先日、HPVワクチンについての記事を書きました。そのとき気づいたのは、「推奨されている」ことと「公費で打てる」ことは、まったく別の話だということでした。

→ 同じ国で3倍の差——HPVワクチンを「打つ・打たない」の前に知ってほしいこと

今回はその続きとして、帯状疱疹ワクチンを取り上げます。2025年度から、65歳の方などを対象に公費で受けられる定期接種になりました。

ただし、ここに落とし穴があります。

公費で打てるのは、生まれ年ごとに決まった「1年度」だけです。その年度を逃すと、今の制度では二度目の機会はありません。

そして、自分の年度がいつなのかは、**今年度に迎える年齢の「下1桁」**で確かめられます。この記事ではその見分け方と、2種類あるワクチンの違い、お金の話、そして「もしかかったら」を整理します。


1. 帯状疱疹は、どれくらい身近な病気か

帯状疱疹は、子どもの頃にかかった水ぼうそうのウイルスが、体の神経の中に何十年も潜み続け、免疫が落ちたときに再び暴れ出す病気です。体の左右どちらかに、帯のように痛みを伴う水ぶくれが出ます。

身近さを数字で見ます。

  • 80歳までに、3人に1人が帯状疱疹を経験すると推定されています
  • 85歳の人の約半数が、帯状疱疹にかかったことがあるという報告があります
  • 発症が最も多いのは70歳代です

そして、増えています。宮崎県で長年続けられている大規模調査では、帯状疱疹の患者数は1997年の4,243人から2017年には6,555人へ、54.5%増えました。人口あたりの発生率でみても、1,000人あたり年3.61人(1997年)から6.50人(2020年)へと、およそ1.8倍になっています。

怖いのは、治った後に残る痛み

帯状疱疹で本当に厄介なのは、皮膚が治った後も痛みが続く帯状疱疹後神経痛です。報告によって幅がありますが、帯状疱疹になった人の1〜5割に起こるとされています。

50歳以上を対象にした国内の調査では、帯状疱疹になった人の**19.7%**がこの神経痛に移行していました。年齢別に見ると、60歳代で13.6%、80歳代では32.9%。年を取るほど、残りやすくなります。

緩和ケアに携わる医師として言うと、神経の痛みは、普通の痛み止めが効きにくいことがあります。防げるなら防いだほうがいい痛みの代表だと思っています。


2. 公費で打てるのは「決まった1年度」だけ

ここが本題です。

定期接種の対象は、次のとおりです(厚生労働省の説明書による)。

  • 年度内に65歳を迎える方(今後もずっと続く枠)
  • 経過措置として、2025年度から2029年度までの5年間、その年度内に70・75・80・85・90・95・100歳になる方
  • 60〜64歳で、HIVにより免疫の機能に重い障害がある方

経過措置は5歳刻みで、5年間だけです。これを年齢ごとに計算すると、65歳以上の方は全員、生まれ年ごとに「1年度だけ」公費の機会があることになります。その年度を逃すと、次の区切りの年齢になるころには経過措置が終わっています。

年齢の下1桁で確かめる

今年度(2026年4月〜2027年3月)の間に迎える年齢で見てください。65歳以上の方は、下1桁でこうなります。

今年度に迎える年齢の下1桁 例 あなたの公費の年度
0・5 65、70、75、80歳 今年度(2027年3月末まで)
4・9 69、74、79歳 来年度(2027年度)
3・8 68、73、78歳 2028年度
2・7 67、72、77歳 2029年度(経過措置の最終年度)
1・6 66、71、76歳 2025年度で終了(今の制度では公費の機会はもうありません)

64歳以下の方は、65歳を迎える年度が対象になります。

いちばん注意してほしいのは、下1桁が0か5の方です。今年度が、あなたの唯一の年度です。そして下1桁が1か6の方は、昨年度(2025年度)が対象でした。ご存じなかった方もいると思います。

(この表は、国の定めた対象年齢から筆者が計算したものです。ご自身が対象かどうかは、必ずお住まいの市区町村で確認してください。)

「年度内」の落とし穴

もうひとつ、見落としやすい点があります。

接種できる期間は、年度の中で区切られています。 しかも自治体によって開始日が違います。たとえば横浜市の2026年度の接種期間は、2026年7月1日〜2027年3月31日です。そして「実施期間を過ぎると、この金額(または無料)で接種を受けることができなくなります」と明記されています。

さらに、後で説明する組換えワクチンは2か月以上空けて2回打つものです。年度末ぎりぎりに1回目を打つと、2回目が年度をまたいでしまいます。その場合の扱いは自治体に確認が必要ですが、対象年度だと分かったら、早めに動くのが安全です。


3. 2種類のワクチン、何が違うのか

帯状疱疹ワクチンは2種類あり、定期接種ではどちらかを選べます。

生ワクチン 組換えワクチン
回数 1回(皮下注射) 2回(筋肉注射・2か月以上空ける)
予防効果(接種1年後) 6割程度 9割以上
予防効果(5年後) 4割程度 9割程度
予防効果(10年後) ― 7割程度
帯状疱疹後神経痛への効果(3年後) 6割程度 9割以上
免疫が落ちている人 接種できない 接種できる

効果の高さと持ちの良さでは、組換えワクチンが明らかに上です。ただし代わりに、副反応が出やすく、2回打つ必要があり、自己負担も高くなります。

副反応の出る割合 生ワクチン 組換えワクチン
70%以上 ― 接種部位の痛み
30%以上 接種部位の赤み 接種部位の赤み、筋肉痛、疲労
10%以上 かゆみ、熱感、腫れ、痛み、しこり 頭痛、腫れ、寒気、発熱、胃腸の症状

組換えワクチンは、7割以上の人が接種部位の痛みを感じます。事前に知っておくと、慌てずに済みます。

頻度は分かっていませんが、まれに重い副反応も報告されています(生ワクチンではアナフィラキシー、血小板減少性紫斑病、無菌性髄膜炎。組換えワクチンではショック、アナフィラキシー、ギラン・バレー症候群)。

がん治療中の方は「組換え」一択です

ここは、がん診療に関わる医師として強調しておきたいところです。

抗がん剤などの治療で免疫が落ちている方は、生ワクチンを打てません。 組換えワクチンなら、免疫の状態にかかわらず接種できます。病気や治療で免疫が下がる可能性がある方は、医師の判断で接種間隔を1か月まで縮めることもできます。

帯状疱疹は、免疫が落ちたときに出る病気です。つまり、がん治療中の方ほどかかりやすく、しかも生ワクチンは使えない。治療を受けている方、これから受ける予定の方は、主治医に一度相談してみてください。

なお、過去に帯状疱疹にかかったことがある方も、定期接種の対象です(ワクチンの種類は問いません)。帯状疱疹は一度かかっても再びかかることがあり、その割合は報告によって**1〜6%**とされています。


4. お金の話:同じ定期接種でも、自己負担は自治体で違う

定期接種の自己負担額は、国が一律に決めているわけではありません。自治体ごとに違います。

生ワクチン(1回) 組換えワクチン(2回)
横浜市 4,000円 10,000円×2回=20,000円
東京都大田区 4,000円 11,000円×2回=22,000円

隣り合う大きな自治体でも、組換えワクチンで2,000円の差があります。多くの自治体では、住民税非課税世帯や生活保護を受けている方は自己負担が免除されます(横浜市の場合)。

年度を過ぎると、全額自費

対象年度を逃すと、公費の補助がなくなり全額自費になります。自費の価格は医療機関がそれぞれ決める自由診療で、公的に決まった値段はありません。大田区のページにも「実際の接種費用は医療機関で異なります」と書かれています。定期接種の自己負担は、本来の費用のうち自治体が補助した残りの部分なので、自費になると、その補助分がまるごと上乗せされることになります。

具体的な金額を知りたい方は、かかりつけの医療機関に聞くのが確実です。

50〜64歳にも、助成がある自治体がある

定期接種の対象外である50〜64歳でも、自治体が独自に費用を助成していることがあります。たとえば大田区では、50歳以上で定期接種の対象でない方に、組換えワクチン1回あたり11,000円、生ワクチン1回あたり4,000円を助成しています。

HPVワクチンの男性接種と同じで、住んでいる場所によって、助成があるかないかが変わります。

正直に書いておくと、全国1,700を超える自治体の状況は調べきれていません。調べ方はひとつで、お住まいの市区町村の予防接種担当課に聞くのが確実です。この窓口は、HPVでも帯状疱疹でも肺炎球菌でも同じです。


5. もし、かかってしまったら

ワクチンを打っても、100%防げるわけではありません。最後に、かかったときに一番大事なことを書いておきます。

皮膚に帯のような発疹が出たら、3日以内に受診してください。

帯状疱疹には、ウイルスの増殖を抑える薬(抗ウイルス薬)があります。この薬は、発疹が出てから3日以内に飲み始めるのが望ましく、遅くとも5日以内に始めることとされています。早く始めるほど、痛みの期間が短くなり、帯状疱疹後神経痛が残りにくくなります。

「ただの湿疹かな」「様子を見よう」と思っているうちに5日が過ぎてしまう、というのは誰にでも起こりうることです。体の片側だけに、痛みやピリピリ感を伴う発疹が帯状に出たら、帯状疱疹を疑って早めに皮膚科や内科を受診してください。


6. 打った後のために:救済制度

ワクチンで健康被害が生じた場合に、医療費などの給付を受けられる予防接種健康被害救済制度があります。

相談先は、予防接種を受けたときに住民票を登録していた市町村です。引っ越した後でも、接種時の自治体が窓口になる点に注意してください。


おわりに:知らないまま、年度が終わらないように

HPVワクチンの記事で、私はこう書きました。**避けたいのは「打たない」という結論ではなく、「知らないまま終わること」**だと。

帯状疱疹ワクチンは、その構図がもっとはっきりしています。

公費の機会は、生まれ年で決まった1年度だけ。 市区町村から案内が届くこともありますが、見落とせばそれで終わりです。制度が悪いというより、「いつでも打てる」と思い込みやすい作りになっているのだと思います。

だから、今日やってほしいことはひとつです。

今年度に迎える年齢の、下1桁を確かめてください。

0か5なら、今年度があなたの年度です。ご両親やご家族の年齢も、一緒に確かめてみてください。家族のほうが気づくことは、案外多いものです。

打つか打たないかは、ご本人が決めることです。ただ、決める機会そのものを、気づかないうちに失ってほしくない——この記事で伝えたいのは、それだけです。


参考情報

※「年齢の下1桁」の表は、厚生労働省が示す対象年齢と経過措置の期間から筆者が計算したものです。

あわせて読みたい


この記事は一般的な医学情報の提供を目的としており、個別の診断・治療の代替となるものではありません。接種の可否や体調については、必ず医療機関にご相談ください。制度の内容や自己負担額は変更されることがあるため、最新の情報はお住まいの市区町村にご確認ください。

筆者:田舎の県庁所在地に住む医師。外科学会専門医・乳癌学会認定医。現在は乳がんの検診・診断と緩和ケアを専門に担当。医師になって20年。