乳腺の生検には、ABC(穿刺吸引細胞診)・CNB(針生検)・VAB(吸引式組織生検) の3つがあります。研修医や医学生から「どれをいつ選ぶのか」「結果をどう読むのか」をよく質問されるので、適応の違いと、現場でつまずきやすい落とし穴を整理します。専門用語には英語を併記します。

結論を先に一言でいえば——

迷ったら CNB(針生検)。ただし「石灰化だけ」「MRIでしか見えない」「CNBで説明がつかない」ときに VAB を、細胞だけ確認できればよい限られた場面で ABC を選ぶ。

そして手技の選択以上に大切なのが、画像所見と病理結果が噛み合っているか(画像・病理の整合性)を必ず確認するという一点です。ここを最後にまとめます。

※本記事は2026年7月時点の公開情報(診療ガイドライン・レビュー等)をもとにした一般的な整理です。実際の適応判断は最新の原著・ガイドライン・自施設の方針に基づいてください。


1. 大枠——「細胞を見る」ABC と「組織を見る」CNB・VAB

まず一番大事な軸は、細胞診(cytology)か、組織診(histology)かです。ここを取り違えると、その後の判断がすべてずれます。

ABC CNB VAB
正式名 穿刺吸引細胞診
(aspiration biopsy cytology)
針生検
(core needle biopsy)
吸引式組織生検
(vacuum-assisted biopsy)
見るもの 細胞(cytology) 組織(histology) 組織(histology)
針の太さ(目安) 21〜23G(細い) 14〜18G 8〜11G(太い)
局所麻酔 不要 必要 必要
1回の穿刺で 1回ずつ吸引 バネで1本ずつ採取 吸引しながら連続採取
主なガイド 触知・超音波 超音波 ステレオ(マンモ)・超音波・MRI
採取量 最少 最多

※G(ゲージ)は数字が小さいほど太い。

この表の最上段(細胞か組織か)が、適応と限界のほぼすべてを決めます。順に見ていきます。


2. ABC(穿刺吸引細胞診)——速いが「浸潤の有無」は分からない

細い針で細胞を吸引し、スライドに吹き付けて染色・鏡検します。簡便・低侵襲・局所麻酔不要・その場で採取が最大の利点です。

日本では細胞診の判定は概ね次の区分で返ってきます。

判定 意味
検体不適正 診断に足る細胞が採れていない
正常・良性 悪性所見なし
鑑別困難 良悪の判定がつかない
悪性の疑い 悪性を強く疑うが確定できない
悪性 悪性

ABC最大の弱点——組織構築が見えない

細胞診は細胞がバラバラの状態で観察するため、組織の構築(architecture)が分かりません。ここから、研修医が必ず押さえるべき2つの限界が導かれます。

  • 浸潤の有無(invasive か DCIS〔非浸潤性乳管癌〕か)を区別できない——基底膜を越えているかは組織でないと評価できず、細胞診では推定することも難しい。なお、この浸潤の有無は針生検(CNB/VAB)でも確定には至らず、最終的には手術で摘出した標本での判定になる(針生検で「非浸潤癌」でも、切除すると浸潤が見つかることがある)
  • バイオマーカー(ER・PgR・HER2・Ki-67)の評価には向かない——治療方針を決める免疫染色は、原則として組織(CNB/VAB)で行う

🔑 ここが最大のポイント

ABC単独で、手術術式も薬物療法も決めることはできません。 細胞診で「悪性」と出ても、①浸潤の有無が推定できず、②ER・HER2などのバイオマーカーも評価できないため、治療方針の決定に必要な情報がそろいません。だからABCで悪性が出たら、多くはCNBで組織を取り直す流れになります。「悪性=これで治療に進める」ではない、という点を必ず押さえてください。

ABCが今も生きる場面

一方、細胞診が有用な限られた場面もあります。

  • 嚢胞(cyst)の内容液吸引——診断と治療(縮小)を兼ねる
  • リンパ節転移の確認——腋窩リンパ節が腫れているときの転移検索
  • 明らかな良性の確認・トリアージ——即時性が活きる場面

⚠️ 注意:ABCは術者・標本作製の技量に結果が大きく左右され、検体不適正(判定不能)の率が相対的に高い手技です。近年、乳腺の腫瘤性病変の第一選択は細胞診から組織診(CNB)へと移っています。


3. CNB(針生検)——迷ったらこれ。乳腺腫瘤の標準

バネ仕掛けの生検銃(automated gun)で、組織を棒状(コア)にくり抜く手技です。超音波ガイド下に、局所麻酔をして3〜5本採取するのが一般的です。

  • 組織構築が保たれる → 浸潤の有無、組織型、異型度を評価できる
  • ER・PgR・HER2・Ki-67 の免疫染色ができる → 治療方針決定に直結
  • 外来・短時間・低コストで、合併症も少ない

なぜ1本ではなく「3〜5本」採るのか

研修医からよく出る質問です。理由は主に3つあります。

  • サンプリングエラーの回避——1本だけだと、狙った病変を外したり、壊死・線維化・出血部分だけを引いてしまうことがある。複数本採ることで病変の代表的な組織が含まれる確率を高める
  • 免疫染色・追加検査に足る組織量の確保——ER・PgR・HER2・Ki-67 の免疫染色、必要なら遺伝子検査まで行うには、判定に耐える組織量がいる。1本では足りないことがある
  • 腫瘍内の不均一性(heterogeneity)をカバー——腫瘍は場所によって異型度や染色性が異なりうる。複数箇所から採ることで偏りを減らす

なお石灰化を狙う場合は、採取した検体を標本X線撮影して石灰化が実際に含まれているかを確認し、含まれるまで本数を追加するのが原則です(VABの項で後述)。

超音波で描出できる腫瘤性病変(mass)の第一選択です。「どれにするか迷ったらCNB」で、まず外しません。研修医はこの基準を軸に置くと判断が安定します。


4. VAB(吸引式組織生検)——石灰化・MRI病変・CNBで説明がつかないとき

通称「マンモトーム」「エンコア」。太い針を1回刺入したまま吸引しながら組織を連続採取でき、CNBより多量・確実に組織が得られます。その分コストと侵襲(内出血など)は大きくなります。適応は「CNBでは届かない・足りない」場面に整理できます。

VABを選ぶ状況 理由
マンモグラフィーで石灰化のみ(腫瘤なし) 超音波で描出困難 → ステレオガイド(マンモ)下VABが標準
MRIでしか描出されない病変 MRIガイド下VABで採取
CNBで結果が出ない/画像と合わない 組織量を増やして確定を狙う(再生検)
遺伝子(コンパニオン)診断に十分な組織を確保したいとき 一定量以上の組織が要る検査。CNBで不足する場合にVABで確保
術前薬物療法(NAC)が予定されているとき 治療で癌が消える場合があり、診断時の検体が唯一の情報源になりうる
小病変・良性腫瘍の摘出 良性なら一括摘出も可能(※癌には適用しない)

補足①:バイオマーカー・遺伝子(コンパニオン)診断のための組織量

治療方針は組織の性質(ER・PgR・HER2、必要に応じて遺伝子検査)で決まりますが、これらの検索には一定量以上の組織が必要です。日本乳癌学会のガイドラインも、CNB・VABの利点として「浸潤の有無・組織型・グレードの評価やバイオマーカー検索が可能」であることを挙げています(乳癌診療ガイドライン2022 BQ1)。コンパニオン診断や遺伝子検査に足る組織を確実に得たい場面で、CNBで組織量が不足するなら、より多量に採取できるVABで確保するという判断になります。

補足②:術前薬物療法(NAC)が予定されているとき

近年は術前薬物療法(NAC=neoadjuvant chemotherapy)で腫瘍が著明に縮小・消失する例も多く、病理学的完全奏効(pCR)に至ると、術後標本には評価できる腫瘍が残っていないことがあります。そのため、治療前の生検検体が、その腫瘍について評価できる唯一の材料になりうる——サブタイプ判定やコンパニオン診断に必要な情報を後から取り直せなくなります。だからNACが視野に入る症例では、診断時にVABで十分な組織を確保しておく意義が大きいとされています(治療前検体からしか情報が得られない状況が生じうるため)。

⚠️ 石灰化を狙うときの必須手順:採取した検体を標本X線撮影(specimen radiography)して、狙った石灰化が実際に採れているかを確認します。これを怠ると「石灰化を狙ったのに石灰化が入っていない=サンプリングエラー」を見逃します。また、生検部位にマーカークリップを留置して、後の手術・経過観察で病変位置を追えるようにします。


5. 全手技に共通する「気をつけるポイント」

手技の選択よりも、実は結果の解釈で事故が起きます。研修医が特に押さえるべき横断的な注意点です。

① 画像・病理の整合性(radiologic-pathologic concordance)——最重要

「良性」という結果を鵜呑みにしない。 画像で悪性を強く疑う病変から「良性」が返ってきたら、それは**ディスコーダント(discordant=画像と病理が食い違う)**であり、サンプリングエラーを疑って再生検・切除生検を検討します。

  • 画像=悪性疑い + 病理=良性 → 食い違い。再評価が必要
  • 画像=良性 + 病理=良性 → 整合。経過観察でよいことが多い

「良性だったから安心」で終わらせず、必ず画像の疑い度と突き合わせる——これが乳腺生検の一番の肝です。

② アンダーエスティメーション(underestimation=過小評価)

針で採れた一部が、切除すると「より進んだ病変」だったという現象です。研修医が驚きがちなポイントで、実際の割合も報告されています。

  • ADH(異型乳管過形成) と針生検で出ても、切除するとDCIS・浸潤癌が見つかる。93研究・6,458病変の系統的レビュー/メタアナリシスでは、**切除例の約29%**がアップグレード(浸潤癌へ約9%、DCISへ約20%)。経過観察例でも約5%はアップグレードしており、ADHは原則として切除が勧められる理由になっています(Schiaffino S, et al. Radiology. 2020)
  • DCIS(非浸潤癌) と針生検で出ても、切除すると浸潤癌が見つかることがある。52研究・7,350病変のメタアナリシスで、全体の過小評価率は約26%(約4人に1人)。デバイス別のサブ解析では**14G自動針生検で約30%に対し、11G吸引式生検(VAB)では約19%**と、VABの方が過小評価が少ない傾向が示されています(Brennan ME, et al. Radiology. 2011)
  • 過小評価が多くなりやすい因子:高異型度(high grade)、腫瘍径が大きい、腫瘤を形成、触知可能、BI-RADS 4〜5——これらがあるDCISは浸潤合併を念頭に置きます(同メタアナリシス)

→ だからADH・DCISの針生検結果は「これで確定」ではなく、切除で上振れしうる前提で扱います。

③ バイオマーカーのための「適切な固定」

ER・HER2などの免疫染色の精度は、採取から固定までの時間(cold ischemia time)と固定条件に左右されます。検体を放置せず、速やかに10%中性緩衝ホルマリンで適切な時間固定する——研修医が軽視しがちですが、治療方針を左右する重要工程です。

④ 抗凝固薬・抗血小板薬と出血

ワルファリン・DOAC(エリキュース等)・抗血小板薬(バイアスピリン等)は出血リスクを上げます。休薬の要否を事前に確認します。針が太いVABは特に血腫を作りやすいので注意します。

⑤ ニードルトラクト・シーディング(穿刺経路への播種)

頻度は低いものの、穿刺経路への腫瘍細胞の播種は起こりえます。将来の手術(切除範囲・皮膚切開線)を見据えて穿刺経路を計画するのが実務のコツです。詳しくは別記事にまとめています。

【医師向け】乳癌の針生検と needle tract seeding(穿刺経路への播種)


6. 研修医のための早見表

状況 まず選ぶ 理由
超音波で見える腫瘤 CNB 組織診の標準。浸潤・サブタイプまで分かる
マンモの石灰化のみ ステレオVAB 超音波で描出困難・標本X線で石灰化確認
MRIでしか見えない MRIガイドVAB 他モダリティで到達不能
嚢胞の内容液 ABC 診断+縮小を兼ねる
腋窩リンパ節転移の確認 ABC(または CNB) 転移の有無を素早く確認
CNBが画像と食い違う VABで再生検 or 切除 ディスコーダントは放置しない

まとめ

  • 一番の軸は 「細胞を見るABC」か「組織を見るCNB・VAB」か
  • ABCは浸潤の有無もバイオマーカーも判定できない → 単独で術式・薬物療法は決められない。嚢胞・リンパ節・トリアージで活きる
  • 腫瘤性病変の第一選択はCNB(迷ったらCNB)
  • VABは「石灰化のみ」「MRI病変」「CNBで説明がつかない」ときの一手。石灰化は標本X線で採取確認+クリップ留置
  • 手技選択より 画像・病理の整合性(concordance) が肝。画像=悪性疑いなのに病理=良性なら、疑って再生検
  • ADH・DCISはアンダーエスティメーションを前提に、切除で上振れしうると考える(ADHは切除例の約29%、DCISは全体の約26%が上位病変。DCISの過小評価は14G CNBよりVABで少ない)

「どれを刺すか」よりも、採れた結果が画像と噛み合っているかを最後まで疑う姿勢が、乳腺診断でいちばん事故を防ぎます。


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参考情報源

  • 日本乳癌学会「乳癌診療ガイドライン2022年版 検診・画像診断 BQ1(生検法の選択)」:https://jbcs.xsrv.jp/guideline/2022/b_index/bq1/
  • 日本乳がん検診精度管理中央機構(精中委):https://www.qabcs.or.jp/
  • 国立がん研究センター がん情報サービス「乳がん 検査」:https://ganjoho.jp/public/cancer/breast/diagnosis.html
  • DCISの過小評価メタアナリシス:Brennan ME, et al. “Ductal carcinoma in situ at core-needle biopsy: meta-analysis of underestimation and predictors of invasive breast cancer.” Radiology. 2011;260(1):119-128.(全体の過小評価率25.9%、14G自動針生検 vs 11G吸引式生検の差):https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21493791/
  • ADHのアップグレード率メタアナリシス:Schiaffino S, et al. “Upgrade Rate of Percutaneously Diagnosed Pure Atypical Ductal Hyperplasia: Systematic Review and Meta-Analysis of 6458 Lesions.” Radiology. 2020;294(1):76-86.(切除例29%・浸潤癌9%・DCIS 20%):https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31660803/

筆者:田舎の県庁所在地に住む医師。外科学会専門医・乳癌学会認定医。現在は乳がんの検診・診断と緩和ケアを専門に担当。医師になって20年。