📌 ピン留め 【2026年8月改定】高額療養費制度はこう変わる——がん患者・家族が知っておくこと

「がん治療費の心強い味方」である高額療養費制度が、2026年8月診療分から見直されました(第1段階)。 2026年8月2日更新:改定が施行されたため、記事全体を施行後の内容に更新しました。年間上限の金額も確定分に差し替えています。 結論:今回(第1段階)の引き上げ幅は区分により約4〜7%、金額にして月+1,500〜17,700円です。ただし同時に年間上限が新設されたため、長期治療の方はむしろ負担が下がる場合があります。報道で見る「最大38%」は2027年8月までの2段階を通じた数字で、今回の引き上げ幅ではありません。 「いくら増えるのか」「自分は影響を受けるのか」「何か対策はあるのか」——この記事では、がん患者・家族の視点から、2026年8月の改定を分かりやすく解説します。 制度の基本については先に がん治療の医療費——高額療養費制度を知っておく をご覧ください。 1. なぜ改定されたのか 背景 医療費の増大(高齢化・高額薬剤の登場) 健康保険財政の持続可能性確保 「応能負担」の強化(収入に応じた負担を) 改定の規模 報道でよく見る「4〜38%引き上げ」という数字は、2027年8月までの2段階を通じた最大値です。 2026年8月の第1段階だけを見れば、引き上げ幅は各区分(後述の金額から計算すると約4〜7%)にとどまります。高所得層ほど引き上げ幅が大きい設計で、38%に達するのは2027年8月の細分化後に最上位区分となる層です。 参考情報源:厚生労働省保険局「高額療養費制度の見直しについて」(令和7年12月25日 第209回社会保障審議会医療保険部会):https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001621844.pdf 2. 改定の全体像——2段階で進む 時期 内容 状況 2026年8月 第1段階:69歳以下の自己負担上限を引き上げ(5区分のまま)+年間上限の新設 施行済み 2027年8月 第2段階:所得区分を5区分→13区分に細分化 予定 → 2027年8月までに 計2回の改定が行われます。1回目はすでに始まっています。 3. 第1段階(2026年8月)の具体的な変更 69歳以下の方の月額自己負担限度額の引き上げ: 区分 年収目安 改定前(〜2026年7月) 改定後(2026年8月〜) 引き上げ額 ア 約1,160万円以上 252,600円 + α 270,300円 + α +17,700円 イ 約770〜1,160万円 167,400円 + α 179,100円 + α +11,700円 ウ 約370〜770万円 80,100円 + α 85,800円 + α +5,700円 エ 〜約370万円 57,600円 61,500円 +3,900円 オ 住民税非課税 35,400円 36,900円 +1,500円 ※「+ α」は医療費が基準額を超えた分の1%を加算。改定後の基準額は区分ア 901,000円・区分イ 597,000円・区分ウ 286,000円。 ...

May 20, 2026 · 2 min

10月から酒税が変わる——で、うちはいくら増えるのか計算してみた

2026年10月1日から、酒税が変わります。「発泡酒が値上げ」「増税」という見出しを見て、少し身構えた方もいるかもしれません。 そこで、わが家では実際に年間いくら増えるのかを計算してみました。 結論を先に書きます。年間およそ500円でした。 月にすると40円ほどです。正直、拍子抜けしました。 この記事では、何がいくら変わるのかを国税庁の資料で確認したうえで、飲む頻度ごとに年間いくら変わるかの早見表を作りました。ご自身の行を探してみてください。 そして最後に、この改正で本当に効いてくるのは金額ではないという話をします。 1. 何が、いくら変わるのか まず事実から。1本あたりの酒税額です(左が9月30日まで、右が10月1日から)。 区分 350ml缶 差 500ml缶 差 ビール 63.35円 → 54.25円 ▲9.10円 90.50円 → 77.50円 ▲13.00円 発泡酒(麦芽比率25%以上50%未満) 54.25円 → 54.25円 変わらず 77.50円 → 77.50円 変わらず 発泡酒(麦芽比率25%未満) 46.99円 → 54.25円 +7.26円 67.12円 → 77.50円 +10.38円 いわゆる「新ジャンル」 46.99円 → 54.25円 +7.26円 67.12円 → 77.50円 +10.38円 チューハイなど(その他の発泡性酒類) 28.00円 → 35.00円 +7.00円 40.00円 → 50.00円 +10.00円 ここで気づいてほしいことがあります。 ビールは、下がります。 2020年10月から段階的に進んできたビール系飲料の税率の一本化が、今回で最終段階を迎えます。高いほうを下げ、安いほうを上げて、同じにするという改正です。だから「増税」と一言でまとめると、半分しか言っていないことになります。 2. 「発泡酒は全部上がる」は、正確ではありません 細かい話ですが、ニュースではあまり触れられない点です。 発泡酒は、麦芽の比率によって3段階に分かれています。 麦芽比率 現行の税額(350ml) 10月以降 50%以上 63.35円 54.25円(下がる) 25%以上50%未満 54.25円 54.25円(変わらない) 25%未満 46.99円 54.25円(上がる) つまり**「発泡酒」と一括りにすると間違い**で、中身によって上がるものも下がるものも、変わらないものもあります。 ...

September 15, 2026 · 1 min

親のお金のSOSは、「助けて」の形では届かない——父からの一通のメール

二十年近く前、まだ学生だった頃の話です。卒業旅行や部活の遠征などで、毎月の仕送りとは別に、両親にまとまった額を工面してもらったことがありました。 その数年後、父から連絡が来ました。要約すると、「あのとき渡したお金を返してほしい」という内容でした。 正直に書きます。そのとき私が思ったのは、**「父がお金に困っているわけがないだろうに」**でした。 今になって振り返ると、その少し前に父は退職しています。そして不動産のローンを抱えていました。あのメールは、おそらく請求ではなく、家計への不安が形を変えて出てきたものだったのだと思います。 父は今年、亡くなりました。もう本人に確かめることはできません。 この記事は、その後悔から書いています。ただし「親孝行をしましょう」という話ではありません。親からのお金のサインは、見逃しやすい——そのことと、元気なうちに確認しておける具体的なことを整理します。 親のSOSは、「相談」の形をしていない もし父が「退職後の生活費が足りない。ローンの返済が重い。相談に乗ってほしい」と書いてきていたら、当時の私でも何かはできたかもしれません。 でも、実際に届いた言葉は「あのお金を返してほしい」でした。 これは私の父だけの話ではないと思います。お金の不安は、親から子へストレートには伝わりません。 次のような形に変わって出てきます。 昔の貸し借りを持ち出す 「保険を見直そうと思う」と唐突に言い出す 家の修繕や車の買い替えを、やたらと先延ばしにする 「お前たちに迷惑はかけないから」と、聞いてもいないのに宣言する 親の世代には、子にお金の話をすることへの強い抵抗があります。「親としての面子」もあれば、「心配をかけたくない」という気持ちもあります。だから、遠回りな形でしか出てきません。 問題は、受け取る側にお金の知識がないと、それがサインだと分からないことです。わがままにも、不機嫌にも見えてしまう。私はそうでした。 退職直後の家計に、何が起きているのか では、退職した親の家計では実際に何が起きているのか。まずは全体像から見ます。 総務省の家計調査(2025年平均)によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の1か月の収支はこうなっています。 項目 金額(月額) 実収入 254,395円 可処分所得(手取り) 221,544円 消費支出 263,979円 差額(不足分) 約42,000円 平均消費性向は119.2%。つまり手取り100に対して119を使っている状態が、平均的な姿です。年間にすると約51万円の不足になります。 ひとり暮らしの高齢世帯でも構図は同じで、可処分所得118,465円に対し消費支出148,445円、月およそ3万円の不足です。 ここで大事なのは、「平均でも足りていない」という点です。これは特別に浪費している家庭の話ではありません。貯蓄を取り崩しながら暮らすのが、退職後の標準的な状態なのです。 収入は階段状に落ちるのに、支出はゆっくりしか落ちない 退職すると、給与収入はある月を境にゼロになります。一方、年金の受給開始は原則65歳です(日本年金機構)。60歳や62歳で退職した場合、年金が始まるまでの数年間、収入の空白が生まれます。 対して支出はどうか。食費や光熱費はすぐには変わりません。保険料も、通信費も、自動では下がりません。収入は崖のように落ち、支出はなだらかにしか落ちない——この時間差が、退職直後がいちばん不安になる理由です。 繰上げ受給を選べば早く受け取れますが、その分は減額されます。逆に繰下げれば増額されますが(最大84%)、増えるのは額面であって手取りとは限りません。この話は別記事で詳しく書きました。 → 年金は「繰下げれば得」とは限らない——増額の裏で増える税金と保険料 そして、ローンだけが減らない 家計調査の数字には表れないものがあります。借入の返済です。 住宅ローンにせよ、投資用不動産のローンにせよ、返済計画は現役時代の収入を前提に組まれています。ところが返済そのものは、退職しても1円も軽くなりません。 収入は減る 返済額は変わらない 完済はまだ何年も先 この3つが重なった瞬間に、家計は一気に苦しくなります。私の父の場合も、おそらくこの構図でした。 不動産を持っている場合はもう一段複雑です。売れば返済は終わりますが、売却額がローン残債を下回れば、差額は手元から出すことになります。「売って終わりにする」という出口が、必ずしも使えるとは限らないのです。 親が現役の頃に組んだ借入は、子から見えません。残債がいくらで、完済が何歳になるのか——これを知らないままだと、親の不安の正体は最後まで分かりません。 知らなければ、翻訳もできない ここまで書いたことは、今の私には分かります。しかし当時の私には、ひとつも分かりませんでした。 年金を何歳からもらうように決めたのかも、退職後の家計が平均で赤字だということも、ローンが老後にどう効いてくるのかも、知りませんでした。だから、父の言葉を翻訳できなかったのです。 親のサインを受け取れるかどうかは、親の伝え方の問題ではなく、子の側の知識の問題だった。私はそう考えています。 お金の勉強というと、自分の資産を増やすためのものだと思われがちです。でも実際には、家族の言葉を理解するための語学のような側面があります。 親が元気なうちに、確認しておける3つのこと では具体的に何を聞けばいいのか。私が「あのとき知っていればよかった」と思う3点を挙げます。 その前に——「いくら持っているか」は聞かない 先に、やらないほうがいいことから書きます。貯蓄額や資産額を、最初に尋ねないでください。 親にとっていちばん答えにくい質問であり、しかも聞けなくても困りません。ここから挙げる3つが分かれば、家計が回るかどうかの見当はつきます。 順序を間違えて警戒されると、その後の会話がすべて閉じてしまいます。一度「詮索された」と受け取られると、次に何を聞いても身構えられる。取り返しがつきにくいのはこちらのほうです。 そのうえで、答えやすいものから順に聞いていきます。 ① 年金が「いつから」「いくら」始まるか いちばん答えやすく、いちばん重要です。しかも親自身の手元に、答えが書かれた紙があります。 ねんきん定期便は毎年、誕生月に届きます。ここで知っておきたいのは、記載内容が年齢で変わることです。 対象 記載される内容 50歳未満 これまでの加入実績に応じた年金額 50歳以上 老齢年金の種類と見込額 つまり50歳以上の親のねんきん定期便には、将来の見込額が書いてあるということです。「いくらもらえるか分からない」と親が言う場合、多くは金額が不明なのではなく、書類を見ていないだけです。 ...

August 31, 2026 · 1 min

暴落が「いつ」来るかで結果が変わる——教育費で考える順序リスク

「積立は順調です。あとは使うときが来るのを待つだけ」 そう思っている方に、ひとつだけ知っておいてほしいことがあります。同じ平均リターンでも、良い年と悪い年が来る「順番」によって、手元に残る金額は変わります。 これを順序リスク(シークエンスリスク)といいます。以前株式と債券を比べた記事で名前だけ触れましたが、今回は数字で詳しく見ていきます。 題材は、多くの家庭にとって最初にやってくる大きな取り崩し——子どもの教育費です。 ※特定の銘柄・商品の売買を勧めるものではありません。投資にはリスクがあり、元本は保証されません。最終的な判断はご自身で。 同じ値動きなのに、150万円の差がつく 子ども1人分の教育費として1,000万円を用意し、大学4年間で毎年250万円ずつ使っていくとします。 2年間の値動きは「▲30%」と「+30%」。順番だけが違う2つのケースを比べます。 ケースA:先に暴落が来た 計算 年末の残高 1年目 1,000万 × 0.7 = 700万 → 250万使う 450万 2年目 450万 × 1.3 = 585万 → 250万使う 335万 ケースB:あとで暴落が来た 計算 年末の残高 1年目 1,000万 × 1.3 = 1,300万 → 250万使う 1,050万 2年目 1,050万 × 0.7 = 735万 → 250万使う 485万 値動きはまったく同じ。使った金額も同じ。それなのに、残高は150万円違います。 1,000万円の教育資金に対して150万円ですから、割合にすると15%。金額で言えば、大学の学費が1年半ぶん消える規模です。 なぜ差が生まれるのか 答えはシンプルで、取り崩しているからです。 取り崩しをしなければ、順番は結果に一切影響しません。実際に計算してみると、 1,000万 × 0.7 × 1.3 = 910万 1,000万 × 1.3 × 0.7 = 910万 どちらも同じです。掛け算は順番を入れ替えても答えが変わらないからです。 ...

August 6, 2026 · 2 min

就業不能保険は本当に不要か——保障は減らさず、期間を半分に削った話

筆者はこの数年、民間保険をかなり減らしてきました。終身医療保険、貯蓄型の保険——「何かあったときのため」で入っていたものを、公的保険と貯蓄で足りるかを1つずつ確かめながら整理してきた、という経緯です(詳しくは保険を大幅に見直した話)。 それでも残した保険はいくつかあります。掛け捨ての死亡保障、火災・地震保険、自動車保険の対人対物——そしてがん保険と、この記事のテーマである**就業不能保険(所得補償保険)**です。 このうちがん保険については、「不要」という考え方に筆者自身も同意しています。それでも続けているのは家族の事情による個人的な判断で、合理性だけで説明できるものではありません(その話は別の記事に書きました)。 一方、就業不能保険のほうは理屈で残した保険です。そして今回、保障額はそのままに、支払われる期間だけを大幅に短くするという手続きを取りました。 この記事は、その判断の過程を整理したものです。特定の商品をすすめる話ではありません。「公的保険で足りない部分はどこか」「そこは貯蓄で賄えないのか」を順番に確かめる考え方を共有したいと思います。 1. なぜ「就業不能保険は不要」と言われるのか 理由はシンプルで、会社員・公務員には公的な給付があるからです。 病気やケガで働けなくなったとき、健康保険から傷病手当金が出ます。おおまかに言うと、標準報酬月額の3分の2が、通算1年6か月にわたって支給されます。しかもこれは非課税です。 さらに医療費のほうは高額療養費制度があり、自己負担には毎月の上限がかかります。つまり「病気になったら医療費で破産する」という状況は、日本ではまず起こりません。 この2つがある以上、多くの会社員にとって就業不能保険は優先度が低い——これはその通りだと思います。 ただし例外があります。自営業・フリーランスには傷病手当金がありません。国民健康保険にはこの制度がないためです。この場合は話がまったく変わります。 2. 公的保険には「時間の崖」がある 問題は、傷病手当金が1年6か月で終わることです。働けない状態がそれで治るとは限りません。むしろ、本当に困るのはその後です。 傷病手当金が切れたあと、収入の柱になるのは障害年金になります。しかしここには、見落とされがちな落とし穴があります。筆者はこの部分こそ貯蓄では受け止めきれないと判断し、保険でカバーすることにしました。 3. 最大の誤解:「働けない」と「障害年金が出る」は別の話 障害年金の等級は、1級・2級は「日常生活にどれくらい支障があるか」で判定されます。3級(厚生年金のみ)は「労働が著しい制限を受ける状態」とされていますが、これは一般的な労働能力を指すもので、その人が特定の職業を続けられるかどうかを見るものではありません。 これが何を意味するか。たとえば—— 手指に後遺症が残り、細かい手技ができなくなった 中等度の後遺症が残り、長時間の集中や当直に耐えられなくなった 精神疾患で、責任の重い判断業務に戻れなくなった こうした状態は、特定の職業を続けることは不可能でも、日常生活は送れるというケースがあります。この場合、障害年金は3級にとどまるか、等級に該当しないという結果になりえます。 つまり、**「専門職としての収入はほぼゼロなのに、公的給付は限定的」**という区間が生まれる可能性があるということです。 就業不能保険の固有の価値は、まさにここにあります。この種の商品の多くは、支払いの条件が**「その人が直前に従事していた業務に就けるかどうか」**という職業ベースで定義されており、障害年金とは別のものさしだからです。公的制度の隙間を埋められる、数少ない手段——それが筆者がこの保険を残した理由です。 4. ここで初めて「貯蓄で賄えるか」を計算する ただし、隙間があるという事実だけでは、保険に入る理由になりません。その隙間を貯蓄で埋められるなら、保険は不要だからです。これは保険を考えるときの一番大事な関門だと思っています。 計算はシンプルです。 (毎月の生活費 − 公的給付の見込み額)× 必要な年数 < 今ある金融資産 か? この式が成り立つなら、保険はいりません。成り立たないなら、その差額が保険で埋めるべき金額です。 筆者の場合、この計算をして分かったのは次のことでした。 生活費を大幅に圧縮したとしても、公的給付だけでは毎月かなりの取り崩しが必要になる その取り崩しペースだと、金融資産は数年で底をつく 一方、子どもの教育費が終わるのはまだ10年ほど先 つまり、「貯蓄で賄える」と言えるだけの資産がまだ完成していない——これが結論でした。**子どもが独立し、資産が十分に育てば、この保険は不要になります。**ですから今のこれは、その日までの橋渡しという位置づけです。 なお、この計算をするには「毎月いくら使っているか」が分かっている必要があります。家計簿と資産の一覧がないと、この関門は通れません。ライフプランの記事で書いたことと、ここでつながります。 5. 見直しのきっかけ:保険料は黙って上がる 必要な保障額が決まったところで、ここからが今回の見直しのきっかけです。 ある年の更新で、保険料が1.5倍になっていました。値上げの通知は来ていません。おかしいと思って料率表を確認したところ、原因が分かりました。 この種の保険は、5年ごとの年齢区分で保険料が決まっているのです。区分をまたぐと、自動的に次の単価に上がります。値上げではないので、通知されないわけです。 しかも上がり方が加速します。筆者の契約の料率表を確認すると、5年ごとにおよそ1.5〜1.7倍というペースでした。掛け算なので、放っておくと10年後、15年後の負担は相当なものになります。 これは契約時にまったく想定していませんでした。 加入時の保険料だけを見て「安いな」と判断していたわけです。 教訓:年齢区分制の保険に入るときは、加入時の保険料ではなく、料率表の全区分を見ること。20年後にいくら払うことになるのかを、最初に確認しておくべきでした。 6. 「払える額」からではなく「必要な額」から考える 保険料が上がったとき、最初に頭に浮かんだのは保障額を半分に減らすことでした。月々の給付額を半分にすれば、保険料もそのまま半分になります。 しかしこれは、「払える額から逆算する」という筋の悪い考え方でした。 **保険料が上がっても、働けなくなったときに必要な金額は1円も変わりません。**必要額は前の章で計算したとおり、生活費と公的給付の差で決まるものだからです。保険料が理由で保障額を半分にすれば、いざというときに生活が回らなくなる——それでは何のために払っているのか分かりません。 **保険もローンも、「いくらなら払えるか」ではなく「いくら必要か」から計算する。**お金の勉強で繰り返し言われることですが、実際に保険料が上がった場面では、あやうく逆をやるところでした。 そこで発想を変えました。必要な金額(保障額)は動かさず、「いつまで必要か」のほうを見直すという方法です。 この種の保険には「てん補期間」という設定があり、働けなくなったときに何年間支払うかを選べます。筆者の契約は「70歳まで」という最長の設定になっていました。これを10年間に変更したところ、保険料は約3割下がりました。 なぜこれが合理的かというと—— 保障額を削る = 毎月の不足額への備えを薄くする → 生活が成り立たなくなる 期間を削る = 長期化した場合への備えを薄くする → 「子どもが独立し、資産が完成した後は不要」という明確な根拠がある 同じ「保険料を下げる」でも、削っている対象がまったく違うわけです。後者には「いつまで必要か」という答えがあり、前者にはありません。 ...

July 29, 2026 · 1 min

【お金・生活】決まっていないことで不安にならないために——ニュースの語尾を見る習慣

「高齢者の医療費、3割負担へ」——こんな見出しを見かけたとき、多くの方が「そうか、3割になるのか」と受け取ると思います。 けれど、そのニュースのもとになった政府の文書を実際に開いてみると、書かれているのは**「見直しを行う」「そのための工程表を2026年末までに策定する」**という一文だけだったりします。割合も、開始時期も、対象者も、まだ何も決まっていないのです。 制度の話は、決まるずっと前から見出しになります。だから私たちに必要なのは、制度そのものを詳しく知ることよりも、「これは決まった話か、これから決める話か」を見分ける習慣のほうだと思っています。 この記事では、 実際の政府文書と見出しを見比べるとどう違うか 語尾で「決定度」を見分ける方法 語尾以外に確認したい3つのこと 医療のニュースでも同じことが起きるという話 を、家計を守る視点から整理します。 ※この記事は制度の是非を論じるものではありません。**どんな立場の方にも共通して役に立つ「読み方」**の話です。 1. 見出しと原文を並べてみる 2026年7月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026」(いわゆる骨太の方針)を例にします。高齢者の医療費窓口負担について書かれているのは、次のような内容です。 70歳以上の高齢者の医療費窓口負担割合について、低所得者等の必要な受診が確保されるよう適切に配慮することを前提として、原則3割となっている現役世代との間で年齢によらない真に公平な応能負担を実現する観点から見直しを行う。そのための改革工程表を2026年末までに策定する。 (出典:経済財政運営と改革の基本方針2026) この一文が記事になると、見出しはたとえばこんな形になります。 「高齢者の医療費、3割負担へ」 「70歳以上も3割負担 政府方針」 「医療費の負担増へ 骨太方針を閣議決定」 「年齢による優遇、見直しへ」 ※これらは実際に配信された特定の記事の見出しではなく、「こういう形になりやすい」という例として筆者が作ったものです。 どれも間違ったことは書いていません。それでも、原文と並べると受ける印象はかなり違います。 見出しから受ける印象 原文に実際に書かれていること 負担割合 3割になる 何割にするとは書かれていない 対象者 70歳以上の全員 低所得者等への配慮が前提条件として明記 時期 もうすぐ 2026年末までに「工程表」を作る段階 決定度 決定 これから制度設計をするという表明 短い見出しに収めようとすると、**まっさきに落ちるのが「前提条件」と「時期」**です。そして落ちた部分こそが、「それは自分に関係のある話か」を判断するために必要な情報だったりします。 2. 語尾を見る——これがいちばん速い 長い文章を読まなくても、文末だけを見れば決定度はかなり判別できます。行政の文書は、決定度によって語尾を意識的に使い分けているからです。 語尾・言い回し 決定度 読み方 「〜する」「〜から施行する」「公布された」 決定 日付と数字がセットで出てくる 「〜について結論を得る」 ほぼ確実 中身は未定だがやること自体は決定 「工程表を策定する」「見直しを行う」 未定 決まったのは段取りだけ 「〜を検討する」「〜の方向で調整」 未定 立ち消えになることもある 「〜へ」(見出しの体言止め) 不明 本文で語尾を確認する合図 とくに紛らわしいのが「〜へ」という見出しです。「3割負担へ」は、「3割負担になる」とも「3割負担を検討する」とも読めてしまいます。この体言止めを見たら、本文の語尾を確かめる——それだけで、受け取り方はかなり変わります。 3. 語尾のほかに、確認したい3つのこと ① 「いつから」が書いてあるか 開始時期が書かれていないニュースは、明日の話ではありません。制度が本当に変わるときは、必ず具体的な年月が示されます。逆に「2026年8月から」「2027年4月から」と書いてあれば、それは準備が必要な話です。 ...

July 23, 2026 · 1 min

「上がったから売る」は正解か——売り時を決めるのは株価ではなく「目的」

「NISAの含み益がかなり出ている。下がる前に、いったん売っておいた方がいいですか?」 株価が上がった局面で、必ず出てくる質問です。以前の記事で「投資は目的が決まって初めて手段が決まる」という買う側の話を書きましたが、今回はその続編——**売る側(利確)**の話です。 結論から言うと、この質問には株価をいくら眺めても答えが出ません。**売り時を決めるのは、株価ではなく「そのお金の目的」**だからです。 ※特定の銘柄・商品の売買を勧めるものではありません。投資にはリスクがあり、元本は保証されません。最終的な判断はご自身で。 「結構進んだので、降りた方がいいですか?」 お金の学びの場で、こんな例え話を見かけました。 電車に2時間乗って、結構進みました。そろそろ降りた方がいいでしょうか? ——と聞かれたら、誰でもこう聞き返すはずです。「どこに行く予定だったんですか?」 目的地が分からなければ、降りるべきかどうかは誰にも答えられません。投資もまったく同じです。投資は手段であって、電車やバスと同じ「乗り物」です。「結構増えたから売る」は、「結構進んだから降りる」と言っているのと同じで、目的地の確認が抜けています。 「下がる前に売っておきたい」という気持ちの正体は、多くの場合、そのお金が何のためのお金か決まっていない不安です。 医師として、この構図には見覚えがあります 「腫瘍が小さくなってきたので、治療をやめていいですか?」 外来でこう聞かれたら、私たちは治療のゴールを確認します。根治を目指す治療なのか、症状を抑えてQOLを保つ治療なのか——ゴールが違えば、「腫瘍が小さくなったからやめる/続ける」の答えは正反対になります。 途中経過の数字(腫瘍の大きさ・株価)だけでは、やめどきは決められない。ゴールが決めてくれる。——医療も投資も、この構図は同じです。 目的別に整理すると、答えはシンプルになる そのお金の目的 置き場所の考え方 数年以内に使う予定がある(学費・住宅・車など) 通貨(現金・預金)で持つ——支払いの直前に暴落が来ても困らないように 長期的に資産を育てる・維持する 株式(インデックス等)のまま持ち続ける——短期の上下に付き合わない 目的の金額にもう到達した 早めに利確して現金化するのは十分アリ 3行目が今日の主役です。たとえば「子どもの大学資金として500万円」が目標で、高校2年生の時点でもう500万円に到達したなら——残り2年の間に暴落が来るリスクを避けて利確するのは、まったく合理的な判断です。これは「上がったから売る」のではなく、「目的を達成したから降りる」。同じ売却でも、意味がまるで違います。 逆に、老後のための長期資産なら、含み益がいくらあっても目的地はまだ先です。途中下車して、また乗り直すタイミングを探す必要はありません。 「利回りがいいから売る」は、終わりのないゲームの入口 もうひとつ、注意したい売り方があります。「ずいぶん利回りが良かったから、いったん確定させよう」——一見堅実に聞こえますが、売って得た現金は、結局また次の投資先を探すことになります。 つまり「良いタイミングで売って、良いタイミングで買い直す」を繰り返す発想で、これは短期トレーダーの考え方です。プロでも勝ち続けるのが難しい世界に、気づかないうちに足を踏み入れることになります。長期の資産形成でインデックスを積み立ててきた人が、この入口をくぐる必要はありません。 筆者の場合——売り時は「先に」決めてある 筆者はライフプランを作る中で、お金を目的別に分けています。 数年以内に使うお金(教育費など):投資とは分離して、収入と預貯金から 長期のお金:インデックスで積み立てたまま、日々の株価は見ない 取り崩し:将来の生活費として「いつから・何のために」使うかを先に決めてある こうして売り時を「先に」決めておくと、株価が上がっても下がっても、やることが変わりません。「下がる前に売るべき?」という問いが、そもそも発生しなくなるのです。これは意思の強さの問題ではなく、設計の問題でした。 まとめ 「上がったから売る?」への答えは株価にはない。**「何のためのお金か」**が決める 数年以内に使うお金は通貨で、長期のお金は株式のまま——置き場所は目的で決まる 目的の金額に到達したなら、早めの利確は堅実な選択(「達成したから降りる」) 「利回りがいいから売る」は短期トレーダーの入口。長期投資家は付き合わなくていい 売り時は相場を見て探すものではなく、ライフプランの中で先に決めておくもの 腫瘍の大きさだけで治療方針が決められないように、株価だけで売り時は決められません。先にゴールを決める——買うときも、売るときも、順番はいつも同じです。 関連記事 目的が違えば、手段も違う——インデックス投資と高配当株の使い分け ライフプランは「人生の設計図×お金」——医師が実際に4ステップで作ってみた話 最期まで治療を続けることが、幸せとは限らない——「引き算の医療」という考え方 筆者:田舎の県庁所在地に住む医師。外科学会専門医・乳癌学会認定医。現在は乳がんの検診・診断と緩和ケアを専門に担当。医師になって20年。 お金の勉強はリベラルアーツ大学(リベ大)を参考にしています。

July 13, 2026 · 1 min

NISAだけでいい?iDeCoも併用?——分かれ道は「税率」と「出口」

NISAが拡充されて、「もうiDeCoは要らないのでは?」という声をよく聞くようになりました。一方で、「高所得者ほどiDeCoを使わないと損」という正反対の意見もあります。 どちらが正しいのでしょうか。答えは「人による」——なのですが、それで終わっては役に立ちません。この記事では、どこで答えが分かれるのか、その分かれ道を整理します。結論を先に言うと、分かれ道は2つ。**あなたの「税率」と「出口(退職金)」**です。 なお、筆者自身が「12月の限度額引き上げで増額すべきか」を悩んだ経緯は別記事に書きました。今回はその続編として、読者のみなさんが自分で判断するための軸をまとめます。 ※制度の内容は2026年7月時点のものです。税制・年金制度は変わることがあります。個別の判断は最新の公式情報をご確認ください。 まず構造を比べる——2つの制度は「非課税のかかる場所」が違う NISA iDeCo 入口(拠出時) 優遇なし 掛金が全額所得控除(税率分が戻る) 運用中 非課税 非課税 出口(受取時) 非課税 課税(ただし退職所得控除等が使える) 引き出し いつでも可 原則60歳まで不可 NISAは「出口が完全に非課税で、いつでも使える」制度。iDeCoは「入口で税金が戻る代わりに、60歳まで拘束され、出口は控除しだい」の制度です。 つまりiDeCoの損得は、**入口でどれだけ戻るか(=税率)**と、**出口でどれだけ非課税にできるか(=退職所得控除の空き)**で決まります。これが2つの分かれ道です。 分かれ道①:税率——入口で戻る金額が人によって全く違う iDeCoの掛金は全額所得控除なので、戻ってくる税金はその人の税率に比例します。 課税所得の目安 所得税+住民税の税率 月2.3万円(年27.6万円)拠出で戻る額 約200万円 約20% 年約5.5万円 約500万円 約30% 年約8.3万円 約900万円超 約43% 年約11.9万円 約1,800万円超 約50% 年約13.8万円 同じ掛金でも、戻る額には2倍以上の差があります。税率50%の人にとっては、「27.6万円拠出すると13.8万円戻る=実質手出し約14万円で27.6万円を非課税運用に回せる」計算になり、これは入口優遇のないNISAにはない効率です。 逆に税率が低い人は入口メリットが小さいので、「60歳まで引き出せない」という拘束のデメリットの方が相対的に重くなります。税率が低いうちはNISA優先、が素直な順番です。 分かれ道②:出口——退職所得控除は「空いているか」 iDeCoを一時金で受け取るときは退職所得控除が使えます。たとえば勤続38年なら約2,060万円まで税金がかからない大きな枠です。 ポイントは、この枠を勤務先の退職金と分け合うことです。 退職金がない・少ない人:控除枠が丸ごと空いている → iDeCoの出口はほぼ非課税にできる=iDeCoが最も輝く属性 退職金がしっかりある人:控除枠は退職金でかなり埋まる → iDeCoの受取に税金がかかりやすい。さらに2026年1月施行の**「10年ルール」**(iDeCo一時金と退職金の間隔が10年未満だと控除が調整される)で、受け取り時期をずらして両方の控除を使う戦略も難しくなりました 自分の勤務先に退職金制度があるか・いくらくらいか——iDeCoを増やす前に確認すべきは、実はここです。 2つの軸で整理すると、自分の位置が見える 出口が空いている(退職金なし・少) 出口が埋まっている(退職金あり) 税率が高い iDeCo併用の効率が最大。NISAと並行して活用を検討 入口は有利だが出口で課税。受け取り方の設計が必要 税率が低い 入口メリット小。まずNISAから NISA優先でシンプルに。iDeCoは無理に使わなくてよい そして、この表の手前に置くべき条件が2つあります。 数年以内に使うお金は、そもそもどちらにも入れない(売り時の記事で書いたとおり、近い支払いは通貨で持つ) 60歳まで触れなくて本当に困らないか——教育費・住宅などの大きな支出が控えている時期は、同じ非課税でも「いつでも出せるNISA」の価値が上がります よくある誤解——iDeCoは「節税」ではなく「課税の繰り延べ」 「iDeCoは節税になる」という表現には注意が必要です。正確には、入口の控除は確実ですが、出口は課税(控除しだい)——つまり課税を将来に繰り延べる制度です。 入口で戻った税金だけを見て満額に飛びつくと、出口で思わぬ税負担に驚くことになります。逆に、「60歳まで引き出せないから」と一律に避けるのも、税率と出口の条件がそろった人にとってはもったいない。どちらの極論も、自分の2軸を確認していない点で同じです。 筆者自身、この2軸に自分の数字を当てはめ直して、一度出した結論を変えました(その経緯はこちら)。制度の優劣ではなく、自分の税率と出口がどうか——結局はそこに戻ってきます。 まとめ NISAとiDeCoは優劣ではなく非課税のかかる場所が違う(NISA=出口・流動性、iDeCo=入口) 分かれ道①税率:高いほどiDeCoの入口メリット大。低いうちはNISA優先 分かれ道②出口:退職所得控除が空いている人(退職金なし・少)ほどiDeCoが活きる。退職金がある人は10年ルールに注意 手前の条件:近い将来使うお金はどちらにも入れない・60歳までの拘束に耐えられるか 「iDeCo不要論」も「iDeCo満額論」も、自分の2軸を見るまでは判断できない 関連記事 iDeCo、12月から限度額アップ——「上限まで上げるべき?」を医師の立場で考える 「上がったから売る」は正解か——売り時を決めるのは株価ではなく「目的」 目的が違えば、手段も違う——インデックス投資と高配当株の使い分け 参考 資産形成の基本(長期・積立・分散)|金融庁 NISA特設ウェブサイト 楽天証券「【2026年12月制度改正】iDeCoの加入可能年齢・拠出限度額が引き上げ」 auのiDeCo「退職所得が増税に?令和7年度税制改正により5年ルールが10年ルールに」 筆者:田舎の県庁所在地に住む医師。外科学会専門医・乳癌学会認定医。現在は乳がんの検診・診断と緩和ケアを専門に担当。医師になって20年。 お金の勉強はリベラルアーツ大学(リベ大)を参考にしています。 ...

July 13, 2026 · 1 min

年金は「繰下げれば得」とは限らない——増額の裏で増える税金と保険料

「年金は繰下げると増える。だから遅くもらうほど得」——最近よく聞く話です。たしかに、受け取り開始を遅らせると年金の額面は確実に増えます。でも、「額面が増えること」と「手取りが増えること」「家計として得をすること」は、実は別の話です。 この記事では、繰下げ受給の仕組みと、あまり語られない3つの注意点——手取りの目減り・加給年金のもらいそびれ・損益分岐点——を整理します。「繰下げはやめておけ」という話ではありません。仕組みを正しく知ったうえで、自分の場合はどうかを考えるための材料です。 1. 繰下げ受給とは——70歳で+42%、75歳で+84% 老齢年金は原則65歳から受け取りますが、申出により66歳以降75歳まで受け取り開始を遅らせることができます。これが繰下げ受給です。 増額率は1か月あたり0.7%。遅らせた月数分だけ一生涯の年金額が増えます。 受け取り開始 増額率 月15万円の人なら 65歳(原則) — 月15.0万円 70歳 +42% 月約21.3万円 75歳 +84% 月約27.6万円 「70歳まで待てば4割増、一生涯」——数字だけ見ると魅力的です。実際、長生きするほど繰下げは有利に働きます。ここまでは、よく紹介されるとおりです。 問題は、この「+42%」が額面の話だということです。 2. 落とし穴①:手取りは額面ほど増えない 公的年金は「雑所得」として課税対象です。そして、税金だけではありません。年金額が増えると、次のものが**連動して増える(または負担区分が上がる)**可能性があります。 所得税・住民税 国民健康保険料(75歳からは後期高齢者医療の保険料) 介護保険料 医療費・介護費の自己負担割合の判定(所得が一定額を超えると、窓口負担が1割→2割→3割と上がる仕組みがあります) 日本年金機構自身が、繰下げの注意点として「医療保険・介護保険の負担や税金に影響する場合がある」ことを挙げています。 つまり、額面が42%増えても、手取りの増え方はそれより小さくなるのが普通です。増えた年金が各種の判定ラインをまたぐと、税・保険料・窓口負担が段階的に増えるためです。どのくらい目減りするかは、その人の年金額・他の所得・住んでいる自治体によって大きく変わります。 「増額率」ではなく「手取りがいくら増えるか」で考える——これが繰下げを検討するときの出発点です。 3. 落とし穴②:加給年金の「もらいそびれ」 もうひとつ、知らないと数百万円規模の差になりうるのが加給年金です。 加給年金とは、ざっくり言うと年金版の家族手当です。厚生年金に20年以上加入した人が65歳になったとき、生計を維持している65歳未満の配偶者(または18歳年度末までの子)がいると、年金に上乗せされます。 項目 内容 主な条件 厚生年金の加入期間20年以上+65歳未満の生計維持配偶者 金額 配偶者の場合、特別加算を含めて年約28万〜42万円(2026年度。生年月日で異なり、現役世代に近いほど上限額) いつまで 配偶者が65歳になるまで ここで重要なのが、日本年金機構の次のルールです。 繰下げ待機期間(年金を受け取っていない期間)中は、加給年金額を受け取ることができません。また、加給年金額は繰下げによる増額の対象になりません。 つまり、老齢厚生年金を繰下げている間、加給年金は支給されず、あとから増えて戻ってくることもありません。純粋な「もらいそびれ」です。 たとえば配偶者が5歳年下の人が、厚生年金を70歳まで繰り下げると、本来5年間受け取れたはずの加給年金——最大で200万円前後——が消えます。配偶者が年下であるほど、この影響は大きくなります。 4. 意外と知られていない:基礎年金と厚生年金は「別々に」繰下げできる では、加給年金をもらいそびれずに繰下げの恩恵も受けたい場合はどうするか。 実は、老齢基礎年金と老齢厚生年金は、別々に繰り下げることができます。これは日本年金機構が明記している公式ルールですが、「繰下げか、しないか」の二択で語られがちで、意外と知られていません。 加給年金は老齢厚生年金に付くもの → 厚生年金は65歳から受け取って加給年金を確保し、基礎年金だけ繰り下げて増やす、という組み合わせが可能 もちろん、逆の組み合わせ(厚生だけ繰下げ)もできますし、そもそも両方65歳から受け取るのも選択肢です。「全部繰下げ」「全部65歳から」だけでなく、部品ごとに設計できると知っておくだけで、選択肢はぐっと広がります。 5. 損益分岐点と「何歳まで生きるか」 繰下げの損得を左右するもうひとつの要素が、受給期間です。 70歳まで繰り下げた場合、65歳から受け取った人に額面の累計で追いつくのは、おおむね**12年後(82歳ごろ)**です。ここまで見てきたとおり手取りベースでは増額の効果が薄まるので、実際の分岐点はもう少し後ろにずれる人が多いはずです。 一方で、厚生労働省の簡易生命表(2024年)によると、65歳時点の平均余命は男性約19.5年(約84.5歳)、女性約24.4年(約89.4歳)。平均的に生きれば分岐点を超える計算になりますが、これはあくまで平均です。 ここで大切なのは、**年金は「損得を競う金融商品」ではなく「長生きという不確実性に備える保険」**だという視点です。何歳まで生きるかは誰にも分かりません。だからこそ、「何歳で死ねば得か」の計算に深入りするより、長生きした場合に家計が破綻しない設計になっているかで考えるほうが、実りがあります。 6. どう考えるか——判断の順番 筆者も自分のライフプラン(作り方はこちらの記事に)を作る中で、年金の受け取り方を検討しました。そのとき役に立った考え方の順番は、こうです。 額面ではなく手取りで考える——「+42%」に飛びつかない 自分の加給年金の有無を確認する——厚生年金20年以上+年下の配偶者がいる人は要チェック。対象なら「厚生は65歳から・基礎だけ繰下げ」も検討 繰下げ中の生活費をどう賄うかを先に決める——繰下げは「その間、年金なしで暮らせる」ことが前提。就労収入や資産で賄えるかをライフプランで確認 正確な金額は自分の数字で——「ねんきんネット」や年金事務所で、自分の見込み額をもとに試算する なお、ネット記事には「繰下げは意味がなかった」「繰下げこそ正解」と、どちらかに振り切った見出しが多く見られます。実際には、有利かどうかは年金額・家族構成・他の所得・健康状態で人ごとに変わります。振り切った結論ほど、自分の条件に当てはめて疑ってみてください。 まとめ 繰下げ受給は1か月0.7%・70歳で+42%・75歳で+84%、額面は確実に増える ただし税金・国民健康保険料・介護保険料・窓口負担の判定が連動するため、手取りは額面ほど増えない 厚生年金の繰下げ中は加給年金(年約28万〜42万円)がもらえず、増額もされない——年下の配偶者がいる人は特に注意 基礎年金と厚生年金は別々に繰り下げられる——「全部か、ゼロか」ではなく部品ごとに設計できる 年金は損得を競う商品ではなく長生きに備える保険。手取り・家族構成・生活費の見通しから、自分の場合を考える 参考情報 ...

July 13, 2026 · 1 min

ライフプランは「人生の設計図×お金」——医師が実際に4ステップで作ってみた話

「将来のお金、なんとなく不安」——収入の多い少ないに関係なく、この感覚を持っている人は多いと思います。実は医師も例外ではありません。筆者自身、家計簿と資産の一覧はつけていたのに、「で、結局このままで大丈夫なの?」という問いには長く答えられずにいました。 その答えを出してくれたのがライフプランです。この記事では、ライフプランとは何か、作るとどんな良いことがあるのか、そして筆者が実際にやってみた4つのステップを紹介します。 1. ライフプランとは——「人生の設計図」を「お金」に落とし込んだもの ライフプランという言葉は保険の営業などでもよく使われますが、中身はシンプルです。 「どう生きたいか」という人生の設計図に、「いつ・いくら必要か」というお金の情報を紐づけたもの——それがライフプランです。 ポイントは2つあります。 人生の価値観が入っていること:どんな仕事をしたいか、どこに住みたいか、子どもの進学、何歳まで働くか、老後はどう暮らしたいか 具体的なお金に落とし込まれていること:「いつか家を買いたい」ではなく「◯歳で◯千万円の家を買う」まで具体化する お金の裏付けのない計画は、残念ながら願望のままで終わりがちです。逆に、金額と時期がセットになった瞬間、計画は「実行できるもの」に変わります。 2. 作るメリットは3つ 筆者が実際に作って感じたメリットは、次の3つに集約されます。 メリット どういうことか 漠然とした不安が消える 「いつ・いくら必要か」が見えると、正体不明だった不安が「対処できる課題」に変わる 罪悪感なくお金を使える 必要額が確保できていると分かれば、旅行や体験にも気持ちよくお金を出せる 見直すたびに人生が良くなる 定期的に見直すとき、わざわざ悪い方向に直す人はいない。見直し=上方修正になる 特に2つ目は想像以上でした。筆者は家族旅行や子どもの体験にお金を使うことを大切にしたいのですが、以前は「使ってしまって大丈夫か」というブレーキが常にかかっていました。ライフプランを作ってからは、「ここまでは使っていい」という線が見えるので、迷いなく使えるようになりました。 3. 実際に作ってみた——4つのステップ ライフプランに決まった書式はありません。ただ、一般的には次の4ステップで作ると迷いません。筆者もこの順番で作りました。 STEP1:どう生きたいかを書き出す まず、お金の計算は一切せずに、やりたいこと・大切にしたいことを紙1枚に書き出します。「◯歳までに家族で北海道へ行く」「◯歳からは働き方を変える」——いわゆる「やりたいことリスト(バケットリスト)」です。 筆者はこれを年代別(40代でやること、50代でやること……)に整理しました。ここが一番楽しい作業です。 STEP2:収支表と資産の一覧を作る 次に、家計の現在地を確認します。 収支表:毎月の収入と支出。家計簿アプリ(マネーフォワードMEなど)を使っていれば、そのまま流用できます 資産と負債の一覧:預金・投資・保険などの資産と、住宅ローンなどの負債を一覧にしたもの ここで「毎月の収支が赤字」「負債が資産を上回っている」ことが分かったら、将来の計画より先に、まず現在地の立て直しが必要というサインです。 STEP3:ライフイベント表を作る STEP1で書き出したやりたいことに、時期と金額をつけて一覧にします。子どもの進学、車の買い替え、家の修繕、記念の旅行——「何歳のときに・何が起きて・いくらかかるか」が1枚で見える表です。 日本FP協会が無料の記入シートを公開しているので、手書き派の方はこれで十分です:便利ツールで家計をチェック(日本FP協会) 筆者の場合、ここで教育費の総額と行きたい旅行の費用を具体的な数字にしました。「思っていたより旅行費を低く見積もっていた」ことに気づけたのも、この表のおかげです。 STEP4:キャッシュフロー表を作る 最後が、毎年の収支・貯蓄残高・ライフイベントを1つの表にまとめたキャッシュフロー表です。「◯年後は進学と車の買い替えが重なって赤字になるが、貯蓄でカバーできる」といった未来の到達予想が見えるようになります。 正直、数字だらけで一番ハードルが高いステップです。ここまでできなくても、STEP3のライフイベント表まで作れば十分に価値があります。毎月の収支が黒字で、資産が増えていて、いつ・いくらの支払いが来るか分かっている——それだけで家計管理としてはかなり上位のレベルです。 筆者はSTEP4まで作ってみて、「◯歳で完全リタイア」は難しいが、働き方を調整すれば十分やっていけることが数字で分かりました。漠然と「早く辞めたい」と思っていた頃より、いまの仕事に向かう気持ちはむしろ軽くなっています。 4. 病気になったときこそ、ライフプランが効く このブログは乳がん・緩和ケアがテーマなので、最後にこの視点を。 がんと診断されると、治療費・仕事・家族の生活と、お金の不安が一気に押し寄せます。そのとき、家計の現在地(STEP2)が把握できている家庭とそうでない家庭では、落ち着きがまったく違う——外来でご家族と話していて、そう感じることがあります。 治療費そのものは高額療養費制度で上限があります(2026年8月からの改定には注意) 一方で、収入の変化や交通費・生活の支出は、家計の全体像が見えていないと判断がぶれます ライフプランは元気なうちに作るものですが、効果を発揮するのは想定外のことが起きたときです。健康なうちの1〜2日の作業が、いざというときの家族の判断力になります。 まとめ ライフプランとは、人生の設計図をお金に落とし込んだもの 作るメリットは「不安の解消」「罪悪感なくお金を使える」「見直すたびに上方修正」の3つ 作り方は4ステップ:①やりたいことを書き出す → ②収支表と資産一覧 → ③ライフイベント表 → ④キャッシュフロー表 STEP3まででも十分。完璧を目指すより、まず1枚書いてみる お金も時間もほとんどかからず、失うものがない割に、得られる安心は大きい——筆者が実際に作ってみた率直な感想です。 筆者:田舎の県庁所在地に住む医師。外科学会専門医・乳癌学会認定医。現在は乳がんの検診・診断と緩和ケアを専門に担当。医師になって20年。 お金の勉強はリベラルアーツ大学(リベ大)を参考にしています。

July 11, 2026 · 1 min