2026年12月から、iDeCo(個人型確定拠出年金)の拠出限度額が大きく引き上げられます。

「税制優遇があるんだから、上限まで上げるのが当然では?」

そう考える人は多いと思います。実際、医師向け媒体でもこの話題が議論になっていて、「上限まで上げる」派と「あえて上げない」派に、意見が分かれていました。

この記事では、改正の内容を整理した上で、両方の言い分と、私自身の結論を書きます。

【2026年6月12日 追記】 この記事の結論(「増額しない」)は、公開2日後にAIと家計を再点検した結果、変わりました。本文は当時の判断の記録としてそのまま残し、経緯は文末の追記に書いています。


2026年12月改正の内容

加入区分 改正前 改正後(2026年12月〜)
自営業者(第1号) 月68,000円 月75,000円(国民年金基金等と合算)
会社員(企業年金なし) 月23,000円 月62,000円
会社員(企業年金あり)・公務員 月20,000円 合算で月62,000円(DB等の掛金相当額を差し引いた額)

あわせて、加入可能年齢も70歳未満まで拡大されます(改正前は65歳未満)。

企業年金なしの会社員なら月23,000円→62,000円と、2.7倍の引き上げです。年間にすると約74万円まで拠出できるようになります。

実際の引き落としは2027年1月分からです。掛金変更の手続きは加入している金融機関で行います。


「上限まで上げる」派の言い分

医師向け媒体での議論では、上限派の根拠はシンプルでした。

①高所得ほど節税効果が大きい

iDeCoの掛金は全額所得控除です。所得税・住民税の合計税率が50%の人なら、拠出額の約半分がその年の税負担減になります。

仮に月62,000円(年74.4万円)を拠出し、税率50%なら、年間約37万円の節税。これを「確実なリターン」と見るなら、これほど有利な投資はありません。

②退職金がない人は出口でも有利

受け取り時には退職所得控除が使えます。勤務先に退職金制度がない(または少ない)人は、控除枠を丸ごとiDeCoに使えるため、出口の税負担も小さくできます。

また、控除を超えた分も「超えた額の半分にだけ課税」(2分の1課税)される仕組みなので、拠出時の節税と合わせればトータルでは得になりやすい——という意見もありました。

③生活に支障がないなら上げない理由がない

掛け金を上げても家計に影響がないなら、税制優遇を最大限使うのが合理的、という考え方です。


「あえて上げない」派の言い分

一方で、慎重派の意見には具体的なリスクの指摘がありました。私が特に重要だと思った3点を挙げます。

①制度が途中で変わるリスク

iDeCoは60歳まで続く長い制度です。その間に、ルールが変わる可能性があります。

実際に、今年すでに起きています。2026年1月から、いわゆる**「10年ルール」**が施行されました。iDeCoを一時金で受け取った後に勤務先の退職金を受け取る場合、退職所得控除の調整対象となる期間が「前年以前4年以内」から「前年以前9年以内」に拡大されたのです。

これまで「60歳でiDeCo、65歳で退職金を受け取れば、両方で控除をフル活用できる」と言われていた出口戦略が、この改正で使えなくなりました。控除を満額使うには、受け取りを10年以上空ける必要があります。

拠出を始めた時点のルールが、出口まで続く保証はない——これは今回、現実になった話です。

②出口で課税される可能性

iDeCoは「非課税」ではなく「課税の繰り延べ」の性格を持つ制度です。掛金を増やすほど受取額も大きくなり、退職所得控除や公的年金等控除の枠を超えれば、出口で税金がかかります。

勤務先に退職金がある人ほど、控除枠の取り合いになりやすく、この影響を受けます。

③60歳まで引き出せない

iDeCoは年金制度なので、途中の解約は原則できません。NISAや特定口座と比べて、流動性では完全に劣ります。

子どもの教育費、住宅、転職や独立、家族の介護——現役世代には、まとまったお金が必要になる場面がいくらでもあります。「節税になるから」と上限まで入れて、必要なときに動かせないのでは本末転倒です。


私の結論——現状維持で、上げない

実は私、以前は上限の月23,000円を掛けていました。「節税になるんだから上限まで」と、深く考えずに設定していた時期です。

それを変えたのは、リベ大(リベラルアーツ大学)の書籍『お金の大学』で資産形成の基本を学んでからです。掛金を月5,000円まで減額し、投資先も信託報酬の低い、全世界株式(オルカン)に近いインデックスファンドへ変更しました。

なぜ「ゼロ」ではなく「5,000円」なのか。これもリベ大で学んだ考え方です。

  • 月5,000円は、iDeCoの制度上の最低掛金です。iDeCoは一度始めると原則やめられないため、続ける前提なら、これ以上は下げられません
  • 掛金の拠出を止めて「運用だけ続ける」状態にすることもできますが、その場合も口座管理手数料は毎月かかり続けます。拠出を止めると所得控除のメリットがゼロになるので、手数料だけ払い続けることになります。最低額でも拠出を続けていれば、所得控除で手数料分は十分取り返せます

つまり月5,000円は、「やめられない制度の中で、コスト負けせずに維持できる最小ポジション」なのです。

つまり私は、今回の改正で「上げるかどうか」を考える以前に、一度上限まで掛けた上で、あえて減らした側の人間です。12月以降も増額しないつもりです。

理由は、慎重派の意見とほぼ重なります。

第一に、流動性を優先したいから。 私の資産形成の主軸はNISA(インデックスファンド)と高配当株です。これらはいざというとき売却できます。iDeCoの節税メリットは理解した上で、「60歳まで一切動かせないお金」を増やすことには慎重でいたい。

第二に、出口のルールが読めないから。 10年ルールの施行を目の当たりにして、「20年後の受け取り時のルールは、今とは違うかもしれない」という前提で考えるようになりました。拠出時の節税は確実ですが、出口の優遇は確実ではありません。

誤解のないように書いておくと、iDeCoが悪い制度だとは思っていません。以前の記事でも書いたとおり、怪しい節税商品と比べれば、iDeCoは数少ない合理的な選択肢です。退職金のない方や、すでにNISAを使い切っていて流動性資金も十分ある方なら、上限まで上げる判断は十分合理的だと思います。

要は、「税制優遇があるから上限まで」と自動的に考えるのではなく、自分の流動性・退職金の有無・出口まで含めて判断するということです。


判断の整理——どんな人が上げるべきか

あなたの状況 増額の考え方
NISAをまだ使い切っていない NISAが先。iDeCoの増額は急がない
退職金がない・少ない 増額のメリット大(出口の控除枠を使える)
退職金がしっかりある 10年ルールの影響を確認してから
近い将来、大きな出費の予定がある 流動性優先。増額は慎重に
NISA満額済み・余剰資金も十分 上限まで上げる合理性あり

まとめ

  • 2026年12月から、iDeCoの拠出限度額が大幅引き上げ(会社員は最大月62,000円、自営業は月75,000円)
  • 拠出時の節税効果は高所得者ほど大きく、税率50%なら拠出額の約半分が戻る計算
  • ただし「制度変更リスク」「出口課税」「60歳まで引き出せない」という3つの注意点がある
  • 2026年1月施行の「10年ルール」は、制度が途中で変わることを示す実例になった
  • 私は以前、上限の月23,000円を掛けていたが、『お金の大学』で学んで月5,000円に減額・低コストの全世界株式型へ変更した。流動性と出口の不確実性を重視して、12月以降も増額しない(※その後、結論を変更。文末の追記参照)
  • 「優遇があるから上限まで」ではなく、NISAとの順番・退職金の有無・出口まで含めて自分の状況で判断

【追記】AI(Fable 5)に相談したら、結論が変わった(2026年6月12日)

この記事を公開して2日後、結論が変わりました。理由ごと、正直に書き残しておきます。

きっかけは、家計の管理を手伝ってもらっているAI(Anthropic社のClaude。今月から最新モデル「Fable 5」になりました)に、この記事と同じ問い——「12月の限度額引き上げで、増額すべきか?」——を、私の実際の家計の数字を踏まえて再検討してもらったことです。

返ってきた答えは、本文の私の結論と逆でした。ポイントは4つあります。

① 「流動性の懸念」を数字にしたら、小さかった

「60歳まで動かせない」を漠然と恐れていましたが、試算すると、私の場合60歳まで拘束される額は、退職を考えている時点の金融資産の2割弱。生活防衛資金と、いつでも取り崩せるNISAが別にあるので、「動かせなくて困る」場面が実際には想定できませんでした。不安は、金額にして初めて評価できる——これが一つ目の学びです。

② 還付は「相場と無関係の確定リターン」

税率の高い勤務医なら、拠出額の4割以上がその年の年末調整で戻ります。上限の月62,000円なら年70万円超の拠出で、毎年30万円前後の還付。私のように勤務先に退職金がない場合は、退職所得控除が丸ごと空いているので、出口で「2分の1課税」を払っても、同じお金をNISAに入れるよりトータルで百数十万円有利という試算でした(運用5%想定)。

③ 運用が不調な世界ほど、iDeCoが効く

ここが一番唸った点です。運用利回り別に計算し直すと、運用が絶好調の世界(7%)では優位はほぼ消え、不調な世界(3%)では優位が最大になる。つまり所得控除の還付は、**資産形成がうまくいかないシナリオへの「保険」**として働くのです。相場が悪いときほど効く確定リターンは、他にほとんどありません。

④ 節税メリットには「期限」がある。NISAの枠にはない

所得控除のメリットは、所得が高い今しか取れません。一方、NISAの非課税枠は何歳からでも埋められます。私は「NISAを満額にしてから、iDeCoを増やす」と順番に考えていましたが、それでは期間限定の方を取り逃がします。期限のあるものから先に——言われてみれば、当たり前のことでした。

本文(6月10日) 追記(6月12日)
結論 増額しない 12月から上限まで増額
重視した点 流動性・出口の不確実性 還付の確実性・メリットの期限
変わった理由 ——— 懸念を「数字」にして評価し直した

結論の変更:12月の改正にあわせて、掛金を上限まで増額します。将来、所得が下がる時期が来たら、また最低額に戻す予定です。

ついでに、恥ずかしい学びも一つ。iDeCoの掛金変更は年1回しかできません(12月分〜翌11月分の間で1回)。今年すでに減額していた私は、「では今すぐ戻そう」と思っても12月まで動けないのでした。結果的に改正のタイミングとちょうど重なったので実害はありませんでしたが、このルールをご存じない方は多いのではないでしょうか。

書いた結論を2日で変えるのは、格好悪い気もします。でも、数字で再検討して結論が変われば、変えたことをそのまま書く——それがこのブログの方針です。医療でも投資でも、「前提が変われば結論を見直す」姿勢のほうが、「一度決めたことに固執する」よりずっと安全だと思っています。

なお、AIの試算は前提(税率・退職金の有無・運用利回り・年齢)次第で大きく変わります。AIは答えを出す存在ではなく、自分の前提を数字に変えてくれる相棒であって、最後に決めるのは自分です。ご自身の状況での判断は、必要に応じて税理士等の専門家にもご確認ください。


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参考


筆者:田舎の県庁所在地に住む医師。外科学会専門医・乳癌学会認定医。現在は乳がんの検診・診断と緩和ケアを専門に担当。医師になって20年。
お金の勉強はリベラルアーツ大学(リベ大)を参考にしています。