「がんの症状は痛みだけじゃない」——患者さんやご家族からよく聞く言葉です。

実際、痛み以外にもさまざまな日常症状ががん患者さんを苦しめています。だるさ・不眠・食欲不振・便秘——どれも生活の質を大きく下げる症状ですが、緩和ケアでは積極的に対処できます。

この記事では、がん患者さんが経験しやすい日常症状と、その対処法について解説します。


1. がん患者が経験する主な症状

進行がん患者さんが経験する症状は、痛み以外にもさまざまです。

症状 頻度(進行がん患者)
倦怠感(だるさ) 70〜90%
食欲不振 60〜80%
不眠 50〜70%
便秘 50〜60%
痛み 50〜80%
息切れ・呼吸困難 40〜60%
嘔気・嘔吐 30〜50%

つまり、痛み以外の症状の方がむしろ多いくらいです。これらの症状は、患者さんの日常生活と心理状態に大きな影響を及ぼします。

参考情報源:日本緩和医療学会「がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引き」(https://www.jspm.ne.jp/


2. 倦怠感(だるさ)への対処

最も頻度が高いのが「倦怠感(cancer-related fatigue)」です。一晩寝ても回復しない、深く根本的な疲労感。

原因

  • がんそのものによる代謝の変化
  • 抗がん剤・放射線治療の副作用
  • 貧血
  • 栄養不足
  • 痛み・不眠による消耗
  • 抑うつ

対処

方法 内容
原因の対処 貧血・痛み・抑うつなど治療可能な原因を探す
適度な運動 軽い散歩・ストレッチが効くと報告されている
休息のメリハリ 短時間の昼寝、夜の睡眠を整える
薬物療法 場合によってステロイドなどを使用

だるいから動けない→動かないからもっとだるくなる」という悪循環があります。できる範囲で体を動かすことが意外にも有効です。


3. 食欲不振への対処

「食べたいのに食べられない」「食べる気がしない」——食欲不振もがん患者さんの大きな悩みです。

原因

  • がんそのもの(悪液質)
  • 抗がん剤・オピオイドの副作用
  • 嘔気・口内炎
  • 便秘
  • 痛み・抑うつ

対処

  • 少量・頻回に食べる(1日3食にこだわらない)
  • 冷たいもの・喉ごしのよいものを活用(アイス・ゼリー・麺類)
  • 匂いの少ないものを選ぶ(嘔気がある場合)
  • 嗜好の変化に合わせる(前は好きだったものが嫌いになることも)
  • 無理に食べさせない(家族のあたたかい関わりが大切)

終末期に近づいたときの「食べられない」

進行末期では、食欲不振は自然な経過でもあります。点滴や経管栄養を強く望む家族もいますが、身体が必要としていない栄養を入れると、むくみや痰が増えてかえって苦痛になることがあります。

担当医・緩和ケア医とよく相談して、患者さんが楽でいられる選択を考えてください。


4. 不眠への対処

「夜眠れない」「眠っても何度も目が覚める」——不眠もよくある症状です。

原因

  • 痛み・呼吸困難など身体症状
  • 不安・抑うつ
  • ステロイド・抗がん剤の副作用
  • 環境の変化(入院など)
  • 昼夜逆転

対処

方法 内容
身体症状の緩和 痛み・息苦しさを先に治す
心理的支援 不安・恐怖の傾聴、抗不安薬
環境調整 静かな環境・適度な明るさ
薬物療法 睡眠薬を上手に使う

「眠れない=ダメなこと」と思いつめる必要はありません。寝床で過ごす時間そのものに価値があります。眠ろうと頑張りすぎると、かえって眠れなくなります。


5. 便秘への対処

がん患者さんの5〜6割が便秘に悩むといわれます。特にオピオイド(医療用麻薬)を使うと、**60〜90%の患者さんに便秘(オピオイド誘発性便秘症:OIC)**が起きると報告されています。

対処

  • オピオイドを使うときは下剤を最初から予防投与するのが標準
  • 浸透圧性下剤・大腸刺激性下剤を組み合わせる
  • 末梢性μオピオイド受容体拮抗薬(ナルデメジン等)の活用
  • 摘便・浣腸も適切に
  • 我慢しないで担当医に相談する

痛みを我慢する」のと同じく、「便秘を我慢する」のもよくありません。我慢の延長で食欲不振や嘔吐の原因になることがあります。

参考情報源:日本緩和医療学会「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版」では、オピオイドの投与と同時または投与後に下剤を定期投与することが推奨されている(https://www.jspm.ne.jp/


6. 症状を伝えるコツ

担当医や看護師に症状を伝えるとき、以下のように整理すると伝わりやすいです。

項目
部位 全身/胸/腹
強さ NRS 0〜10で評価
性質 じわじわ/鋭い/重い
タイミング 朝/夜/食後/常に
持続時間 いつから
日常生活への影響 眠れない/食べられない/動けない

メモにして手渡すと、診察時間が短くても伝わります。


7. 家族ができること

家族が患者さんを支えるために、こんなことができます。

  • 症状の変化を観察する(食事量・睡眠時間・表情)
  • 担当医・看護師に気づいたことを伝える
  • 快適な環境を整える(室温・湿度・静けさ)
  • 無理に何かさせない(食べさせる・動かす・励ます)
  • そばにいる時間を大切にする

→ 詳しくは別記事「家族ができること——そばにいるだけでいい」もご覧ください。


まとめ

  • がん患者さんは痛み以外にも多くの症状で苦しんでいる
  • 倦怠感・食欲不振・不眠・便秘は5割以上の患者が経験
  • どの症状も緩和ケアで対処できることが多い
  • 「我慢するもの」「仕方ない」とは思わず、遠慮なく相談
  • 家族は観察と橋渡しで支えられる

「これくらい我慢しないと」「先生に申し訳ない」と思わず、つらいものはつらいと伝えてください。症状を和らげることは、生きる力を取り戻すことです。


筆者:田舎の県庁所在地に住む医師。外科学会専門医・乳癌学会認定医。現在は乳がんの検診・診断と緩和ケアを専門に担当。医師になって20年。