前回、緩和ケア病棟(PCU)って実際どんなところ?で、「死を待つだけの場所」というイメージが誤解であることをお伝えしました。
今回はその続きとして、患者さん・ご家族がよく抱く具体的な誤解に一つずつ答え、そして実際に入院するまでの流れと、あまり語られない**「満床」という現実**についてお話しします。
PCUへの「5つの誤解」に答えます
誤解①「一度入ったら、もう出られない」
→ そんなことはありません。 症状が落ち着けば、自宅や施設に退院する方は普通にいます。
実際、緩和ケア病棟の平均在院日数は約30日(日本ホスピス緩和ケア協会の調査では2018年度で29.6日)。しかもこの日数は、年々短くなっています(2001年は約48日、2011年は約39日)。「入ったら最後」どころか、症状を整えて生活の場に戻る——そういう使い方が増えているのです。
誤解②「費用がとても高い」
→ 保険診療です。 緩和ケア病棟は健康保険が適用され、高額療養費制度も使えます。「特別な高額医療」ではありません。
個室が中心ですが、差額ベッド代のかからない部屋がある施設も多いです。費用が心配なときは、まず病院の医療ソーシャルワーカーに相談してください。 (→ 費用の仕組みはがん治療の医療費——高額療養費制度を知っておくもご参照ください)
誤解③「入ったら、すぐ亡くなってしまう」
→ PCUは"死を早める場所"ではありません。 むしろ、つらい症状が和らいで体力が戻り、結果的に予後が延びることもあります。
緩和ケアの目的は、苦痛を取り除き、その人らしい時間を支えること。命を縮めることが目的では決してありません。
誤解④「苦痛は、すべて取り除いてもらえる」
→ これは逆方向の誤解です。専門的な緩和ケアでも、苦痛を完全にゼロにできない場合があります。
「PCUに入れば、もう何も苦しくない」と過度に期待すると、現実とのギャップに苦しむことがあります。「つらさを最大限やわらげる」けれど「完璧」ではない——この正直な前提を、知っておいてほしいのです。
誤解⑤「医師もいないし、何もしてくれない」
→ 何もしないどころか、やることはたくさんあります。 入院時の評価、症状に応じた薬の細かい調整、多職種でのカンファレンス、夜間の急な変化への対応——。緩和ケアの専門医が関わり、施設によっては夜間の当直体制もあります。
「治す医療」をしないだけで、「その人のための医療」は、むしろ手厚いのです。
実際に入院するまでの流れ
「では、どうすれば入院できるの?」という質問にお答えします。多くの場合、こんな流れです。
- 相談・申し込み:主治医やがん相談支援センターを通じて、緩和ケア病棟に相談する
- 面談・登録:本人・家族が病棟と面談し、入院の希望を登録する(待機リストに入ることも)
- 外来・在宅でフォロー:すぐ入院ではなく、当面は外来通院や在宅療養で過ごしながら待つ
- 入院の検討:症状が強くなったり、体力(ADL)が落ちてきたタイミングで入院を具体的に検討
- 入院:空きがあれば入院。満床なら、空くまで一般病棟などで待つこともある
ポイントは、「申し込んだらすぐ入れる」とは限らないこと。だからこそ、早めに相談・登録だけはしておくことが、いざというときの安心につながります。
あまり語られない「満床」という現実
ここは、正直にお伝えしておきたい現実です。
緩和ケア病棟は、いつも空いているわけではありません。むしろ、満床で入院を待っている間に亡くなってしまう——そういうケースも、現実に起こっています。
背景には、こんな課題があります。
- 施設数が足りない:緩和ケア病棟は全国に約460施設ですが、地域によって偏りがあります
- 近くにない:特に地方では、通える範囲にPCUがないことも珍しくありません
- 専門医・スタッフの不足:緩和ケアを専門とする医療者は、まだ十分とは言えません
「最期は穏やかな環境で」と願っても、希望すれば必ず入れる、とは限らない。これが今の日本の、特に地方の現実です。だからこそ——「もしものとき」を、元気なうちから考えておくことが大切になります。
「来てよかった」と言える場所に
緩和ケア病棟の現場では、こんな経過は珍しくありません。
最初は「何もしてもらえなくなる」「死を待つだけだ」と入院を強く拒んでいた方が、説明を重ねて入院してみると、痛みや苦しさが和らぎ、ご家族と穏やかに過ごす時間が増える。そして「ここに来られてよかった」という言葉が、ご本人やご家族から聞かれる——。
PCUは、あきらめの場所ではなく、その人らしい時間を取り戻すための場所です。誤解で選択肢から外してしまうのは、もったいないことだと思っています。
まとめ
- 「一度入ったら出られない」は誤解。平均在院日数は約30日で、退院も普通にある
- 保険診療で高額療養費も使える。差額ベッド代のない部屋がある施設も
- すぐ亡くなる場所ではない。予後が延びることもある。命を縮める目的ではない
- ただし苦痛を完全にゼロにはできないこともある(過度な期待は禁物)
- 入院は申し込んですぐとは限らない。早めの相談・登録が安心につながる
- 満床・施設不足という現実があり、特に地方では深刻。だから「もしものとき」を早めに考えておく
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参考
- データでみる日本の緩和ケアの現状(ホスピス財団・ホスピス緩和ケア白書)
- 日本ホスピス緩和ケア協会
- 医師向け媒体における緩和ケア病棟に関する連載・議論をもとに、筆者の臨床経験を加えてまとめたものです。
筆者:田舎の県庁所在地に住む医師。外科学会専門医・乳癌学会認定医。現在は乳がんの検診・診断と緩和ケアを専門に担当。医師になって20年。