就業不能保険は本当に不要か——保障は減らさず、期間を半分に削った話
筆者はこの数年、民間保険をかなり減らしてきました。終身医療保険、貯蓄型の保険——「何かあったときのため」で入っていたものを、公的保険と貯蓄で足りるかを1つずつ確かめながら整理してきた、という経緯です(詳しくは保険を大幅に見直した話)。 それでも残した保険はいくつかあります。掛け捨ての死亡保障、火災・地震保険、自動車保険の対人対物——そしてがん保険と、この記事のテーマである**就業不能保険(所得補償保険)**です。 このうちがん保険については、「不要」という考え方に筆者自身も同意しています。それでも続けているのは家族の事情による個人的な判断で、合理性だけで説明できるものではありません(その話は別の記事に書きました)。 一方、就業不能保険のほうは理屈で残した保険です。そして今回、保障額はそのままに、支払われる期間だけを大幅に短くするという手続きを取りました。 この記事は、その判断の過程を整理したものです。特定の商品をすすめる話ではありません。「公的保険で足りない部分はどこか」「そこは貯蓄で賄えないのか」を順番に確かめる考え方を共有したいと思います。 1. なぜ「就業不能保険は不要」と言われるのか 理由はシンプルで、会社員・公務員には公的な給付があるからです。 病気やケガで働けなくなったとき、健康保険から傷病手当金が出ます。おおまかに言うと、標準報酬月額の3分の2が、通算1年6か月にわたって支給されます。しかもこれは非課税です。 さらに医療費のほうは高額療養費制度があり、自己負担には毎月の上限がかかります。つまり「病気になったら医療費で破産する」という状況は、日本ではまず起こりません。 この2つがある以上、多くの会社員にとって就業不能保険は優先度が低い——これはその通りだと思います。 ただし例外があります。自営業・フリーランスには傷病手当金がありません。国民健康保険にはこの制度がないためです。この場合は話がまったく変わります。 2. 公的保険には「時間の崖」がある 問題は、傷病手当金が1年6か月で終わることです。働けない状態がそれで治るとは限りません。むしろ、本当に困るのはその後です。 傷病手当金が切れたあと、収入の柱になるのは障害年金になります。しかしここには、見落とされがちな落とし穴があります。筆者はこの部分こそ貯蓄では受け止めきれないと判断し、保険でカバーすることにしました。 3. 最大の誤解:「働けない」と「障害年金が出る」は別の話 障害年金の等級は、1級・2級は「日常生活にどれくらい支障があるか」で判定されます。3級(厚生年金のみ)は「労働が著しい制限を受ける状態」とされていますが、これは一般的な労働能力を指すもので、その人が特定の職業を続けられるかどうかを見るものではありません。 これが何を意味するか。たとえば—— 手指に後遺症が残り、細かい手技ができなくなった 中等度の後遺症が残り、長時間の集中や当直に耐えられなくなった 精神疾患で、責任の重い判断業務に戻れなくなった こうした状態は、特定の職業を続けることは不可能でも、日常生活は送れるというケースがあります。この場合、障害年金は3級にとどまるか、等級に該当しないという結果になりえます。 つまり、**「専門職としての収入はほぼゼロなのに、公的給付は限定的」**という区間が生まれる可能性があるということです。 就業不能保険の固有の価値は、まさにここにあります。この種の商品の多くは、支払いの条件が**「その人が直前に従事していた業務に就けるかどうか」**という職業ベースで定義されており、障害年金とは別のものさしだからです。公的制度の隙間を埋められる、数少ない手段——それが筆者がこの保険を残した理由です。 4. ここで初めて「貯蓄で賄えるか」を計算する ただし、隙間があるという事実だけでは、保険に入る理由になりません。その隙間を貯蓄で埋められるなら、保険は不要だからです。これは保険を考えるときの一番大事な関門だと思っています。 計算はシンプルです。 (毎月の生活費 − 公的給付の見込み額)× 必要な年数 < 今ある金融資産 か? この式が成り立つなら、保険はいりません。成り立たないなら、その差額が保険で埋めるべき金額です。 筆者の場合、この計算をして分かったのは次のことでした。 生活費を大幅に圧縮したとしても、公的給付だけでは毎月かなりの取り崩しが必要になる その取り崩しペースだと、金融資産は数年で底をつく 一方、子どもの教育費が終わるのはまだ10年ほど先 つまり、「貯蓄で賄える」と言えるだけの資産がまだ完成していない——これが結論でした。**子どもが独立し、資産が十分に育てば、この保険は不要になります。**ですから今のこれは、その日までの橋渡しという位置づけです。 なお、この計算をするには「毎月いくら使っているか」が分かっている必要があります。家計簿と資産の一覧がないと、この関門は通れません。ライフプランの記事で書いたことと、ここでつながります。 5. 見直しのきっかけ:保険料は黙って上がる 必要な保障額が決まったところで、ここからが今回の見直しのきっかけです。 ある年の更新で、保険料が1.5倍になっていました。値上げの通知は来ていません。おかしいと思って料率表を確認したところ、原因が分かりました。 この種の保険は、5年ごとの年齢区分で保険料が決まっているのです。区分をまたぐと、自動的に次の単価に上がります。値上げではないので、通知されないわけです。 しかも上がり方が加速します。筆者の契約の料率表を確認すると、5年ごとにおよそ1.5〜1.7倍というペースでした。掛け算なので、放っておくと10年後、15年後の負担は相当なものになります。 これは契約時にまったく想定していませんでした。 加入時の保険料だけを見て「安いな」と判断していたわけです。 教訓:年齢区分制の保険に入るときは、加入時の保険料ではなく、料率表の全区分を見ること。20年後にいくら払うことになるのかを、最初に確認しておくべきでした。 6. 「払える額」からではなく「必要な額」から考える 保険料が上がったとき、最初に頭に浮かんだのは保障額を半分に減らすことでした。月々の給付額を半分にすれば、保険料もそのまま半分になります。 しかしこれは、「払える額から逆算する」という筋の悪い考え方でした。 **保険料が上がっても、働けなくなったときに必要な金額は1円も変わりません。**必要額は前の章で計算したとおり、生活費と公的給付の差で決まるものだからです。保険料が理由で保障額を半分にすれば、いざというときに生活が回らなくなる——それでは何のために払っているのか分かりません。 **保険もローンも、「いくらなら払えるか」ではなく「いくら必要か」から計算する。**お金の勉強で繰り返し言われることですが、実際に保険料が上がった場面では、あやうく逆をやるところでした。 そこで発想を変えました。必要な金額(保障額)は動かさず、「いつまで必要か」のほうを見直すという方法です。 この種の保険には「てん補期間」という設定があり、働けなくなったときに何年間支払うかを選べます。筆者の契約は「70歳まで」という最長の設定になっていました。これを10年間に変更したところ、保険料は約3割下がりました。 なぜこれが合理的かというと—— 保障額を削る = 毎月の不足額への備えを薄くする → 生活が成り立たなくなる 期間を削る = 長期化した場合への備えを薄くする → 「子どもが独立し、資産が完成した後は不要」という明確な根拠がある 同じ「保険料を下げる」でも、削っている対象がまったく違うわけです。後者には「いつまで必要か」という答えがあり、前者にはありません。 ...