「節税になりますよ」
この一言に、高収入者は弱くなりがちです。所得税率が高ければ高いほど、「税金を減らしたい」という気持ちは自然に強くなります。
しかし、節税を目的にした金融商品・スキームには、注意が必要なものが多くあります。
この記事では、高収入者(特に医師・士業・経営者)が勧められやすい節税スキームを4つ取り上げ、それぞれの実態を整理します。
まず前提——「節税」と「手取りを増やす」は別物
「節税になる=お得」ではありません。
節税とは税金を減らすことです。しかし、税金を減らすために元本を減らしたり、流動性(必要なときにお金を使える自由)を犠牲にしたりしていたら、本末転倒です。
本当に意味があるのは「税引き後の手取りが増えること」です。
この前提を持っていないと、「税金は減った、でも損した」という結果になりかねません。
❌ ①法人終身保険(退職金代わり)
スキームの概要
勤務先の法人が契約者、本人が受取人となる終身保険に、給与の一部を充てる形で積み立てます。退職時に退職金として受け取ることで、退職所得控除が使え、税負担を下げるという仕組みです。
保険会社の営業は「所得税率が高い方ほど効果的です」と説明します。確かに、所得税率55%の人が給与で受け取るよりも、退職金として受け取った方が手取りは増える——という計算上の理屈はあります。
問題点①:返戻率が低い
10年積み立てて返戻率93%、というケースが珍しくありません。
これは元本が7%減るということです。100万円積み立てたら93万円にしかならない。「節税効果で得をする」どころか、そもそも元本が削られています。
節税で増えた分より、元本の損失が上回るなら、節税の意味がない。
問題点②:資金がロックされる
10〜20年、途中解約すると大幅な元本割れが確定します。
人生では予期せぬ出費・転職・独立・家族の事情など、さまざまなことが起きます。10年以上、まとまった資金を動かせない状態は、リスクが高い。
問題点③:そもそも代替手段がある
給与で受け取り、税引き後の手取りでNISA(年360万円まで非課税)を満額積み立て、余剰資金を低コストのインデックスファンドで運用する。
この方法の方が、流動性・期待リターン・コストのすべての点で勝ります。
評価:❌ 基本的に不要
△ ②不動産投資(減価償却による節税)
スキームの概要
物件を購入し、建物部分を減価償却費として計上することで、所得を圧縮します。所得税率が高い人ほど節税効果が大きくなります。
メリットがある場合
条件が良ければ、キャッシュフローが出ながら節税もできます。
注意点
現実には、以下のリスクがあります。
- 空室リスク(収入がゼロになる期間がある)
- 修繕費・管理費(想定外に高くなることがある)
- 出口(売却)が難しい(高値で売れない・そもそも売れない)
- 節税目的で紹介される物件は利回りが低いことが多い
特に「節税になります」と勧められる物件は、節税効果が前面に出ている分、収益性が二の次になっていることがあります。
不動産投資は、節税を目的にするより、収益性が成り立つかどうかを主軸に判断するべきです。収益が出る物件であれば節税はおまけ、というくらいの感覚が適切です。
評価:△ 内容・条件次第。節税目的だけで選ぶと危険
✅ ③小規模企業共済
スキームの概要
個人事業主や小規模企業の役員向けの、公的な退職金制度です。毎月の掛金(最大7万円)が全額所得控除になります。
メリット
- 掛金全額が所得控除→所得税・住民税が減る
- 長期加入(20年以上)なら返戻率が100%を超える
- 廃業・退職時に一括受取可(退職所得控除が使える)
注意点
- 個人事業主か、会社役員でないと加入できない(一般の雇用者は対象外)
- 20年未満の解約は元本割れ
- 月額上限7万円(年84万円)
勤務医の場合、副業・個人事業主として開業届を出していれば加入できる可能性があります。
評価:✅ 加入条件が合えば有効な制度
△ ④経営セーフティ共済(倒産防止共済)
スキームの概要
取引先の倒産に備えるための共済制度で、掛金を損金(費用)として計上できます。もとは中小企業・個人事業主向けの制度です。
注意点
2024年の税制改正により、解約後に再加入して節税目的で繰り返し使う方法には制限が加わりました。
節税目的で使うには本来の趣旨(取引先倒産リスクへの備え)から外れており、制度の恩恵が縮小しています。
評価:△ 2024年以降は活用の幅が狭まった。本来の目的がある場合のみ検討
✅ ⑤iDeCo(個人型確定拠出年金)
スキームの概要
公的年金に上乗せする老後資金を、自分で積み立てる制度です。掛金が全額所得控除になります。
メリット
- 掛金全額が所得控除
- 運用益が非課税
- 受取時も税優遇(退職所得控除 or 公的年金等控除)
所得税率が高い人ほど節税効果が大きく、iDeCoは数少ない「合理的な節税手段」のひとつです。
注意点
- 60歳まで引き出しができない(流動性はゼロ)
- 職種・勤務先により掛金上限が異なる(会社員は月1.2〜2.3万円、自営業は月6.8万円)
- 運用商品の選択が重要(低コストのインデックスファンドを選ぶ)
評価:✅ 上限まで活用する価値がある
4つのスキームを比較する
| スキーム | 節税効果 | 流動性 | 元本保全 | 評価 |
|---|---|---|---|---|
| 法人終身保険 | △ | ❌ ロック | ❌ 93% | ❌ |
| 不動産投資 | ○ | △ | △ | △ 条件次第 |
| 小規模企業共済 | ○ | △ | ○ | ✅ 条件合えば |
| 経営セーフティ共済 | △ | △ | ○ | △ 2024年以降注意 |
| iDeCo | ○ | ❌ ロック | ○ | ✅ 活用すべき |
結論——順番が大事
節税を考える前に、まずNISAとiDeCoを埋めることが最優先です。
この2つは、国が用意した合法的な非課税制度であり、手数料が低いインデックスファンドを選べば、長期的に資産を増やす合理的な手段になります。
それでも余剰資金が出るなら、不動産・小規模企業共済などを検討する順序が自然です。
法人終身保険は、その順序のどこにも入りません。
「節税」という言葉への向き合い方
節税の提案を受けたとき、次の3つを確認してください。
① 元本はどうなるか 返戻率は? 何年で元本を超えるか?
② 流動性はあるか 途中で解約・引き出しが必要になったら、どうなるか?
③ 代替手段と比べてどうか 同じお金をNISA+インデックスに入れた場合と、期待リターンを比較する。
この3点を確認するだけで、多くの「節税商品」の問題点が見えてきます。
税金を減らすために、資産を減らさない。
これが、節税との正しい向き合い方だと思っています。
まとめ
- 「節税=お得」ではない。手取りが増えるかどうかが本質
- 法人終身保険は返戻率93%・長期ロックで基本的に不要
- 不動産投資は節税目的だけで選ぶと危険
- 小規模企業共済・iDeCoは条件が合えば合理的な節税手段
- まずNISA・iDeCoを満額→余剰資金で他を検討、が基本の順序
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筆者:田舎の県庁所在地に住む医師。外科学会専門医・乳癌学会認定医。現在は乳がんの検診・診断と緩和ケアを専門に担当。医師になって20年。
お金の勉強はリベラルアーツ大学(リベ大)を参考にしています。