「働き方改革で、外勤(アルバイト)ができなくなって、収入がガクッと減った」——若手の先生から、こうした声を聞くことが増えました。

2024年4月から始まった医師の働き方改革(時間外労働の上限規制)。これは、医師の健康と医療の安全を守るための、大切な改革です。一方で、その運用のなかで、大学などが労働時間の管理を厳しくし、外勤(いわゆる"バイト")を制限・禁止する動きが広がりました。

結果として、大学の給与だけでは生活が苦しい——特に、住宅ローンを抱えた若手にとっては、切実な問題になっています。月20万円もの収入減、という話も、決して珍しくありません。

私自身は、地方でキャリアの後半を歩む一人の医師です。若い頃の下積みも、収入の不安定さも通ってきました。その立場から、この「減収」とどう向き合うかを、お金とキャリアの両面で整理してみます。

※本記事は2026年7月時点の一般的な情報です。制度の詳細や個別の事情は、勤務先や専門家にご確認ください。


1. まず、「時間軸」でとらえる

いちばん伝えたいのは、今の収入だけを見て、人生設計を固めないでほしいということです。

研修医・専攻医の時期は、いわば**「将来のための投資期間」**です。この時期の収入が低めなのは、つらいけれど、ずっと続くわけではありません。専門医を取り、経験を積めば、状況は確実に変わっていきます。

だからこそ、今は「この一点の収入」で家計を組み固めてしまわないこと。キャリアの段階によって収入は変わる——この前提を持っておくだけで、目の前の減収への受け止め方が変わります。


2. 「環境を変える」という選択肢

収入は、努力の量だけでなく、**「どこに身を置くか」**で大きく変わります。

  • 大学病院や基幹病院は、労働時間の管理が厳格になりがち
  • 一方で、市中病院には、柔軟な運用のところもある

「医局に属していないと、やりたいことができない」という時代では、もうありません。実際、退局して一般病院に移り、給与が大きく増えたという話も、周囲でよく聞きます。非常勤やスポット勤務を組み合わせて、大学時代と同等以上の収入を得ている医師もいます。

もちろん、専門性や人脈を得るために大学に残る意味は大きい。ただ、**「今の環境が唯一の道ではない」**と知っておくことは、心の余裕につながります。

ひとつの考え方として——「大学は、お金を払ってでも学ぶ場所」と割り切る。専門性と人脈をしっかり身につけて、それをあとから一般病院で"給料"として回収する。そう捉えると、下積み期間の見え方も少し変わります。

上司の「残れ」には、生存バイアスがあるかもしれない

もう一つ、頭の片隅に置いておいてほしいことがあります。

いま大学に残って上司の立場にいる人は、多くの場合、「残ることのメリットが大きい」と判断できた人たちです。逆に、「デメリットのほうが大きい」と感じた人は、すでに大学を離れています

つまり、大学に残っている人からの「ここにいたほうがいい」というアドバイスには、“残って良かった人"の声だけが集まりやすいという偏り——生存バイアス——がかかっている可能性があります。

もちろん、その助言が間違いというわけではありません。ただ、“その場を去った人の声は、その場には残っていない”。この構造を知っておくと、アドバイスを鵜呑みにせず、自分の状況に引きつけて判断することができます。


3. 家計とローンは、「早めの相談」が効く

収入が減ったとき、いちばんやってはいけないのは、一人で抱えて先延ばしにすることです。

  • 住宅ローンがきついなら、早めに銀行へ相談する(返済条件の見直しに応じてもらえることがあります)
  • 固定費を見直す(保険・通信・サブスクなど)
  • 生活水準を、いまの収入に合わせて調整する
  • 配偶者の就労、余裕があれば副業(ライティングなど)

そして、少し耳の痛い話も、あえて書いておきます。収入が不安定になりうる時期に、身の丈を超えた大きなローンを組むのは、リスクが高いということです。

住宅ローンは、「借りられる額」ではなく「無理なく返せる額」で、できれば金利の変動に振り回されにくい形で組むのが安心です。もしこれから家を考える若手の先生がいたら、収入が上下する可能性を織り込んで判断してほしいと思います。


4. 制度の「中でできる工夫」もある

環境を変える前に、いまの職場のなかでできることもあります。

  • 宿直・日直の許可がある当直であれば、休息時間の条件を満たすことを示して、外勤として申請できる場合がある
  • 同僚と一緒に、医局長などを通じて、上長に相談してみる

「制度だから仕方ない」とあきらめる前に、運用の余地がないかを確認する。一人で動くより、同じ立場の仲間と声を合わせるほうが、話は進みやすいものです。


5. 構造を直視しつつ、「自分で決められること」に集中する

最後に、少し大きな視点の話を。

正直に言えば、公的な病院の多くは、医師の「やりがい」に支えられて(言い方を変えれば、やりがいに甘えて)成り立っている面があります。この構造は、法律や診療報酬といった大きな仕組みが変わらないかぎり、簡単には改善しないでしょう。見通しは、残念ながら厳しいと言わざるを得ません。

だからこそ、大事にしたい考え方があります。それは——

自分の力が及ばないこと(法律・診療報酬・制度)に思い悩むより、自分の力が及ぶこと(どこで、どう働くか)に集中する

法律や診療報酬を、あなた一人の力で変えることはできません。そこに憤り、消耗するのは、エネルギーの使い方としてもったいない。

一方で、「自分がどこで働くかを、自分で選ぶ」ことは、あなた自身にできることです。制度の是非を嘆くより、自分でコントロールできる範囲に力を注ぐ——これは、しんどい状況を生き抜くための、現実的で強い姿勢だと思います。


まとめ

  • 働き方改革による減収は、制度の過渡期に起きている構造的な問題。あなた個人のせいではありません
  • 収入はキャリアの段階と環境で変わる。今の一点で人生設計を固めない
  • **環境を変える(転職・非常勤)**のは、有力な選択肢
  • 家計・ローンは早めに相談。そして身の丈を超えたローンは避ける
  • 制度の中でできる工夫も探す
  • 残った上司の助言には生存バイアスがかかりうる。鵜呑みにしない
  • **自分で変えられないこと(制度)**より、**自分で決められること(働く場所)**に集中する

医師の働き方改革は、長い目で見れば、医師が健康に、長く働き続けるための改革です。過渡期のいまは、しわ寄せを感じる場面もあると思います。でも、収入の見通しは、動き方しだいで変えられます。どうか、目の前の一点だけで、将来を悲観しないでください。


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