「投資は株式と債券をバランスよく持ちましょう」——投資の入門書を開くと、たいていこう書いてあります。年齢に合わせて「100マイナス年齢 %を株式に」というルールも有名です。

でも、本当にそうでしょうか?

特に医師という職業を考えたとき、この一般論をそのまま当てはめるのは最適ではないかもしれません。筆者自身、リベシティ(リベラルアーツ大学のオンラインコミュニティ)で学んだことをきっかけに、ポートフォリオを「現金+株式」のシンプルな構成に組み替えました。

この記事では、

  • 長期データが示す株式と債券のリターン
  • 「医師の人的資本」という視点
  • なぜ債券を持たないという選択肢があるのか
  • ただし「債券が必要な人」もいる

を整理します。


1. 長期データが示す事実——ただし「現実的な時間軸」で見る

投資の本では、よく「過去200年で株式は◯◯万倍」のような壮大な数字が出てきます。これは事実ですが、実際の私たちが投資できる時間軸はもっと短い——ここがポイントです。

現実的な投資の時間軸

ライフステージ 期間
社会人になって稼ぎ始め、老後資金として使い切るまで 長くて50年(20歳→70歳)
40歳から老後資金準備を本格化(拓さん世代) 30年(40歳→70歳)
退職金や相続を含めて再配分 60代以降の20年程度

個人投資家にとっては、せいぜい30〜50年が現実的な視野。200年データはあくまで「傾向」を見るためのもので、自分の資産形成に直結するのは数十年スケールです。

株式と債券の長期年率リターン(インフレ調整後・実質)

資産クラス 実質年率リターン
株式(米国インデックス) 約6〜7%
長期国債 約3〜3.5%
短期国債 約2〜2.7%
約0.6%
現金 約-1.4%(インフレ負け)

(出典:シーゲル『株式投資』、エリス『敗者のゲーム』ほか)

100万円を投じたら、◯年後にいくらになるか(実質ベース)

期間 株式(年6.5%) 長期国債(年3.5%) 株式は債券の何倍?
10年後 約188万円 約141万円 1.3倍
20年後 約353万円 約199万円 1.8倍
30年後 約661万円 約281万円 2.4倍
40年後 約1,242万円 約395万円 3.1倍
50年後 約2,331万円 約558万円 4.2倍

「30年で株式は債券の2.4倍」「50年で4.2倍」——これが現実的な時間軸での差です。200年で何万倍という極端な話ではなく、自分の老後資金が2〜4倍違うという、実感できるスケールの違いがあります。

⚠️ ただし「持ち続けられた人」の話

これらは途中で売らずに保有し続けた人の結果。途中で恐怖に負けて売った人、暴落時に諦めた人は、この恩恵を受けられません。**「眠れる夜のため」**にバランスを取る価値が、ここに生まれます。


2. それでも「分散しなさい」と言われる理由

伝統的な「株式+債券」のバランス論には合理性があります。

  • 株式は短期的な変動が大きい(10年単位で見ても元本割れの可能性あり)
  • 債券は逆相関の場面が多く、ポートフォリオ全体の値動きを和らげる
  • 「眠れる夜のため」——心理的な安心感が長期投資を続ける支えになる

これは正論です。ただし、人によって最適な配分は違う——ここが本記事のテーマです。


3. 「医師の人的資本は債券的」とはどういうことか

投資の世界には**「人的資本(Human Capital)」**という重要な概念があります。

あなたが将来稼ぐ予定の労働収入の合計=あなた自身が持つ「資産」

医師の人的資本には、以下のような特徴があります:

項目 一般的なサラリーマン 医師
失業リスク 業界によって大 極めて低い
不況時の収入変動 中〜大 小さい(医療需要は不況に強い)
定年後の継続性 限定的 非常勤・読影等で継続可能
キャッシュフローの安定性 業界差大 安定

→ つまり、医師の人的資本は**「ほぼ債券」**のような性質を持っています。

「資産=金融資産+人的資本」で考えると

区分 想定資産 性質
人的資本(医師労働の現在価値) 数億円規模 債券的
金融資産 数千万円〜 自由に選べる

ここで金融資産まで債券中心にすると、**全体としては「債券一色」**になってしまい、株式の長期リターンの恩恵を受けにくくなります。

逆に、金融資産は株式中心にしても、人的資本という強固な"債券"が後ろにあるため、全体のリスクは思ったほど高くない——という発想です。


4. リベ大流:「債券が不要な5つの理由」

両学長(リベラルアーツ大学)が解説している考え方を、医師の文脈に置き換えて整理すると:

① 株式の長期リターンが圧倒的

過去200年のデータが示す通り、長期では株式が他資産を大きく上回る

② 公的年金が「実質的な債券」になる

日本の厚生年金は終身年金で、これ自体がインフレ調整付きの債券のような働きをする 医師の場合、勤務医時代の厚生年金はかなり手厚い水準になる

③ 持ち家がインフレヘッジとして機能

住宅ローン完済後の持ち家は、実質的に**「家賃を払わなくていい資産」**=大きな固定費削減効果 インフレ局面では家賃が上がる中、自分は影響を受けない

④ 遺産・退職金が将来のクッション

親世代の遺産・自分の退職金は、将来の流動性を補う

⑤ 勤労収入そのものが安定キャッシュフロー

毎月の労働収入が、ポートフォリオの暴落時の「自然なドルコスト平均法」として機能 → 暴落時にも淡々と積み立てを続けられる


5. ⚠️ ただし、債券が必要な人もいる

「債券不要論」は万人向けではありません。以下に当てはまる場合は、債券を組み入れる合理性があります。

債券が必要・有効なケース

状況 理由
既にFIREしている(労働収入なし) 人的資本=ゼロ。金融資産のみで生活する以上、安定性が必要
退職後の生活費取り崩し期に入っている 暴落直後の取り崩しは大きく資産を毀損するシークエンスリスク
大きな支出が近い(住宅購入・教育費等) 株式の短期変動に耐えられない資金は債券・現金で
暴落時に売ってしまう性格を自覚している 100%株式は精神的に保たない人は、債券で和らげる方が長期で続けられる

→ つまり、**「労働収入がある」「長期で持てる」「暴落に動揺しない」**の3条件が揃って初めて、「債券不要」が成立します。


6. 筆者の実践

筆者は40代後半の勤務医で、リベシティで学んだ考え方を踏まえ、ポートフォリオを「現金+株式(インデックスファンド中心)」のシンプルな構成にしています。

区分 概要
人的資本 医師労働+副業(読影)。あと10〜15年で本業の常勤は引退予定
金融資産 株式(インデックス中心)が大部分

なぜ「債券」ではなく「現金」を選んだか

  • 現在の日本の金利環境では、債券の実質リターンが乏しい
  • 自分の時間軸(あと20〜30年)では、株式の長期リターンを取りに行く方が合理的
  • 安全資産は「現金」でシンプルに持ち、いざというときの流動性を優先

暴落耐性の自己評価

  • 2020年コロナショック:売らずに保有継続できた
  • その他の調整局面:むしろ淡々と買い増しできた
  • 自分の性格的にも「暴落=バーゲン」と捉えられる側だと自覚

60歳前後で組み替える予定

  • 現役引退(常勤→非常勤シフト)が見えてきたら、現金比率を段階的に上げる予定
  • 「人的資本がなくなる前」に金融資産を安定化させるのがセオリー

7. まとめ

ポイント 内容
長期データ 株式の実質リターンは債券の約2倍、長期では差が爆発的
人的資本の概念 医師の労働収入は「債券的」資産。これを資産全体に組み込んで考える
債券不要論の3条件 ①労働収入がある ②長期で持てる ③暴落に動揺しない
債券が必要なケース FIRE済/取り崩し期/近未来の大支出/暴落で売ってしまう性格
推奨スタンス 「100マイナス年齢」を機械的に当てはめず、人的資本込みで全体最適を考える

「株式と債券は分散しなさい」は決して間違いではありません。ただ、自分の人的資本という最大の資産を視野に入れずに、金融資産の中だけでバランスを考えると、結果的に過剰な保守化になってしまうことがあります。

特に医師のように人的資本が安定している職業の方は、金融資産は株式中心で考え、現役引退が近づいてから段階的に債券・現金を増やす——という形が、長期リターンと安心の両立につながりやすい選択だと考えています。

ただし、「眠れない夜」が来るような配分は長期で続きません。自分の性格と人生設計に合わせて、納得できるバランスを選んでください。


※本記事は個人的な見解と一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の購入を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。本記事は2026年5月時点の情報に基づいています。

主要参照

  • ジェレミー・シーゲル『株式投資(Stocks for the Long Run)』
  • チャールズ・エリス『敗者のゲーム』
  • リベラルアーツ大学(両学長):「ポートフォリオに債券を組み入れる必要性」関連の解説

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筆者:田舎の県庁所在地に住む医師。外科学会専門医・乳癌学会認定医。現在は乳がんの検診・診断と緩和ケアを専門に担当。医師になって20年。

お金の勉強はリベラルアーツ大学(リベ大)を参考にしています。