあります。

1. 学び続ける姿勢

資格を取ったら終わり、ではない人たちです。新しい治療法が出れば勉強する、AIが使えると聞けば試してみる。「まず触ってみる」という好奇心が、変化への対応力を生みます。

2. 「人の困りごとを解決する」という感覚

仕事の本質は、誰かの困りごとを解決してお金をいただくことです。これはAIが登場しても変わりません。診察室でも、学校でも、会社でも、「この人が何に困っているか」を感じ取る力が、あらゆる仕事の核心にあります。

3. コミュニケーションの力

医療の世界では特に感じます。知識や技術が同じでも、患者さんや家族、チームのメンバーと信頼関係を築ける人と、そうでない人では、仕事の質も広がり方も違います。AIに最も難しいのが、人と人の間に生まれる信頼の構築です。


「好きなこと」を軸にしていい理由

進路相談でよく聞かれます。「安定している職業を選んだ方がいいですか?」

私の答えはいつも同じです。「続けられることを選んでほしい」。

どんな仕事も、長く続けて初めて深みが出ます。好きではないことを続けるのは、精神的なコストが高い。AIに仕事を奪われる心配より、「嫌いな仕事を10年続けた先に何があるか」の方が、私は心配です。

20年間、乳がんの患者さんと向き合ってきました。終末期の患者さんと話すとき、後悔の言葉として「もっと好きなことをやればよかった」は、何度聞いたか分かりません。「安定を選んで良かった」という言葉は、ほとんど聞いたことがありません。


親として伝えられること

子どもの不安を受け止めながら、私たち親ができることは何でしょうか。

「AIが来ても大丈夫な職業を選びなさい」と言うより、「自分が続けられることを探しなさい、そしてそのために学び続けなさい」と伝える方が、ずっと誠実だと思っています。

進路は一度決めたら変えられないものではありません。私自身、外科医から乳腺専門医へ、そして緩和ケアへと、重点は少しずつ変わってきました。入口が違っても、途中で方向を変えることはいつでもできます。

AIという道具を使いこなしながら、人の役に立ち続けること——それが、これからの時代を生きる力だと私は信じています。


筆者:田舎の県庁所在地に住む医師。外科学会専門医・乳癌学会認定医。現在は乳がんの検診・診断と緩和ケアを専門に担当。医師になって20年。