ワクチンの制度について、これまで2本書いてきました。

共通していたのは、「推奨されている」ことと「公費で打てる」ことは別物だという点です。

3本目は、高齢者の肺炎球菌ワクチンです。このワクチンは2026年4月に、使うワクチンそのものが新しいものに切り替わりました。

ところが、その切り替えにあたって国が決めたことがあります。

66歳以上の方に向けた経過措置は、設けない。

帯状疱疹ワクチンには、65歳を過ぎた方にも1回ずつ機会をつくる経過措置がありました。肺炎球菌では、新しいワクチンが入っても、それがありません。この記事では、その経緯と、いま65歳前後の方が知っておくべきことを整理します。


1. 肺炎と肺炎球菌

まず、相手の大きさから。

厚生労働省のリーフレットによると、肺炎は日本の死亡原因の第5位です。そして成人の肺炎の約2〜3割は、肺炎球菌という細菌が原因とする報告があります。

肺炎球菌は肺炎だけでなく、血液の中に細菌が回ってしまう敗血症など、重い感染症の原因にもなります。細菌が本来いないはずの血液や髄液から見つかる状態を「侵襲性肺炎球菌感染症」と呼び、命に関わることがあります。


2. 2026年4月に、ワクチンが変わった

これまで定期接種で使われてきたのは「23価」と呼ばれるワクチン(PPSV23)でした。2026年4月から、「20価」の新しいワクチン(PCV20)に切り替わっています。

数字が23から20に減っているので、「対象が減って弱くなったのでは」と思われるかもしれません。そうではありません。

これまで(PPSV23) 2026年4月から(PCV20)
種類 莢膜ポリサッカライドワクチン 結合型ワクチン
対象とする型の数 23種類 20種類
接種 1回 1回(筋肉注射)

肺炎球菌には100種類以上の型があります。数の多さより大事なのは、免疫のつき方です。新しいワクチンは「結合型」と呼ばれるタイプで、厚生労働省は変更の理由として、免疫を得る仕組みが異なり、より高い有効性が期待できること、そして成人の重い感染症に関わる型をカバーする割合はおおむね同等であることを挙げています。

効果は次のように説明されています。

  • 対象の20種類の型は、成人の侵襲性肺炎球菌感染症の原因の約5〜6割を占める
  • 型に関係なく見た侵襲性肺炎球菌感染症全体を、約3〜4割予防する効果があるという研究結果がある

すべての肺炎を防げるわけではありません。 肺炎の原因は肺炎球菌だけではなく、肺炎球菌の中にもワクチンが対象としない型があります。それでも、重い感染症の一部を確実に減らせるワクチンです。

副反応は、厚生労働省のページでこう示されています。

主な副反応 割合
接種部位の痛み・押したときの痛み 59.6%
筋肉痛 38.2%
疲労 30.3%
頭痛 21.7%
関節痛 11.6%

3. 公費の機会は「65歳の1年間」、生涯1回だけ

ここが本題です。

定期接種の対象は、次の方です。

  • 65歳の方
  • 60〜64歳で、心臓・腎臓・呼吸器の機能に障害があり身の回りの生活を極度に制限される方、またはHIVにより免疫の機能に障害があり日常生活がほとんど不可能な方

そして、厚生労働省のリーフレットにはこう明記されています。

定期接種は生涯で1回のみ。定期接種の機会は65歳の1年間です。

帯状疱疹とは「1年間」の数え方が違う

ひとつ注意してほしいのが、期間の区切り方です。

帯状疱疹 肺炎球菌
対象 年度内に65歳を迎える方 接種日に65歳の方
期間の区切り 年度(4月〜翌3月) 65歳の誕生日を基準にした1年間

たとえば横浜市は「接種日現在で65歳の方」を対象としています。つまり肺炎球菌は、65歳の誕生日から、66歳の誕生日を迎えるまでの1年間です(正確な最終日は自治体に確認してください)。

同じ「65歳」でも、ワクチンによって数え方が違う。これは案内を読んでもなかなか気づけない落とし穴だと思います。2つのワクチンの期限の関係は、後半の第6節で整理します。

過去に打ったことがある方

以前に高齢者の肺炎球菌の定期接種を受けたことがある方は、対象外です(予防接種法施行規則による)。

自費で接種したことがある方の扱いは、自治体によって書き方が少し違います。横浜市は「過去に自費で接種した方は、医師に再度接種の必要があると認められた場合に限り対象」、東京都中央区は「接種歴がある方は原則対象外、医師が必要と認めれば対象」としています。心当たりのある方は、接種する医療機関で相談してください。


4. 66歳以上の方には、経過措置がない

さて、ここからがこの記事でいちばん伝えたいことです。

23価のときには、10年間の経過措置があった

実は肺炎球菌ワクチンにも、以前は経過措置がありました。2014年度から2023年度までの約10年間、65歳を超える方にも5歳刻みで23価ワクチンの機会が提供されていました。この経過措置は2024年3月31日に終了しています。

新しいワクチンでは、設けないと決まった

では、2026年4月に新しいワクチンに切り替わるとき、66歳以上の方にも機会をつくるのか。国の審議会でこれが議論され、2025年12月19日に結論が出ました。

現時点では、65歳を超える方に対する経過措置を設けないこととする。

理由として挙げられたのは、次のような点です(2026年2月の国の資料による)。

  • 23価ワクチンの接種機会は、すでに十分に確保されていた
  • ワクチンの有効性は、高齢になるほど低下する
  • 専門家の小委員会で、まず第一に65歳が適切とされた
  • 自治体の事務負担が増える
  • 今後、さらに新しい21価ワクチン(2025年8月に承認)について議論が始まる見込みである

そして、66歳以上の方への経過措置は、21価ワクチンの定期接種化を検討する際に、その必要性も含めて改めて検討するとされました。

一度は「70歳にも機会を」という方向だった

ここで私が注目したのは、その2か月前の議論です。

2025年10月の審議会では、70歳で新しいワクチンの接種機会を設けることを軸に検討するとされていました。しかも専門家の小委員会は、23価をすでに打った人を含めても、70歳での接種は費用対効果の面で良好だと評価していました。

それでも12月には、上に挙げた理由から見送られました。

これは、どちらが正しいという話ではありません。医学的な費用対効果だけでなく、自治体の事務や、次のワクチンの議論との兼ね合いまで含めて、制度は決まっていきます。「医学的に良好」と「公費の対象になる」は、ここでもイコールではありませんでした。

では、66歳以上の方はどうすればいいか

公費の対象ではありませんが、自費で打つことはできます(任意接種)。自費の価格は医療機関ごとに決まる自由診療で、公的に決まった値段はありません。

ただ、66歳以上の方の場合、過去に23価を打ったかどうか、打ったならいつかによって、どのワクチンをどの間隔で打つのがよいかが変わります。専門の学会も年齢や接種歴ごとの考え方を示していますが、個人の状況で判断が分かれる部分です。

かかりつけ医に、ご自身の接種歴を伝えて相談する——これがいちばん確実です。接種歴が分からない方は、お住まいの市区町村に記録が残っていることがあります。


5. お金の話:自己負担は自治体で違う

定期接種の自己負担額も、自治体ごとに違います。

自治体 自己負担(2026年4月以降)
横浜市 5,000円
東京都中央区 3,000円

同じワクチンでも、住む場所で2,000円違います。多くの自治体では、住民税非課税世帯や生活保護を受けている方は自己負担が免除されます(横浜市の場合)。

ほかの自治体は調べきれていません。お住まいの市区町村の予防接種担当課に確認するのが確実です。この窓口は、HPVでも帯状疱疹でも同じです。


6. 帯状疱疹ワクチンと一緒に考える

65歳は、帯状疱疹ワクチンと肺炎球菌ワクチンの両方が定期接種の対象になる年齢です。

厚生労働省の説明書によると、医師が特に必要と認めた場合は、帯状疱疹ワクチンと高齢者肺炎球菌ワクチンの同時接種も可能です。

ただし、2つのワクチンは期間の数え方が違います。

打てるようになる時期 期限
帯状疱疹 65歳を迎える年度の接種期間が始まったら(誕生日の前でも可) その年度の3月31日まで
肺炎球菌 65歳の誕生日から 66歳の誕生日を迎えるまで

ここから分かる大事なことがあります。

帯状疱疹の期限(年度末)は、肺炎球菌の期限(66歳の誕生日)より必ず先に来ます。

「65歳のうちに打てばいい」と考えて66歳の誕生日の直前まで待っていると、帯状疱疹のほうはすでに期限が過ぎている、ということが起こりえます。

たとえば2026年5月に65歳になる方なら、帯状疱疹は2027年3月31日まで、肺炎球菌は2027年5月の誕生日を迎えるまでです。65歳になる年度に入ったら、先に帯状疱疹の期限を確かめる——この順番を覚えておいてください。


7. 打った後のために:救済制度

ワクチンで健康被害が生じた場合に、医療費などの給付を受けられる予防接種健康被害救済制度があります。相談先は、予防接種を受けたときに住民票を登録していた市町村です。


おわりに:制度は、医学だけでは決まらない

3本のワクチンの記事を書いてきて、見えてきたことがあります。

  • HPV:女性の接種率は住む場所で3倍違い、男性は自治体によって0円か数万円か
  • 帯状疱疹:公費の機会は生まれ年で決まった1年度だけ
  • 肺炎球菌:新しいワクチンに変わっても、66歳以上への経過措置は設けられなかった

どれも、医学的な推奨と、公費で打てるかどうかが、ぴったりとは重なっていません。制度は、効果や費用対効果だけでなく、財源、自治体の事務、次のワクチンの議論まで含めて決まっていくからです。

それ自体を責めるつもりはありません。ただ、受け取る側がその構造を知らないと、機会があったことに気づかないまま、期限が過ぎてしまいます。

肺炎球菌ワクチンについて、今日確かめてほしいことはひとつです。

65歳の方は、66歳の誕生日がいつかを確かめてください。 それが公費で打てる最後の日の目安です。

ご両親が65歳前後の方も、ぜひ一緒に確かめてみてください。打つか打たないかはご本人が決めることですが、決める機会そのものを、知らないうちに失ってほしくない——このシリーズで伝えたいのは、それだけです。


参考情報

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この記事は一般的な医学情報の提供を目的としており、個別の診断・治療の代替となるものではありません。接種の可否や接種歴に応じたワクチンの選び方は、必ず医療機関にご相談ください。制度の内容や自己負担額は変更されることがあるため、最新の情報はお住まいの市区町村にご確認ください。

筆者:田舎の県庁所在地に住む医師。外科学会専門医・乳癌学会認定医。現在は乳がんの検診・診断と緩和ケアを専門に担当。医師になって20年。