「相続税対策のために、終身保険に入っておいた方がいいですよ」——銀行・保険ショップ・FPからこう言われた経験のある方は多いのではないでしょうか。

結論を先にお伝えします

多くの家庭では、そもそも相続税はかかりません。
「相続税対策」を名目にした終身保険は、ほとんどの場合不要です。

この記事では、

  • 相続税が「実際に発生する家庭」はどれくらいか
  • 基礎控除・配偶者控除の仕組み
  • なぜ「終身保険による相続税対策」が広く勧められているか
  • それでも対策が必要な人
  • お金より大切な「相続対策」

を、リベ大流の考え方をベースに整理します。


1. 大前提:相続税が発生する家庭は実は少ない

国税庁の統計によると、相続税の課税対象になる被相続人の割合は、全死亡者数の約9〜10%程度(2023年実績で約9.9%)です。

つまり、約10人に9人の家庭では、相続税はかからないのが現実です。

「2人に1人ががんになる」と同じく、「相続税対策は必要」という言葉も、ごく一部の高資産世帯の話を、一般化して語られている側面があります。


2. 相続税が発生するかどうかは「基礎控除」で決まる

相続税には以下の基礎控除があります。

基礎控除額=3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

法定相続人とは、配偶者と子(または親・兄弟姉妹)を指します。

計算例

家族構成 基礎控除額
配偶者のみ(子なし) 3,000万 + 600万 × 1 = 3,600万円
配偶者+子1人 3,000万 + 600万 × 2 = 4,200万円
配偶者+子2人 3,000万 + 600万 × 3 = 4,800万円
配偶者+子3人 3,000万 + 600万 × 4 = 5,400万円
配偶者+子4人 3,000万 + 600万 × 5 = 6,000万円
子1人(配偶者なし) 3,000万 + 600万 × 1 = 3,600万円
子2人(配偶者なし) 3,000万 + 600万 × 2 = 4,200万円
子3人(配偶者なし) 3,000万 + 600万 × 3 = 4,800万円

→ 例えば配偶者と子2人の家庭なら、遺産総額が4,800万円以下なら、相続税はゼロです。


3. 配偶者には「1億6,000万円まで非課税」の特例

さらに重要なのが、配偶者の税額軽減です。

配偶者が相続する財産については、1億6,000万円までは相続税がかからない
(または、配偶者の法定相続分以下なら、何億円でも非課税)

これがある限り、配偶者にすべて相続させれば、ほとんどのケースで相続税は発生しません

例:遺産1億円・配偶者+子2人の家庭

  • 基礎控除:4,800万円
  • 課税対象:1億 - 4,800万 = 5,200万円
  • これを配偶者がすべて相続 → 配偶者控除の1.6億円以内 → 相続税ゼロ

ただし、配偶者の二次相続(配偶者が亡くなったとき、子が相続する局面)では基礎控除が縮小するため、最終的な相続税負担を考えるなら配分は要検討、という論点はあります。


4. なぜ「相続税対策に終身保険」が広く勧められるのか

終身保険には、確かに**「相続税の非課税枠」**があります。

生命保険の非課税限度額=500万円 × 法定相続人の数

これは事実です。一見魅力的に見えますが——

落とし穴①:そもそも相続税がかからない家庭には不要

  • 基礎控除以下の家庭では、非課税枠を使う場面がない
  • 「非課税枠があるから入る」では本末転倒

落とし穴②:終身保険のリターンが低い

  • 終身保険は保険料の大部分が手数料・運営費に消える
  • インデックス投資の長期期待リターン(年7〜8%)と比べると、機会損失が大きい
  • 「インデックス投資で運用 → 出た利益に税金を払う」方が、結果的に多く残ることが多い

落とし穴③:保険会社・銀行のセールス動機

  • 終身保険は販売手数料が高い金融商品
  • 「相続税対策」を名目にすると売りやすい
  • 売る側のメリット ≠ 買う側のメリット

5. それでも終身保険による相続税対策が有効なケース

完全否定はしません。以下に該当する方は、限定的に検討余地があります。

条件 該当する人
遺産総額が基礎控除を大幅に超える 数億円規模の資産家
すぐに現金化できる遺産が乏しい(土地・自社株中心等) 相続税の納税資金確保が課題
受取人を指定して特定の人に渡したい 遺留分対策や事業承継対策

→ 一般的な勤労世代・サラリーマン・医師の多くは、これらに該当しません。


6. 多くの家庭にとって本当に大切な「相続対策」

「相続税対策」と「相続対策」は別物です。

用語 内容
相続税対策 相続税の金額を減らす対策
相続対策 残された家族が困らないようにする準備全般(資産整理・遺言・話し合い)

**多くの家庭で本当に必要なのは、「相続税対策」ではなく「相続対策」**です。

相続対策の基本

  1. 資産の棚卸し:何がどこに、いくらあるか、家族が分かる状態にする
  2. エンディングノート:契約・ログイン情報・希望をまとめる
  3. 遺言書:自筆証書遺言+法務局保管制度(費用3,900円)が手軽
  4. 家族での話し合い:遺産配分・介護・葬儀などの希望を共有

特に大切なこと

  • お金を多く遺す=家族が幸せ、とは限らない
  • 配分でもめて家族の関係が壊れるケースは多い
  • 生前の話し合いと書面化が、最大の「相続対策」

7. 筆者の方針

筆者は40代後半の勤務医で、純資産規模は基礎控除を下回る水準です。したがって:

  • 相続税対策としての終身保険は不要と判断
  • インデックス投資中心で資産形成を継続
  • 50歳の節目で**遺言書(自筆+法務局保管制度)**を作成予定
  • エンディングノート・資産マップの整備を進行中

将来、純資産が大きく増えて基礎控除を超える局面が来れば、その時点で再検討します。「対策が必要になってから対策を考える」で十分間に合うケースがほとんどです。


8. まとめ

ポイント 内容
相続税の課税対象 全死亡者数の約10%(10人に9人は非課税)
基礎控除 3,000万 + 600万 × 法定相続人数
配偶者控除 1億6,000万円まで非課税(強力)
終身保険の非課税枠 500万 × 法定相続人数(ただし基礎控除以下なら不要)
セールス動機 終身保険は手数料が高く、売り手のインセンティブが強い
本当に必要なこと 「相続税対策」より「相続対策」(資産整理・遺言・家族の話し合い)

「相続税対策のために終身保険」と言われたら、まず以下を確認してください。

  1. 自分の家族の基礎控除はいくらか
  2. 遺産総額がそれを超える見込みか
  3. 超えるなら、配偶者控除で十分カバーできないか
  4. それでも超えるなら、終身保険以外の選択肢はないか

この4つを冷静に検討すれば、多くの場合「今は不要」という結論に至ります。

お金の話は、売る側の論理と買う側の論理が一致しない典型分野です。自分で計算し、自分で判断できる力を身につけることが、最も確実な「相続対策」だと考えています。


※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務・相続判断を行うものではありません。具体的な税額計算や対策については、税理士など専門家にご相談ください。本記事は2026年5月時点の税制に基づきます。

主要参照

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筆者:田舎の県庁所在地に住む医師。外科学会専門医・乳癌学会認定医。現在は乳がんの検診・診断と緩和ケアを専門に担当。医師になって20年。

お金の勉強はリベラルアーツ大学(リベ大)を参考にしています。