【お金・生活】ダブルケア——介護と子育てが重なるとき、抱え込まないための考え方

**「ダブルケア」**という言葉をご存じでしょうか。子育てと、親の介護が、同じ時期に重なる状態のことです。 晩婚化・晩産化が進み、子どもがまだ手のかかる年齢のうちに、親の介護が始まる——そんな家庭が、確実に増えています。仕事を持ちながらであれば、なおさら大変です。 私は医師として、患者さんのご家族がこの状況に直面する場面を、数多く見てきました。そして、私自身も、家族を支える時期を経験して、痛感したことがあります。それは—— 「全部、自分で抱えよう」とすると、いちばん先に、支える側が倒れる ということです。 この記事では、介護と子育てが重なったときに、抱え込まずに乗り切るための考え方を、医師として、そして一人の家族として整理します。まじめで責任感の強い方ほど、読んでいただけたらと思います。 1. まず、「自分が主治医をやめる」 医療にたずさわる人ほど、そして親思いの人ほど、親のケアまで自分でやろうとしてしまいます。通院の判断も、段取りも、全部自分で。 でも、そこは思い切って、プロと制度に「主治医役」を渡しましょう。 地域包括支援センターに相談する(介護の最初の窓口です) 要介護認定を、早めに申請する ケアマネジャーに、「もう自分だけでは限界です」と正直に伝える 「まだ大丈夫」と粘っているうちに、共倒れになるのが最悪のパターンです。制度は、使うために用意されています。早めに頼るのは、負けでも手抜きでもありません。 2. 「自分にしかできないこと」以外は、仕組みに手放す 次に考えたいのが、**「気合いで回す」のをやめて、「仕組みに置き換える」**ことです。 世の中には、頼れるサービスがたくさんあります。 介護保険のサービス(訪問介護・デイサービス・ショートステイ) 訪問看護/介護タクシー/通院の付き添い代行 家事代行・宅配・作り置きサービス 子ども側では、病児保育・ファミリーサポート・送迎サービス・シッター 「これくらい自分でやらないと」と思う気持ちは、いったん脇に置きましょう。あなたにしかできないこと(そばにいる、話を聞く、決断する)に集中し、それ以外はどんどん手放す。これが、長く続けるコツです。 3. 罪悪感は、「外部サービス代」に変えていい とはいえ、多くの方が、ここでブレーキを踏みます。 「他人にお願いするなんて、親不孝では」 「お金で解決するようで、気が引ける」 その気持ち、とてもよく分かります。でも、あえて言わせてください。 お金で時間と安全を買うことは、家族みんなの笑顔を守るための、いちばん正しい投資です。 サービス代を惜しんで、あなたが疲れ果ててしまえば、介護も育児も、仕事も続きません。罪悪感は、サービス代に変えていい。それで家族が穏やかに過ごせるなら、そのお金は「浪費」ではなく「投資」です。 日々の節約はもちろん大切ですが、ここぞという場面で「時間を買う」判断ができるかどうか。これは、家計管理のいちばん大事な使いどころだと、私は思っています。 4. 倒れる前に、職場へSOSを そしてこれは、医師である自分自身への戒めでもあります。責任感が強い人ほど、限界まで一人で粘ってしまう。 でも、冷静に考えれば、**最大のリスクは「支える本人が倒れること」**です。あなたが倒れたら、介護も育児も仕事も、すべてが止まります。 当直の免除や軽減 時短勤務、外来中心への切り替え こうした相談は、わがままではありません。「長く働き続けるためのリスク管理」です。 職場に伝えるときは、「家庭の事情で」とぼかすより、具体的に伝えるほうが理解を得やすいです。 「子どもの急な発熱と、親の通院が重なり、月に数回、予定の変更をお願いするかもしれません」 介護は、いつか誰もが直面すること。具体的に伝えれば、意外と理解は得られます。 そして、もし——具体的に伝えても、まったく理解が得られない職場であれば。そのときは、転職活動をして、職場を変えるのも、れっきとした選択肢です。 少し厳しい言い方になりますが、「人が一人抜けても仕事が回るようにする」のは、本来、管理者の仕事です。その体制を作らずに、いざというとき現場が回らなくなる——そういう職場のあり方こそ、私は無責任だと思います。「自分がいないと回らない」と感じるのは、責任感の裏返しでもありますが、その体制ができていない職場に勤め続けることを選んでいるのも、また自分自身だ、ということは、心のどこかに置いておいてよいと思います。 「自分の代わりなんている」と思われるのは、しゃくかもしれません。でも、代わりがきく仕組みを整えておくことこそ、プロの責任です。あなたが背負い込むことで、かろうじて成り立っている職場なら、その関係を見直す勇気も、ときには必要です。 5. いちばん守るのは、「子どもと、自分の余裕」 最後に、優先順位の話です。 介護と育児がぶつかったとき、私は**「子ども」と「自分の心の余裕」を優先していい**と考えています。少し冷たく聞こえるかもしれませんが、理由があります。 子どもには、親であるあなたしかいません 一方、親の側は大人で、お金や制度で対応できる部分が多い そして何より、あなたに余裕がないと、その余裕のなさは、いちばん弱い子どもに向かってしまう。イライラして、つい強く当たってしまう——これは、誰にでも起こりうることです。 だからこそ、自分を追い込みすぎない。仕組みとお金と職場の協力を使い倒して、子どもと穏やかに過ごせる余白を、なんとか確保する。それが結局、家族みんなを守ることにつながります。 補足:これは、あくまで筆者の考えです ここまで「手放す」「頼る」を中心に書いてきましたが、最後に、一つだけ但し書きを。 これは、あくまで私個人の参考意見です。 自分自身の手で、親を看る——そのことに、お金や制度では決して代えられない、計り知れない意味があるのも、また事実です。そばで支えた時間は、あとから振り返ったときに、かけがえのないものになります。それを選ぶ方の気持ちも、私はよく分かります。 私は、個人的には「抱え込むデメリットのほうが大きい」と感じているので、この記事はこうした方向性で書いています。でも、それが唯一の正解ではありません。 大切なのは、「自分で看る」ことと「頼る」こと、その両方のメリットとデメリットを、家族みんながちゃんと分かったうえで選ぶこと。そのうえでの選択なら、どの方向性も、等しく尊重されるべきだと思います。 まとめ 自分が主治医をやめる(地域包括支援センター・ケアマネに早めに頼る) 自分にしかできないこと以外は、仕組みに手放す 罪悪感は、外部サービス代に変えていい(時間と安全を買う投資) 倒れる前に、職場へ具体的にSOSを いちばん守るのは、子どもと、自分の心の余裕 ダブルケアは、頑張りだけで乗り切るものではありません。上手に頼り、上手にお金を使い、上手に手放す。それは、逃げでも甘えでもなく、大切な人と自分を守るための、賢い戦略です。 いま、まさに真っただ中にいる方へ。どうか、一人で抱え込まないでください。 ...

July 1, 2026 · 1 min

【お金・生活】健康診断の「20歳のときの体重」欄——あれ、何のためにあるの?

健康診断の問診票に、**「20歳のときの体重を書いてください」**という欄——見たことはありませんか? 「今の体重ならわかるけど、20歳のころなんて、正確には覚えていない」「そもそも、なんで昔の体重を聞くの?」——そう思った方は、少なくないはずです。私も先日、自分の健診でこの欄を見て、あらためて「よくできた質問だな」と感じました。 実はあの欄、思いつきでも、興味本位でもありません。きちんとした医学的な理由があります。この記事で、やさしく解説します。 ※本記事は2026年7月時点の一般的な情報です。ご自身の健康については、健診結果をもとに医療機関にご相談ください。 1. あれは、国が定めた「正式な質問」です まず、あの欄は、健診担当者が勝手に付け足したものではありません。 特定健診(とくていけんしん)——いわゆる**「メタボ健診」**——で使われる、国(厚生労働省)が定めた「標準的な質問票」の正式な項目です。具体的には、こう聞かれています。 「20歳の時の体重から、10kg以上増加していますか?」 全国どこの特定健診でも使われる、根拠のある質問なのです。 2. なぜ「今の体重」ではなく「20歳から」なのか ここがいちばん大事なところです。 健康のリスクを見るとき、「今、太っているかどうか」だけでなく、「若い頃からどれだけ増えたか」が、とても重要だと分かってきたからです。 同じ体重の人でも、 20歳のときから、ほとんど変わっていない人 20歳のときから、15kg増えた人 では、体の中で起きていること(内臓脂肪の蓄積など)が違い、将来の病気のリスクも変わってくるのです。「増えた量」が、隠れたリスクを映し出してくれる——だから、昔の体重を聞くわけです。 3. データで見ると、どれくらい違うのか 「本当にそんなに違うの?」と思いますよね。日本人を対象にした研究で、はっきりした差が出ています。 20歳から10kg以上増えた人は、メタボリックシンドロームの発症リスクが約2倍(ハザード比 2.02) 20歳から5kg以上増えた人は、糖尿病の発症が男性で約2.6倍・女性で約2.6倍(国立がん研究センターの大規模研究) 糖尿病診療ガイドライン2024でも、「今の体型」だけでなく「20歳からの体重の増え方」が発症リスクと強く関わる、とされています ちなみに、「20歳から10kg以上増えた」に当てはまる人は、男性の約半分(49%)、女性の約3割(29%)。特に50代前半が最も多い、と報告されています。決して珍しいことではないのです。 4. 「はい」だった人は、どうすればいい? もし「20歳から10kg以上増えている」に当てはまっても、それだけで病気が確定するわけではありません。あくまで、「気をつけたほうがいいですよ」というサインです。過度に落ち込む必要はありません。 大切なのは、次の2つです。 これから、さらに大きく増やさないこと すでに増えている人は、少しでも戻す方向を意識すること(急な無理なダイエットではなく、食事と運動の習慣を、少しずつ) 体重は、健康のバロメーターのひとつ。「若い頃から10kg以上増えていないか」を、ときどき自分でチェックするだけでも、立派な予防になります。 そして、これは家計の話にもつながります。生活習慣病は、いったん薬が必要になると、長い付き合い(=長い出費)になりがちです。**予防は、いちばん確実で、いちばん安上がりな『投資』**とも言えます。 まとめ 健診の「20歳のときの体重」欄は、特定健診の正式な質問(国が定めたもの) 理由は、「今の体重」より「20歳からの増加量」が、将来の病気リスクをよく映すから 20歳から10kg以上増でメタボ約2倍、5kg以上増で糖尿病約2.6倍というデータがある 当てはまっても病気確定ではなく、「気をつけるサイン」。これ以上増やさない・少し戻す 予防は、いちばん安上がりな投資 何気ない問診票の一項目にも、こうしてちゃんと理由があります。次の健診では、あの欄を、**「自分の20年間の通信簿」**くらいの気持ちで、ちょっと前向きに見てみてください。 あわせて読みたい 将来、医療費の自己負担が増える"意外な理由"——高齢者が"若返っている"という話 『2人に1人ががん』の落とし穴——現役世代の本当のがんリスク

July 1, 2026 · 1 min

【お金・生活】医師なのに、お金が足りない——高収入がかえって家計を崩す3つの落とし穴

「勤務医、年収◯◯万円でも生活が苦しい」——そんな話を、医師どうしの会話やネットで見かけることがあります。 世間の感覚からすれば「そんなに稼いでいて、何が苦しいの?」と思われるかもしれません。私自身、正直に言えば、かつては「なぜかお金が残らない」ことに、あまり無頓着でした。 でも、家計をきちんと見るようになって分かったのは、医師という職業には、高収入だからこそハマりやすい「お金が足りなくなる落とし穴」がある、ということでした。 この記事は、誰かを責めるためのものではありません。**私自身が「気づいて、家計管理を始めた側」**として、同じように感じている方——医師に限らず、収入が上がってきた方——と一緒に考えるための記事です。 落とし穴は、大きく3つあります。 落とし穴①:収入が上がると、生活も静かに膨らむ いちばん大きいのが、これです。**「ライフスタイルインフレ」**とも呼ばれます。 手取りが増えると、人は無意識のうちに、 少しいい家に住み 少しいい車に乗り 少しいい店で食べ 子どもの習い事や塾を、少しずつ増やす ——と、生活水準を静かに引き上げていきます。一つひとつは「これくらいいいだろう」という小さな判断でも、積み重なると固定費が大きく膨らむ。 やっかいなのは、同じくらいの収入の人たちと付き合う機会が増えることです。周りの生活水準に、知らず知らず引っぱられていく。 そして怖いのは、支出を上げきったところで、収入が下がる瞬間が来ることです。医師で言えば、異動、当直の減少、働き方改革による外勤の制限、開業や転職。上げた生活は、そう簡単には下げられません。ここで家計が一気に苦しくなります。 落とし穴②:「見栄」と「借りやすさ」という二重の罠 医師には、「先生は裕福なはず」という社会的なイメージがついて回ります。これが、二つの意味で家計を圧迫します。 一つは、見栄。「医師なのに」という視線を意識して、高いものを選んでしまう。あるいは「これだけ働いているのだから、自分へのご褒美くらい」と、気が大きくなる。学会や付き合いの出費も、断りにくい。 もう一つ、こちらのほうが実は危険なのですが——**社会的信用が高いために、大きな借金が「簡単に組めてしまう」**ことです。 数千万円〜1億円近い住宅ローン 高級車のローン 金融機関は喜んで貸してくれます。でも、「借りられる額」と「無理なく返せる額」は別物です。信用があるがゆえに、身の丈を超えた買い物へのブレーキが効きにくい。ここは、収入が高い人ほど強く意識したいところです。 落とし穴③:稼いでいるのに「支援」から外れ、教育費は重い 意外と見落とされがちなのが、制度の壁です。 収入が一定を超えると、さまざまな行政サービスや給付に「所得制限」がかかり、使えないものが増えていきます。「稼いでいるのだから当然」と言われればそれまでですが、手取りの実感としては「税・社会保険料でごっそり引かれ、さらに支援も受けられない」となり、額面ほどの余裕を感じにくいのです。 そこに、教育費が乗ります。自分自身が受験を勝ち抜いてきた医師は、子の教育に力を入れる方が多い。私立、塾、習い事——気づけば、月々の教育費は相当な額になります。子どもの人数が多ければ、なおさらです。 「高収入なのに余裕がない」の正体は、この「支援の外・重い教育費・高い税負担」の合わせ技であることが少なくありません。 では、どうするか——「バランスシート」で現在地を知る 暗い話が続きましたが、対策はシンプルです。まず、自分の家計の「現在地」を数字で把握すること。これに尽きます。 私がやっているのは、家計簿アプリを使って、 毎月の収入と支出(何にいくら使っているか) 資産と負債の全体像(いわゆるバランスシート) を、ざっくりでいいので定点観測することです。細かく完璧にやる必要はありません。「だいたいの流れ」が見えるだけで、判断が変わります。 面白いもので、「見える化」しただけで、無駄な支出は自然と減っていきます。「今までどれだけ無頓着に使っていたんだ」と気づくからです。実際、収入が下がった時期のほうが、かえって資産が増えていく——そんな話も、決して珍しくありません。支出をコントロールできれば、収入の増減に振り回されなくなるのです。 医師にとってのもう一つの強みは、定年後も細く長く働けること。慌てて無理をしなくても、収支を整えて長く働ければ、家計はちゃんと回っていきます。 まとめ——「稼ぐ力」と「守る力」は別のスキル ①生活は収入とともに静かに膨らむ(ライフスタイルインフレ) ②見栄と「借りやすさ」が身の丈を超えさせる ③支援の外・重い教育費・高い税負担の合わせ技で、額面ほど余裕がない 高収入は、それだけでは家計の安心を保証してくれません。「稼ぐ力」と、それを「守る力(使い方・管理)」は、まったく別のスキルだからです。 そして、守る力は、才能ではなく習慣です。家計を数字で見る——たったそれだけの一歩から始められます。私自身、そこから景色が変わりました。 「医師なのにお金が足りない」は、恥ずかしいことでも、特別なことでもありません。気づいた今日から整えればいい。そう思っています。 あわせて読みたい 保険を大幅に見直した話——『安心』は高くつく、という話 目的が違えば、手段も違う——インデックス投資と高配当株の使い分け

July 1, 2026 · 1 min

【お金・生活】医師の働き方改革で「外勤が消えた」——若手医師の減収と、どう向き合うか

「働き方改革で、外勤(アルバイト)ができなくなって、収入がガクッと減った」——若手の先生から、こうした声を聞くことが増えました。 2024年4月から始まった医師の働き方改革(時間外労働の上限規制)。これは、医師の健康と医療の安全を守るための、大切な改革です。一方で、その運用のなかで、大学などが労働時間の管理を厳しくし、外勤(いわゆる"バイト")を制限・禁止する動きが広がりました。 結果として、大学の給与だけでは生活が苦しい——特に、住宅ローンを抱えた若手にとっては、切実な問題になっています。月20万円もの収入減、という話も、決して珍しくありません。 私自身は、地方でキャリアの後半を歩む一人の医師です。若い頃の下積みも、収入の不安定さも通ってきました。その立場から、この「減収」とどう向き合うかを、お金とキャリアの両面で整理してみます。 ※本記事は2026年7月時点の一般的な情報です。制度の詳細や個別の事情は、勤務先や専門家にご確認ください。 1. まず、「時間軸」でとらえる いちばん伝えたいのは、今の収入だけを見て、人生設計を固めないでほしいということです。 研修医・専攻医の時期は、いわば**「将来のための投資期間」**です。この時期の収入が低めなのは、つらいけれど、ずっと続くわけではありません。専門医を取り、経験を積めば、状況は確実に変わっていきます。 だからこそ、今は「この一点の収入」で家計を組み固めてしまわないこと。キャリアの段階によって収入は変わる——この前提を持っておくだけで、目の前の減収への受け止め方が変わります。 2. 「環境を変える」という選択肢 収入は、努力の量だけでなく、**「どこに身を置くか」**で大きく変わります。 大学病院や基幹病院は、労働時間の管理が厳格になりがち 一方で、市中病院には、柔軟な運用のところもある 「医局に属していないと、やりたいことができない」という時代では、もうありません。実際、退局して一般病院に移り、給与が大きく増えたという話も、周囲でよく聞きます。非常勤やスポット勤務を組み合わせて、大学時代と同等以上の収入を得ている医師もいます。 もちろん、専門性や人脈を得るために大学に残る意味は大きい。ただ、**「今の環境が唯一の道ではない」**と知っておくことは、心の余裕につながります。 ひとつの考え方として——「大学は、お金を払ってでも学ぶ場所」と割り切る。専門性と人脈をしっかり身につけて、それをあとから一般病院で"給料"として回収する。そう捉えると、下積み期間の見え方も少し変わります。 上司の「残れ」には、生存バイアスがあるかもしれない もう一つ、頭の片隅に置いておいてほしいことがあります。 いま大学に残って上司の立場にいる人は、多くの場合、「残ることのメリットが大きい」と判断できた人たちです。逆に、「デメリットのほうが大きい」と感じた人は、すでに大学を離れています。 つまり、大学に残っている人からの「ここにいたほうがいい」というアドバイスには、“残って良かった人"の声だけが集まりやすいという偏り——生存バイアス——がかかっている可能性があります。 もちろん、その助言が間違いというわけではありません。ただ、“その場を去った人の声は、その場には残っていない”。この構造を知っておくと、アドバイスを鵜呑みにせず、自分の状況に引きつけて判断することができます。 3. 家計とローンは、「早めの相談」が効く 収入が減ったとき、いちばんやってはいけないのは、一人で抱えて先延ばしにすることです。 住宅ローンがきついなら、早めに銀行へ相談する(返済条件の見直しに応じてもらえることがあります) 固定費を見直す(保険・通信・サブスクなど) 生活水準を、いまの収入に合わせて調整する 配偶者の就労、余裕があれば副業(ライティングなど) そして、少し耳の痛い話も、あえて書いておきます。収入が不安定になりうる時期に、身の丈を超えた大きなローンを組むのは、リスクが高いということです。 住宅ローンは、「借りられる額」ではなく「無理なく返せる額」で、できれば金利の変動に振り回されにくい形で組むのが安心です。もしこれから家を考える若手の先生がいたら、収入が上下する可能性を織り込んで判断してほしいと思います。 4. 制度の「中でできる工夫」もある 環境を変える前に、いまの職場のなかでできることもあります。 宿直・日直の許可がある当直であれば、休息時間の条件を満たすことを示して、外勤として申請できる場合がある 同僚と一緒に、医局長などを通じて、上長に相談してみる 「制度だから仕方ない」とあきらめる前に、運用の余地がないかを確認する。一人で動くより、同じ立場の仲間と声を合わせるほうが、話は進みやすいものです。 5. 構造を直視しつつ、「自分で決められること」に集中する 最後に、少し大きな視点の話を。 正直に言えば、公的な病院の多くは、医師の「やりがい」に支えられて(言い方を変えれば、やりがいに甘えて)成り立っている面があります。この構造は、法律や診療報酬といった大きな仕組みが変わらないかぎり、簡単には改善しないでしょう。見通しは、残念ながら厳しいと言わざるを得ません。 だからこそ、大事にしたい考え方があります。それは—— 自分の力が及ばないこと(法律・診療報酬・制度)に思い悩むより、自分の力が及ぶこと(どこで、どう働くか)に集中する 法律や診療報酬を、あなた一人の力で変えることはできません。そこに憤り、消耗するのは、エネルギーの使い方としてもったいない。 一方で、「自分がどこで働くかを、自分で選ぶ」ことは、あなた自身にできることです。制度の是非を嘆くより、自分でコントロールできる範囲に力を注ぐ——これは、しんどい状況を生き抜くための、現実的で強い姿勢だと思います。 まとめ 働き方改革による減収は、制度の過渡期に起きている構造的な問題。あなた個人のせいではありません 収入はキャリアの段階と環境で変わる。今の一点で人生設計を固めない **環境を変える(転職・非常勤)**のは、有力な選択肢 家計・ローンは早めに相談。そして身の丈を超えたローンは避ける 制度の中でできる工夫も探す 残った上司の助言には生存バイアスがかかりうる。鵜呑みにしない **自分で変えられないこと(制度)**より、**自分で決められること(働く場所)**に集中する 医師の働き方改革は、長い目で見れば、医師が健康に、長く働き続けるための改革です。過渡期のいまは、しわ寄せを感じる場面もあると思います。でも、収入の見通しは、動き方しだいで変えられます。どうか、目の前の一点だけで、将来を悲観しないでください。 あわせて読みたい 医師なのに、お金が足りない——高収入がかえって家計を崩す3つの落とし穴 保険を大幅に見直した話——『安心』は高くつく、という話

July 1, 2026 · 1 min

【お金・生活】将来、医療費の自己負担が増える"意外な理由"——高齢者が"若返っている"という話

「高齢者の医療費の自己負担が、これから増えるかもしれない」——そう聞くと、多くの方が思い浮かべる理由は、**「国の財政が苦しいから」**でしょう。 もちろん、それも大きな要因です。でも、最近の議論には、**もう一つの"意外な理由"**が加わってきています。それは—— 高齢者が、昔よりも「若返っている」から です。医師として、そしてお金の備えを考える一人として、これは知っておく価値のある話だと思うので、整理してみます。 ※本記事は2026年7月時点の公開情報(厚生労働省の統計や、社会保障をめぐる議論)をもとにした一般的な解説です。制度は議論の途中にあり、今後変わりえます。 1. そもそも、医療費は「高齢期」に集中している 前提として、押さえておきたい事実があります。 医療費は、人生の後半に大きく偏ってかかります。 日本人の生涯の医療費は、平均でおよそ2,500万円と推計されています そのうち、約半分は70歳以降にかかります 年齢で見ると、医療費全体の約6割が65歳以上に集中しています 若い頃はほとんど病院にかからなくても、年を重ねると、複数の病気を抱え、通院や入院が増えていく——現場で日々感じることでもあります。 高齢者の窓口負担が原則1割(現役並み所得の方などを除く)に抑えられてきたのは、「収入が減るから」だけでなく、**「医療費が多くかかる時期だから」**という理由もあったわけです。 2. “意外な理由”——健康寿命が延び、高齢者が若返っている ここからが本題です。 健康寿命——介護などを必要とせず、自立して日常生活を送れる期間——が、近年、着実に延びています。 2022年の健康寿命は、男性72.57歳・女性75.45歳 この十数年で、男女とも2歳前後、延びてきました つまり、同じ「80歳」でも、昔の80歳と今の80歳では、健康状態がかなり違うのです。イメージとしては、今の80代前半の方は、ひと昔前の70代後半くらいの元気さ、という感覚に近い。 すると、こういう議論が出てきます。 「高齢者が若返って、昔ほど医療がかからなくなっているのなら、負担割合を見直す余地があるのではないか」 「財政が苦しいから我慢して」ではなく、「元気になったのだから、応分の負担を」という理屈です。これが、冒頭で述べた"意外な理由"です。 3. 実際に、こんな動きがある(※議論段階です) 現に、社会保障をめぐる議論では、高齢者の窓口負担を引き上げる方向の提案が出ています。たとえば—— 「70歳以上も、原則3割負担にしては」という考え方 「75歳以上を2割負担に(一部は1割維持しつつ)、3割の対象も広げては」という提案 いずれもまだ決定ではなく、議論の途中です。ですから「こうなる」と断言することはできません。ただ、方向としては「自己負担が上がる側」に議論が進んでいる——これは、押さえておいて損はありません。 💡 こうした「まだ決まっていない話」は、見出しになると決定したように見えることがあります。政府の文書の"語尾"を見れば決定度が判別できる——その見分け方は、決まっていないことで不安にならないために——ニュースの語尾を見る習慣にまとめました。 4. 私たちへの含意——「上がる前提」で備えておく ここで大事なのは、政治や制度の是非を論じることではありません。自分と家族の家計を、どう守るかです。 考えておきたいのは、こういうことです。 今の30代・40代が高齢者になる頃、「今と同じ自己負担割合」だとは、思わないほうが無難 医療は年々進歩し、できることが増えます。それは素晴らしいことですが、その分、費用もかかる。そして、支え手である現役世代は減っていく。将来、高齢期の医療費の自己負担が今より重くなる——この可能性は、ライフプランの「支出側」に、あらかじめ見込んでおくのが現実的です。 だからこそ、 公的保険(高額療養費制度など)という強い土台を正しく理解したうえで 将来の自己負担増も見込んで、自分でも少しずつ備えておく(つみたてNISAなどでの資産形成) ——という「公助を土台に、自助で上乗せ」の発想が効いてきます。過度に不安がる必要はありませんが、「医療費は将来もっとかかるかもしれない」を前提に置くだけで、備え方が変わります。 5. まとめ 医療費は高齢期に集中する(生涯医療費の約半分が70歳以降) 高齢者の自己負担引き上げ議論には、財政難だけでなく**「健康寿命が延び、高齢者が若返っている」**という新しい理由が加わってきた 実際に負担増の提案が出ている(ただし議論段階) 今の現役世代が高齢になる頃、自己負担は今より重い可能性→ライフプランに織り込み、公助を土台に自助で備える 健康寿命が延びるのは、本来とても喜ばしいことです。「元気で長生き」を実現しながら、そのための費用にも備える——その両方を、冷静に見ておきたいですね。 あわせて読みたい 決まっていないことで不安にならないために——ニュースの語尾を見る習慣 7月末で使えなくなる健康保険証——あわてないための準備と『マイナ救急』の話 保険を大幅に見直した話——『安心』は高くつく、という話

July 1, 2026 · 1 min

【お金・生活】7月末で使えなくなる健康保険証——あわてないための準備と『マイナ救急』の話

「健康保険証が、もう使えなくなるって本当?」——最近、患者さんやご家族から、そんな声を聞くことが増えました。 結論から言うと、これまで使ってきた紙やカードの健康保険証は、2026年7月末で役目を終えます。8月からは「マイナ保険証」か「資格確認書」のどちらかが必要になります。 ただ、見出しだけ読むと不安になりますが、多くの方は、特別な手続きをしなくても困らないように制度が整えられています。慌てる必要はありません。 この記事では、 7月末で何が変わるのか 8月から何が必要なのか 多くの人は「待っているだけ」で大丈夫な理由 でも、高齢のご家族こそ早めに確認してほしいこと 医師として伝えたい「マイナ救急」という命綱 を、できるだけやさしく整理します。慌てず、でも高齢のご家族は一度確認を、がこの記事のポイントです。 1. 7月末で、何が変わるの? 順を追うと、こういう流れです。 これまでの健康保険証は、2025年12月に新しく発行されなくなり、原則として使えなくなりました ただし、急に切り替わると混乱するため、しばらくの間は**期限切れの保険証でも受診できる「暫定的な取り扱い」**が続いていました その暫定的な取り扱いが、2026年7月末で終わります つまり、2026年8月以降は、これまでの保険証では病院・薬局で「保険が効く形」での受診ができなくなるということです。 「自分はまだ古い保険証を財布に入れている」という方は、ここで一度立ち止まってください。8月からは、それ1枚では受診できなくなります。 2. じゃあ、8月から何が必要なの? 必要なのは、次のどちらか一つです。 マイナ保険証(健康保険証として使う登録をしたマイナンバーカード) 資格確認書(マイナ保険証を使わない人に交付される、保険証の代わりになる書類) 両方を用意する必要はありません。 どちらか一方があれば、これまでどおり保険が効く形で受診できます。 マイナンバーカードを持っていて、保険証として使う登録をしている方 → マイナ保険証でOK マイナンバーカードを持っていない、または保険証としての登録をしていない方 → 資格確認書を使う 3. 実は、多くの人は「待っているだけ」で大丈夫 ここが、いちばんお伝えしたい安心材料です。 マイナ保険証を持っていない方には、申し込みをしなくても、「資格確認書」が無料で自動的に届くしくみになっています。 ですから、 マイナンバーカードを持っていない 手続きはよくわからない という方でも、基本的には、手元に届く資格確認書を病院・薬局で見せれば、これまでどおり受診できます。「何もしないと無保険になってしまう」という心配は要りません。 過度に不安を煽る情報も見かけますが、制度としては「誰も取り残さない」形が用意されている——まずはここを押さえてください。 4. でも、高齢の親・ご家族こそ「今、一度チェック」を 安心とは言いましたが、油断していいわけではありません。特に、次のような方は、ご家族が一度確認してあげてください。 高齢のひとり暮らしの親 施設に入所している方、入退院を繰り返している方 郵便物の管理が難しくなってきた方 確認してほしいのは、シンプルに3つです。 マイナ保険証か資格確認書が、手元に届いているか(届いた郵便を「よくわからない書類」として放置していないか) 資格確認書に書かれた有効期限(資格確認書には期限があります) 次に受診する病院で、どちらを出せばよいかを本人と共有できているか 「親はちゃんとしているはず」と思っていても、届いた封筒の意味が分からず、しまい込んでしまっていることは珍しくありません。帰省や電話のついでに、「あの保険証の新しいやつ、届いてる?」と一声かけるだけで十分です。 5. 医師としてひとこと——いざというときの「マイナ救急」 今回の切り替えには、もう一つ、知っておいてほしいことがあります。**「マイナ救急」**という取り組みです。 ——と言われても、「聞いたことがない」という方がほとんどだと思います。それもそのはずで、これは2025年10月から全国の消防・救急で本格的に始まったばかりの、新しいしくみだからです。まだ広くは知られていません。だからこそ、ここで知っておく価値があります。 かんたんに言うと、救急の現場で、決められた手続きのもとに、マイナ保険証を通じて、その人の過去のお薬や受診の情報を、救急隊や医師が確認できるというものです。 救急の現場、そして私が専門とする緩和ケアの現場で、いちばん怖いのは—— 本人が話せず、付き添うご家族も「どんな病気で、どんな薬を飲んでいるか」を正確には知らない という状況です。これは、決して珍しいことではありません。意識がはっきりしない、苦しくて話せない、お薬手帳が見当たらない——そんなとき、「その人がどんな治療を受けてきたか」が分かるかどうかで、初動の判断が変わることがあります。 「マイナ救急」は、いざというときに、そのギャップを埋めてくれる命綱になり得ます。普段からマイナ保険証を使い慣れておくことには、家計とは別の、**「もしものときの安心」**という価値があると、現場の人間としては感じています。 (※この記事では、特定の患者さんの事例ではなく、一般的な救急・緩和ケアの現場感としてお伝えしています。) 6. まとめ——今日できる小さな確認 最後に、チェックリストです。 自分は マイナ保険証 か 資格確認書 のどちらを使うか決まっている 8月以降、財布の中の「古い保険証だけ」で受診しようとしていない 高齢の親・家族に、新しい書類が届いているか確認した 資格確認書の有効期限を見た (余裕があれば)マイナ保険証を一度使ってみた 制度の切り替えは、どうしても「難しそう」「面倒そう」と感じてしまうものです。でも、やることは「どちらか一つを用意する」だけ。そして、多くの方は待っているだけで資格確認書が届きます。 ...

June 29, 2026 · 1 min

【お金】目的が違えば、手段も違う——インデックス投資と高配当株の使い分け

「結局、どの投資がいちばんいいの?」 投資の話になると、必ず出てくる質問です。でも、この問いにはそもそも答えがありません。なぜなら、「何のために投資するのか(目的)」によって、選ぶべき手段がまるで変わるからです。 これは、医療とよく似ています。「いちばん良い薬は何ですか?」と聞かれても、「何を治したいか」が分からなければ答えようがないのと同じです。 この記事では、代表的な2つの手段——インデックス投資と高配当株投資——を、目的の違いから整理します。 ※特定の銘柄・商品を勧めるものではありません。投資にはリスクがあり、元本は保証されません。最終的な判断はご自身で。 まず「目的」を決める 投資の目的は、大きく3つに分けられます。目的が決まって初めて、手段が決まります。 目的 向いている手段 ひとことで 老後のための資産形成 インデックス投資 コツコツ・ほったらかしで増やす 今の生活を豊かにしたい 高配当株投資 配当という「不労所得」を得る 短期間で大きく増やしたい グロース株・FX等 ギャンブル性が高く、多くは勝ち残れない 3つ目(短期で大きく)は、多くの人にとっては手を出さない方が無難です。ここでは、現実的な選択肢であるインデックス投資と高配当株にしぼって比べます。 インデックス投資=「みんなで楽しむフットサル」 インデックス投資は、市場全体(たとえば全世界株や米国株)にまるごと連動する投資信託を、淡々と積み立てる方法です。代表が「オルカン(全世界株)」や「S&P500」です。 金融庁も、**「長期・積立・分散」**という資産形成の基本に最も合う方法として、初心者にすすめています(資産形成の基本|金融庁NISA特設サイト)。理由は明快で、 難しい知識がいらない(市場全体に乗るだけ) 手間がほぼゼロ(毎月自動積立で、あとはほったらかし) 低コスト 例えるなら、インデックス投資は**「みんなで楽しむフットサル(草サッカー)」**。ボールが一つあれば、難しい戦術も猛練習もいらず、誰でも気軽に始められて、長く続けられます。 一方で、インデックス投資は**「今の生活が、すぐ豊かになる」ものではありません**。お金は口座の中で増えていきますが、分配金として手元に入ってくるわけではない。あくまで未来の自分のための、長期の資産形成です。 高配当株投資=「11人制の公式戦」 高配当株投資は、配当をたくさん出す企業の株を持ち、配当金という"不労所得"を受け取る方法です。こちらは「今の生活を豊かにしたい」人向け。配当が定期的に入ってくる手応えは、インデックスにはない魅力です。 ただし——これは**「11人制の公式戦」。気軽な草サッカーとは違い、勝ちにいくには戦術・連携・相手分析**が欠かせません。具体的には、こんな"監督の仕事"が必要になります。 高配当株でやること サッカーでいうと スクリーニング(何千社から絞る) 大勢から選手をスカウトする 銘柄分析(1社1社の業績・財務) 各選手の能力を見極める ポートフォリオ管理(分散・業界バランス) フォーメーションを組む(FWからGKまでバランスよく) 決算チェック(四半期ごと) 試合ごとのコンディション確認 入れ替え(減配・不祥事・業績悪化) 調子を落とした選手をベンチへ・入れ替え つまり、高配当株投資は**「常に勉強」が前提**。インデックスの「ほったらかし」とは、必要な手間がまるで違います。やりがいは大きいですが、戦術なしでは勝てない試合なのです。 「順番」を間違えない ここが、いちばん大事なところかもしれません。高配当株は、資産形成の"目処"が立ってから——という順番です。 家計管理(無駄の見直し・生活防衛資金の確保・投資資金の捻出) インデックス投資(オルカン・S&P500等を淡々と積立) 稼ぐ力アップ(入金力=そもそも投資に回せるお金を増やす) ——ここまでで資産形成の目処を立てる—— 高配当株投資(目処が立ってからでOK) 土台(家計とインデックス)ができていないうちに、手間のかかる高配当株から始めると、足元が固まらないまま難所に挑むことになります。 どちらが「上」でもない 誤解してほしくないのは、インデックスと高配当株に優劣はないということです。目的が違うだけです。 未来のために増やしたい → インデックス 今の暮らしに配当を足したい → 高配当株 そして、**両方を持つ「二刀流」**も、もちろんアリです。土台はインデックスで作り、家計に余裕が出てきたら高配当株で配当を育てる——という組み合わせは、無理のない進め方です。 医師としての実感でも、これはがん治療の「個別化」と同じだと感じます。万人に効く唯一の正解はなく、その人の目的と状況に合わせて手段を選ぶ。投資も、まったく同じです。 まとめ 「どの投資がいい?」の前に、**「何のため?」(目的)**を決める インデックス投資=みんなで楽しむフットサル:誰でも・ほったらかし・長期の資産形成向き 高配当株投資=11人制の公式戦:戦術・分析が必要・今の生活を豊かにする配当向き 順番が大事:家計管理→インデックス→稼ぐ力→目処が立ってから高配当株 どちらが上でもない。目的次第。両方持つ二刀流もアリ ラクして儲かる話ではありません。でも、目的をはっきりさせて、自分に合った手段を、正しい順番で——これさえ守れば、投資は怖いものではなくなります。 ...

June 12, 2026 · 1 min

iDeCo、12月から限度額アップ——「上限まで上げるべき?」を医師の立場で考える

2026年12月から、iDeCo(個人型確定拠出年金)の拠出限度額が大きく引き上げられます。 「税制優遇があるんだから、上限まで上げるのが当然では?」 そう考える人は多いと思います。実際、医師向け媒体でもこの話題が議論になっていて、「上限まで上げる」派と「あえて上げない」派に、意見が分かれていました。 この記事では、改正の内容を整理した上で、両方の言い分と、私自身の結論を書きます。 【2026年6月12日 追記】 この記事の結論(「増額しない」)は、公開2日後にAIと家計を再点検した結果、変わりました。本文は当時の判断の記録としてそのまま残し、経緯は文末の追記に書いています。 2026年12月改正の内容 加入区分 改正前 改正後(2026年12月〜) 自営業者(第1号) 月68,000円 月75,000円(国民年金基金等と合算) 会社員(企業年金なし) 月23,000円 月62,000円 会社員(企業年金あり)・公務員 月20,000円 合算で月62,000円(DB等の掛金相当額を差し引いた額) あわせて、加入可能年齢も70歳未満まで拡大されます(改正前は65歳未満)。 企業年金なしの会社員なら月23,000円→62,000円と、2.7倍の引き上げです。年間にすると約74万円まで拠出できるようになります。 実際の引き落としは2027年1月分からです。掛金変更の手続きは加入している金融機関で行います。 「上限まで上げる」派の言い分 医師向け媒体での議論では、上限派の根拠はシンプルでした。 ①高所得ほど節税効果が大きい iDeCoの掛金は全額所得控除です。所得税・住民税の合計税率が50%の人なら、拠出額の約半分がその年の税負担減になります。 仮に月62,000円(年74.4万円)を拠出し、税率50%なら、年間約37万円の節税。これを「確実なリターン」と見るなら、これほど有利な投資はありません。 ②退職金がない人は出口でも有利 受け取り時には退職所得控除が使えます。勤務先に退職金制度がない(または少ない)人は、控除枠を丸ごとiDeCoに使えるため、出口の税負担も小さくできます。 また、控除を超えた分も「超えた額の半分にだけ課税」(2分の1課税)される仕組みなので、拠出時の節税と合わせればトータルでは得になりやすい——という意見もありました。 ③生活に支障がないなら上げない理由がない 掛け金を上げても家計に影響がないなら、税制優遇を最大限使うのが合理的、という考え方です。 「あえて上げない」派の言い分 一方で、慎重派の意見には具体的なリスクの指摘がありました。私が特に重要だと思った3点を挙げます。 ①制度が途中で変わるリスク iDeCoは60歳まで続く長い制度です。その間に、ルールが変わる可能性があります。 実際に、今年すでに起きています。2026年1月から、いわゆる**「10年ルール」**が施行されました。iDeCoを一時金で受け取った後に勤務先の退職金を受け取る場合、退職所得控除の調整対象となる期間が「前年以前4年以内」から「前年以前9年以内」に拡大されたのです。 これまで「60歳でiDeCo、65歳で退職金を受け取れば、両方で控除をフル活用できる」と言われていた出口戦略が、この改正で使えなくなりました。控除を満額使うには、受け取りを10年以上空ける必要があります。 拠出を始めた時点のルールが、出口まで続く保証はない——これは今回、現実になった話です。 ②出口で課税される可能性 iDeCoは「非課税」ではなく「課税の繰り延べ」の性格を持つ制度です。掛金を増やすほど受取額も大きくなり、退職所得控除や公的年金等控除の枠を超えれば、出口で税金がかかります。 勤務先に退職金がある人ほど、控除枠の取り合いになりやすく、この影響を受けます。 ③60歳まで引き出せない iDeCoは年金制度なので、途中の解約は原則できません。NISAや特定口座と比べて、流動性では完全に劣ります。 子どもの教育費、住宅、転職や独立、家族の介護——現役世代には、まとまったお金が必要になる場面がいくらでもあります。「節税になるから」と上限まで入れて、必要なときに動かせないのでは本末転倒です。 私の結論——現状維持で、上げない 実は私、以前は上限の月23,000円を掛けていました。「節税になるんだから上限まで」と、深く考えずに設定していた時期です。 それを変えたのは、リベ大(リベラルアーツ大学)の書籍『お金の大学』で資産形成の基本を学んでからです。掛金を月5,000円まで減額し、投資先も信託報酬の低い、全世界株式(オルカン)に近いインデックスファンドへ変更しました。 なぜ「ゼロ」ではなく「5,000円」なのか。これもリベ大で学んだ考え方です。 月5,000円は、iDeCoの制度上の最低掛金です。iDeCoは一度始めると原則やめられないため、続ける前提なら、これ以上は下げられません 掛金の拠出を止めて「運用だけ続ける」状態にすることもできますが、その場合も口座管理手数料は毎月かかり続けます。拠出を止めると所得控除のメリットがゼロになるので、手数料だけ払い続けることになります。最低額でも拠出を続けていれば、所得控除で手数料分は十分取り返せます つまり月5,000円は、「やめられない制度の中で、コスト負けせずに維持できる最小ポジション」なのです。 つまり私は、今回の改正で「上げるかどうか」を考える以前に、一度上限まで掛けた上で、あえて減らした側の人間です。12月以降も増額しないつもりです。 理由は、慎重派の意見とほぼ重なります。 第一に、流動性を優先したいから。 私の資産形成の主軸はNISA(インデックスファンド)と高配当株です。これらはいざというとき売却できます。iDeCoの節税メリットは理解した上で、「60歳まで一切動かせないお金」を増やすことには慎重でいたい。 第二に、出口のルールが読めないから。 10年ルールの施行を目の当たりにして、「20年後の受け取り時のルールは、今とは違うかもしれない」という前提で考えるようになりました。拠出時の節税は確実ですが、出口の優遇は確実ではありません。 誤解のないように書いておくと、iDeCoが悪い制度だとは思っていません。以前の記事でも書いたとおり、怪しい節税商品と比べれば、iDeCoは数少ない合理的な選択肢です。退職金のない方や、すでにNISAを使い切っていて流動性資金も十分ある方なら、上限まで上げる判断は十分合理的だと思います。 要は、「税制優遇があるから上限まで」と自動的に考えるのではなく、自分の流動性・退職金の有無・出口まで含めて判断するということです。 判断の整理——どんな人が上げるべきか あなたの状況 増額の考え方 NISAをまだ使い切っていない NISAが先。iDeCoの増額は急がない 退職金がない・少ない 増額のメリット大(出口の控除枠を使える) 退職金がしっかりある 10年ルールの影響を確認してから 近い将来、大きな出費の予定がある 流動性優先。増額は慎重に NISA満額済み・余剰資金も十分 上限まで上げる合理性あり まとめ 2026年12月から、iDeCoの拠出限度額が大幅引き上げ(会社員は最大月62,000円、自営業は月75,000円) 拠出時の節税効果は高所得者ほど大きく、税率50%なら拠出額の約半分が戻る計算 ただし「制度変更リスク」「出口課税」「60歳まで引き出せない」という3つの注意点がある 2026年1月施行の「10年ルール」は、制度が途中で変わることを示す実例になった 私は以前、上限の月23,000円を掛けていたが、『お金の大学』で学んで月5,000円に減額・低コストの全世界株式型へ変更した。流動性と出口の不確実性を重視して、12月以降も増額しない(※その後、結論を変更。文末の追記参照) 「優遇があるから上限まで」ではなく、NISAとの順番・退職金の有無・出口まで含めて自分の状況で判断を 【追記】AI(Fable 5)に相談したら、結論が変わった(2026年6月12日) この記事を公開して2日後、結論が変わりました。理由ごと、正直に書き残しておきます。 ...

June 10, 2026 · 1 min

「節税になります」に騙されない——高収入者が勧められやすい金融スキーム4つを比較する

「節税になりますよ」 この一言に、高収入者は弱くなりがちです。所得税率が高ければ高いほど、「税金を減らしたい」という気持ちは自然に強くなります。 しかし、節税を目的にした金融商品・スキームには、注意が必要なものが多くあります。 この記事では、高収入者(特に医師・士業・経営者)が勧められやすい節税スキームを4つ取り上げ、それぞれの実態を整理します。 まず前提——「節税」と「手取りを増やす」は別物 「節税になる=お得」ではありません。 節税とは税金を減らすことです。しかし、税金を減らすために元本を減らしたり、流動性(必要なときにお金を使える自由)を犠牲にしたりしていたら、本末転倒です。 本当に意味があるのは「税引き後の手取りが増えること」です。 この前提を持っていないと、「税金は減った、でも損した」という結果になりかねません。 ❌ ①法人終身保険(退職金代わり) スキームの概要 勤務先の法人が契約者、本人が受取人となる終身保険に、給与の一部を充てる形で積み立てます。退職時に退職金として受け取ることで、退職所得控除が使え、税負担を下げるという仕組みです。 保険会社の営業は「所得税率が高い方ほど効果的です」と説明します。確かに、所得税率55%の人が給与で受け取るよりも、退職金として受け取った方が手取りは増える——という計算上の理屈はあります。 問題点①:返戻率が低い 10年積み立てて返戻率93%、というケースが珍しくありません。 これは元本が7%減るということです。100万円積み立てたら93万円にしかならない。「節税効果で得をする」どころか、そもそも元本が削られています。 節税で増えた分より、元本の損失が上回るなら、節税の意味がない。 問題点②:資金がロックされる 10〜20年、途中解約すると大幅な元本割れが確定します。 人生では予期せぬ出費・転職・独立・家族の事情など、さまざまなことが起きます。10年以上、まとまった資金を動かせない状態は、リスクが高い。 問題点③:そもそも代替手段がある 給与で受け取り、税引き後の手取りでNISA(年360万円まで非課税)を満額積み立て、余剰資金を低コストのインデックスファンドで運用する。 この方法の方が、流動性・期待リターン・コストのすべての点で勝ります。 評価:❌ 基本的に不要 △ ②不動産投資(減価償却による節税) スキームの概要 物件を購入し、建物部分を減価償却費として計上することで、所得を圧縮します。所得税率が高い人ほど節税効果が大きくなります。 メリットがある場合 条件が良ければ、キャッシュフローが出ながら節税もできます。 注意点 現実には、以下のリスクがあります。 空室リスク(収入がゼロになる期間がある) 修繕費・管理費(想定外に高くなることがある) 出口(売却)が難しい(高値で売れない・そもそも売れない) 節税目的で紹介される物件は利回りが低いことが多い 特に「節税になります」と勧められる物件は、節税効果が前面に出ている分、収益性が二の次になっていることがあります。 不動産投資は、節税を目的にするより、収益性が成り立つかどうかを主軸に判断するべきです。収益が出る物件であれば節税はおまけ、というくらいの感覚が適切です。 評価:△ 内容・条件次第。節税目的だけで選ぶと危険 ✅ ③小規模企業共済 スキームの概要 個人事業主や小規模企業の役員向けの、公的な退職金制度です。毎月の掛金(最大7万円)が全額所得控除になります。 メリット 掛金全額が所得控除→所得税・住民税が減る 長期加入(20年以上)なら返戻率が100%を超える 廃業・退職時に一括受取可(退職所得控除が使える) 注意点 個人事業主か、会社役員でないと加入できない(一般の雇用者は対象外) 20年未満の解約は元本割れ 月額上限7万円(年84万円) 勤務医の場合、副業・個人事業主として開業届を出していれば加入できる可能性があります。 評価:✅ 加入条件が合えば有効な制度 △ ④経営セーフティ共済(倒産防止共済) スキームの概要 取引先の倒産に備えるための共済制度で、掛金を損金(費用)として計上できます。もとは中小企業・個人事業主向けの制度です。 注意点 2024年の税制改正により、解約後に再加入して節税目的で繰り返し使う方法には制限が加わりました。 節税目的で使うには本来の趣旨(取引先倒産リスクへの備え)から外れており、制度の恩恵が縮小しています。 評価:△ 2024年以降は活用の幅が狭まった。本来の目的がある場合のみ検討 ✅ ⑤iDeCo(個人型確定拠出年金) スキームの概要 ...

June 8, 2026 · 1 min

2027年スタート こどもNISA——子どもの教育資金に使える?医師家庭の活用シミュレーション

2027年、「こどもNISA」が始まる予定です。 0〜17歳の子どもが対象で、年間60万円まで非課税で投資できる制度です。18歳になると通常のNISA(つみたて投資枠)に移行します。 「医学部の学費、どうしよう」「子ども4人の教育費が心配」——子どもが多い家庭ほど、教育資金の準備は悩みどころです。 この記事では、こどもNISAの制度概要と、医師家庭ならではの活用の考え方を整理します。 注意:本記事執筆時点(2026年6月)でこどもNISAは制度設計中・2027年スタート予定です。詳細は変更になる可能性があります。最新情報は金融庁・証券会社のウェブサイトでご確認ください。 こどもNISAの基本 項目 内容 対象 0〜17歳(口座開設時点) 年間上限 60万円(月5万円) 非課税保有限度額 600万円 投資枠の種類 つみたて投資枠のみ 18歳以降 通常NISAのつみたて投資枠に自動継続(非課税保有限度額1,800万円) 引き出し制限 12歳〜18歳は入学金・授業料等の特定事由のみ ポイントは2つです。 ①0〜11歳は自由に引き出せる(12歳からは教育目的に制限) ②18歳以降は通常NISAへ自動継続——子ども自身がそのまま投資を続けられる シミュレーション:0歳から積み立てたら 年率4%で運用した場合の試算です。 積立期間 元本 運用結果(年率4%) 0歳〜10歳(10年) 600万円(上限到達) 約735万円 そのまま運用継続(18歳時点) — 約1,000万円 0歳から月5万円を積み立てると、10歳で上限の600万円に達します。その後も運用を続けると、18歳時点で約1,000万円になる計算です。 年率4%はあくまで仮定です。投資には元本割れのリスクがあります。 医師家庭の現実的な使い方 「月5万円」の原資をどう作るか 毎月5万円の積立は、家計への影響が小さくない金額です。現実的な原資として考えられるのは: 児童手当の全額投入 2024年10月から所得制限が撤廃され、医師家庭でも受け取れるようになりました。支給額は子1人あたり総額で約230万円(3歳未満1.5万/月・3歳〜中学生1万/月)。これを全額こどもNISAに入れると、月1〜1.5万円分をカバーできます。 祖父母からの贈与(暦年贈与) 年間110万円以内の贈与は非課税です。祖父母から孫へ年110万円を渡し、こどもNISAの原資にする方法があります。 ただし「毎年同じ時期に同じ金額を贈与する」と定期贈与とみなされるリスクがあります。金額・時期を変えるなどの工夫や、税理士への相談をおすすめします。 医学部進学を想定した試算 私立医学部の学費は6年間で2,000〜4,500万円程度、国公立でも350万円程度かかります。 こどもNISAで18歳時点に1,000万円を準備できれば、国公立医学部なら十分な備え、私立でも一部の足しになります。 子どもが多い家庭では、全員分を満額積み立てるのは難しいかもしれません。その場合は: 医学部・薬学部志望など学費が高い子どもを優先 積立額を調整して複数の子どもに分散 高校進学後は奨学金・教育ローンも視野に 注意点:引き出し制限と柔軟性 12歳から18歳までは入学金・授業料など教育目的のみ引き出せます。 この制限は、「教育資金としての用途を守る」という趣旨で設けられています。裏を返せば、進路変更・他の用途への転用はできません。 子どもの進路が決まる前から積み立てを始めることになるため、「絶対に教育に使う」と腹をくくった上で開始するのが適切です。 NISAはあくまで「手段」 NISAは非課税で投資できる「道具」です。目的が違えば、使う道具も変わります。 インデックス投資は、10〜15年以上先に使うお金の置き場所として適しています。短期間では元本割れのリスクがあるため、数年以内に使う予定のお金には向きません。 これは老後資金も教育資金も同じです。「何年後に使うか」によって、NISAが適切かどうかは変わります。 使い始めるまでの期間 NISAとの相性 3年以内 △(元本割れリスクあり) 5〜10年 △〜○(状況による) 10〜15年以上 ○(長期運用の効果が出やすい) 資金ロックをどう捉えるか ...

June 8, 2026 · 1 min